
ボローゴールド社労働者はハンガーストライキを実施(2009年6月2日)
ボローゴールド社の労働者たちは、2009年6月2日、ハンガーストライキを実施した。
(注:写真3葉とも、ウヌードゥル新聞2009年6月6日、9日、12日付電子版、写真記者Т.チムゲー撮影のものを再掲。「ボローゴールド」社は、セレンゲ・アイマグ、バヤンゴル・ソム、イフ・タミル・アムで金採掘。)
労働者側の要求は、1)賃金体系を世界水準の賃金規模に近づけること、2)外国人労働者とモンゴル人労働者の賃金格差を解消すること、であった。
一方、ボローゴールド社側は、そのハンガーストライキ行為を違法であるとして、ウランバトル市チンゲルテイ区裁判所(地方裁判所)に提訴した。
ボローゴールド金鉱は、1979年に開発され、現在、49トンの金産出がある。
ボローゴールド社は、「セントラゴールド」社100%株式所有の会社である(以上、ウランバートル・ポスト新聞2009年6月5日付より)。
この労働争議に対し、国家大ホラル(国会)自然環境・食糧農牧業委員会が作業グループを設置して(責任者Ж.エンフバヤル議員)、調査することになった(6月20日までに完了する予定)(ウヌードゥル新聞2009年6月3日付)。
さて、このボローゴール社労働争議は、モンゴル経済を象徴するものである。
モンゴル経済は、国家予算歳入の60%を形成する金・銅採掘からの収益によって成り立っている。しかもその採掘による収益の大半は、外国資本の手中にある。
その採掘許可は、
改正された「鉱山法」(2006年)に基づいて申請企業に付与される。この「鉱山法」は、不平等なもので、外部資本に有利なものとなっている。しかも、この許認可をめぐって、賄賂が横行していることは周知の通りである。
(後注:2009年前半期には、鉱山採掘権が5177件付与され、その内、42%が金、15%が石炭、13%が蛍石、19%が建設材料、11%がその他、となっている。また、281件が外資、1488件が在地資本、154件が合弁によるものである。ウランバートル新聞2009年6月12日付)
特に、外部資本による採掘操業中の鉱山では、このボローゴールド社労働者の要求にあるように、外国人従業員とモンゴル人労働者との賃金差が大きい。
従って、労働者側の要求は、「鉱山法」再改正要求である、といっても過言ではないであろう。
確かに、現行「鉱山法」の下では、会社側が提訴したこの裁判は、会社側に有利に進行するかもしれない。だが、このボローゴールド社労働者によるハンガーストライキ決行は、「鉱山法」改正を進める一石になる「偉大な」行動である。
付言すれば、ボローゴールド社のモンゴル人労働者たちは、「労働組合」を結成し、
モンゴル労働組合連合(議長С.ガンバータル)に加盟した(ウヌードゥル新聞2009年6月3日付)。これは、一歩前進である。(2009.06.07)
(追補)ハンガーストライキを決行している「ボローゴールド」社の7人の従業員は、6月9日、病状が悪化して、病院に収容された。彼らに引き続き、12人が彼らの行為を引き継ぐ予定であるという(ウヌードゥル新聞2009年6月10日付)。(2009.06.11)
(追々補)ボローゴールド社労働者によるハンガーストライキ決行について、「労働新聞」(2009年6月12日付)は以下のように伝えている。
ボローゴールド社労働者は、2009年5月26日からストライキに入った。
6月2日からは8人の労働者が(注:上記「ウヌードゥル新聞(2009年6月10日付)」では7人となっている)ハンガーストライキを決行した。
5月29日、ボローゴールド社労働組合と同労働者代表は、会社側と交渉した。その時、モンゴル労働組合連合議長С.ガンバータル、および経営者連盟副幹事と会談したが、合意に至らなかった。
