モンゴル労働組合連合議長С.ガンバータルが無期限座り込み決行(2009年10月21日)

私見では、モンゴル現代史には3人の重要人物がいる。それは、С.ガンバータル(モンゴル労働組合連合議長)、С.デンベレル(モンゴル商工会議所会長)、С.バヤル(首相)である。

そのうちの一人、モンゴル労働組合連合議長С.ガンバータルは、2009年10月21日10時より、スフバータル広場で「無期限座り込み」を決行した。

その目的は、160万労働者の信任を受け、彼らの権利を擁護するためであって、
第一に、財務相バヤルツォグトが社会保険控除(給料の10%)をさらに3%引き上げようとしていることに反対する。
第二に、政府がこれまでの18歳までの子弟の健康保険料負担を廃止しようとしていることに反対する。
第三に、就業機会の拡大を要求する。
第四に、社会保険基金の2億9000万円を労働者に還元することを要求する(ウヌードゥル新聞2009年10月22日付)。

この要求は、かつてのバトザンダンらの開始した「健全な社会のための市民運動」などと異なり、一見地味な要求であるが、それは、歴史を支える人々(労働者)の生活の根幹に関わる要求である。

С.ガンバータルたちの要求には経緯があって、それを説明しなければならないだろう。

モンゴル労働組合連合は、2008年4月18日、デモ行進を行っていた(注:2008年9月11日にも)。その要求は、「物価値上がり阻止」や「社会保険料基金の有効活用」であった。

また、「外国人労働者とモンゴル人労働者の賃金格差の解消」などを要求した、ボローゴールド社労働者のストライキをもС.ガンバータルは支援してきた。

さて、上述の「社会保険料控除額」に係る「社会保険料基金の有効活用」というのは、「社会保険料控除額」は、国庫である「モンゴル国開発基金」に収納されている。С.ガンバータルの主張によれば、その資金の半分を市中銀行に貯金すれば、550億トグルグの利子を得ることができる。これは、中小所得者のアパート建設資金になる(労働新聞2008年11月21日付)。

ところが、国庫に納入された「社会保険控除額」が「有効」に活用されず、かえって、社会保険庁高官たちの不正使用に供されている、という(С.ガンバータル談)。このため、С.ガンバータルたちは、それを証明する資料37点を添付して、反汚職対策局に提訴した(ウヌードゥル新聞2007年10月13日付)。

一方これに対し、社会保険庁事務局長は、その事実を否定し、逆に、社会保険料基金は増えている、と述べた(ウヌードゥル新聞2007年10月14日付)。

これに業を煮やしたС.ガンバータルは、「無期限座り込み」を決行したのである。


(モンゴル労働組合連合議長С.ガンバータル。2009年10月24日、筆者写す)

(「座り込み」決行中。2009年10月24日、筆者写す)

(モンゴル労働組合連合の要求。2009年10月24日、筆者写す)

2009年10月22日、社会保障労働相、財務相連名の公式回答書がС.ガンバータルの元に届いた。労働組合連合側は、この回答が労働組合連合側の要求を満たしていない、とみた(ウヌードゥル新聞2007年10月23日付)。

今後の推移が注目される。(2009.10.25)

(追補)С.ガンバータルは、2009年10月27日、座り込みを中止し、政府側(ガンディー社会保障労働相、バヤルツォグト財務相)と交渉のテーブルに着いた。


(右側より、バヤルツォグト財務相、ガンディー社会保障労働相、С.ガンバータル労働組合連合議長。経営者側代表。労働新聞2009年10月30日付電子版より)

С.ガンバータルは、労働組合連合の要求事項を繰り返し述べ、政府側がなぜ労働組合側の要求を受け入れないのか、と抗議した。

政府側は、政務が多忙である、と答えた。

また、バヤルツォグト財務相は、(社会保険料の増額について)国際的慣習である、と答えた。

だが、今後、三者(労働組合、経営者、政府)がこの問題を協議し、政府が責任を持って対処することに合意した。

最後に、С.ガンバータルは、国政および地方政治レベルで労働組合および経営者の意見を政府が取り入れること、また、一般労働者の声を聞き入れるよう求めた。

政府側はそうすることを確約した。

それと同時に、政府側は、労働組合側が座り込みなどの強硬手段を執らないよう求めたが、С.ガンバータルは、自分たちの要求を政府側が聞き入れない場合は、今後も断固たる手段を執る、と述べた(労働新聞2009年10月30日付電子版)。

こうして、経営者側には若干不満が残るものの、労働者側の要求が政府に受け入れられようとしている。社会保険問題が労働者側の要求に沿った方向で解決されることは当然であろう。(2009.11.01)

(追補)С.ガンバータルは、今回の「座り込み」について、ウラーンバートル・タイムズ新聞のインタビューに応じて、自ら総括している。彼は、この「座り込み」が国民に社会保険問題の実態を知らせるのに役立ったこと、0〜18歳の社会保険料の国庫負担廃止を中止させ、継続させることを政府に約束させたこと、がその成果であった、と答えている(ulaanbaatar taims2009年12月11日付)。(2009.12.14)

(追々補)年金保険料控除額の支払いのための「組織(=企業)年金基金」が設立され、モンゴル労働組合連合(С.ガンバータル議長)、社会保障労働省(Д.ニャムフー副大臣)、ИНЕГ長(Г.ダバー)たちが、2010年2月23日、文書に署名した(ウヌードゥル新聞2010年2月25日電子版)。この「組織(=企業)年金基金」は、組織(企業)経営者、労働者、行政が年金保険料控除額をプールしておく部署で、その資金が銀行によって運用される。つまり、労働組合側の提起に沿ったものとなっている。С.ガンバータルらの運動の成果と言うべきであろう。(2010.02.27)

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