ベーカー米元国務長官のアイバンホー・マインズ社のためのロビー活動(2006年03月20日)

「鉱山法」改正案が2006年4月5日から始まる国家大ホラル(国会)で本格的に審議される。この「鉱山法」改正案によって、外資への優遇措置が見直される見込みである。これに危機感を持った、モンゴルにおける代表的外資企業のアイバンホー・マインズ社は、この改正論議に反対している

アイバンホー・マインズ社は、業を煮やしたか、同社の法律顧問をしているJ.ベーカー米元国務長官に依頼して、モンゴル政府に圧力をかけてきた。

米国元国務長官J.ベーカーは、2006年3月18日、「個人の招待で」(注:招待状は駐米モンゴル大使Р.ボルドが書いた)モンゴルを訪問した(ウヌードゥル新聞2006年03月20日付、3月21日付、3月23日付、ウランバートル・ポスト新聞2006年03月23日付)。

そして、J.ベーカーは、2006年3月20日、М.エンフボルド首相と会見した。

彼は「トロント・メール」新聞を持参した。その新聞は、ジャルガルサイハン商工相が鉱山業収益の50%をモンゴル側が取得する、と報道していた。J.ベーカーは、「(この発言は)世界金融市場を困惑させた(注:アイバンホー・マインズ社の株価が下落し、株主が大損したということ)。アイバンホー・マインズ社は、これまでに3億ドルの資本投下を行ってきた。一方、モンゴル政府は何もしていない。」と述べた。

さらに、彼は、アイバンホー・マインズ社と「自動継続契約」(注:鉱山への資本投資者の支払う税金は、法律が変わっても、40〜50年間契約内容を変更しない、という資本投資者とモンゴル財務相との契約のこと。現在まで、1998年の中国資本「ツァイルト・ミネラル」社との、1998年の英国資本「ボロー・ゴールド」社との、2003年のカナダ資本の「ボムバト」社との、2005年の中国資本の「ガショーン・ソハイト」社との、4件の「自動継続契約」が結ばれている。商工副大臣ソドバータルの国会答弁より。ウヌードゥル新聞2006年04月15日付参照)を早期に結ぶよう「忠告」した(注:上記ウヌードゥル新聞[2006年03月21日付]は「強要した」という見出しを付けている)。

これに対し、М.エンフボルドは、「国家大ホラル(国会)は市場制度および投資家を尊重している」、と応じた。これは、同協定を「鉱山法」改正案の枠内で行おうとすることを意味する。これに対し、J.ベーカーは、外資への優遇措置を明記している、現「鉱山法」で行うよう要求した。

また、ベーカー側は、バガバンディ前大統領との会談において、「米国はモンゴルの第3番目の隣国」であるから、北東アジアの燃料・エネルギーに関する地政学研究を推進しよう、と提案した(注:モンゴルを米戦略の枠内に取り込もうということ)。

これを知った「急進的改革」運動(代表С.ガンバータル)は、政府がアイバンホー・マインズ社との「自動継続契約」を急いで結ぶことに反対した。彼らは、本件に関し行政裁判所に提訴する。政府が急いでいるのは、1)国家大ホラル(国会)で「鉱山法」改正が論議されていること、2)(政府高官や議員による)収賄の疑いが強いこと、のためである。そして、3)この契約の中身を研究者たちが検討すべきである、という。彼らによれば、4)アイバンホー・マインズ社は、「鉱山法」に規定された報告書(特に、埋蔵量、採掘のための技術的問題など)を提出していない、という(ウヌードゥル新聞2006年03月18日付)。

これは正当な意見である。

さて、J.ベーカーという人物は、ブッシュ(シニア)米国大統領府で国務長官(1989〜1992年)だった。彼は、1991年7月26日、モンゴルを訪問し、国家小ホラルと人民大ホラル合同会議で演説し、モンゴルを市場経済に強引に引き込んだ。

J.ベーカーの意図は実現されたかに見えた。だが、その後15年、モンゴルでは貧富の差が拡大し、貧困から脱却する一つの手だてとして、モンゴルの鉱物資源に対する外資優遇措置の見直し案が出てきたのであった。

J.ベーカーは、「モンゴル・マニア」を自称し、そのせいか、モンゴル人は彼をよく知っている。だが、今回の行動で、J.ベーカーに代表される外国投資家たちが、なぜモンゴルを市場経済に引きずり込んだか、その意図が明白になってきたのであった。モンゴル人の多くは資本主義に幻想を抱いているが、それは「幻想」に過ぎないことをベーカーの行動が示している。(2005.03.26)

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J.ベーカーの演説(1991年07月26日)
J.ベーカーの演説(1991年07月26日)