(注:モンゴル労働組合連合議長С.ガンバータル。彼らは、「解雇反対」のスローガンを掲げている。2009年6月12日付「労働新聞」掲載の写真より)
ボローゴールド鉱山「投資契約」は、1998年に結ばれ、カナダ資本の「セントラゴールド」社がその「投資契約」を2002年に買い取った。
2004年3月から金採掘が開始され、2008年までに39.5トンの金を産出した。
2004年に378人の労働者が就業し、2008年にはその数が6000人に達した。
会社側とモンゴル人との「労働契約」は1年である。これはモンゴル国労働法に違反している(注:「労働契約」は無期限となっている)。
会社側は、13人の労働者を突然解雇した。労働者側はこれに反対して提訴し、勝訴した。
労働者側がストライキをする理由は、1)10年勤務の労働者を突然解雇したこと、2)他の国の労働者と比べて給料が1/4〜1/5であること、3)労働組合結成を禁止していたこと、である。
労働組合は、2004年に結成された。そのためそれを指導したБ.バヤラーが解雇された。
ボローゴールド社労働組合委員長И.トゥブシントグスは、「(モンゴルの他の分野の労働者と比べて)高給には感謝しているが、会社側は、労働組合の要求を聞き入れない」、と語っている。
モンゴル労働組合連合代表С.ガンバータルは、2009年5月29日、現地に急行し、さらに、「急進的改革」運動も彼らを支持し、この問題は、単にボローゴールド社だけの問題ではない、と述べた。
エネルギー・地質・鉱山部門労働者組合連合委員長С.ガンボルドは、「(解決方法は)二つある。一つは、(会社側が)要求通りの賃金を労働者に支払うこと、もう一つは、会社側が鉱山を放棄することである。モンゴルの鉱山は、モンゴル人のものである。会社側は裁判所に提訴した。これはよい結果をもたらさない。しかも、会社側(社長ジョン・カバコフ)は、労働者側を非難した」、と語った(注:斜字太字は筆者による)。
2009年6月5日、セレンゲ・アイマグ副知事たちが現地に来て、ハンガーストライキ決行者たちと会見した(以上、労働新聞2009年6月12日付より)。
政府は、2009年6月11日、ボローゴールド社に対し、「金採掘停止命令」と「3ヶ月間の採掘許可停止処分」を発表した(ウランバートル新聞2009年6月12日付)。
筆者も、ボローゴールド社労働者を支持するが、事態は流動的である。(2009.06.14)
(追々々補)・ボロー・ゴールド社に関する国家大ホラル(国会)作業グループは、2009年6月20日、その調査作業を終え、2009年6月24日に記者会見を行った。
それによると、ボロー・ゴールド社が金採掘を行っているセレンゲ・アイマグ、バヤンゴル・ソムの金鉱は、金採掘を終了してしまった。1998年7月に「投資契約」を結んだ(注:当時のエルベグドルジ民主同盟連合政権による)。以後、3年間免税され、次の3年間は50%免税された。これに加えて、輸出入関税免除、付加価値税10%軽減、という優遇措置が講じられた。さらに、環境汚染を引き起こしている(ウヌードゥル新聞2009年2月25日付)。
また、1)記録の不備(注:水銀などの化学物質の不正確な記録のこと)、2)不正な土地使用、3)不適切な操業があった(ウランバートル新聞2009年6月19日、26日付電子版)。
両者は、2009年6月16日、会社側が労働者側に追加給料を支払うことで合意した。それによって、労働者側は、2009年6月17日、ストライキを停止した。
なお、このストライキの影響で、セントラ・ゴールド社の株価が下がっていた(ウランバートル新聞2009年6月19日付電子版)。
こうして、「ボロー・ゴールド社問題」は、一応の収束をみたのだが、上述の通り、当時のエルベグドルジ民主同盟連合政権によって結ばれた「投資契約」の不平等性は、今後に解決すべき課題として残っている。(2009.06.30)
