鉱山部門での二つの決定(共同組合所有化と民営化)(2011年3月30日)

約3年前(2008年)に実施された国家大ホラル(国会)議員選挙で、与党の人民革命党(注:現在は人民党と党名改称)が勝利したが、野党の民主党と連立政権を組んだ。それは、鉱山部門をテコとする国家発展戦略が全国民的課題である、ととらえた当時のС.バヤル首相(旧人民革命党党首)の提唱によるものであった。

この「国家発展戦略」は現在策定中であるが、このほど2つの政策決定が発表された。一つは、小規模鉱山発掘業者(注:ニンジャ)に関するものである。「ニンジャ」というのは、1990年代モンゴルでカンフー映画のビデオが広く視聴され、暗闇で素早く行動する(日本人)「忍者」が、鉱山の暗い坑道で(不法)採掘する個人採掘業者に見立てられ、「ニンジャ」とよばれるようになった。この「不法採掘」というのは、元来、モンゴルでは鉱山開発は国家事業として行われてきたが、1990年代にIMFを先導役にして資本主義が侵入してきて、企業体が解体させられ(注:民営化させられ)、個人(および外国投資家)の企業活動を活発化させようという政策がとられた。だが、その結果として、当初の期待に反し、モンゴルにおける企業体(ネグデル=農牧業協同組合、国営農場、および国営企業)が活動を停止し、経済混乱に拍車がかかり、貧困化が進行した。それらの分野の一つが鉱山部門であった。民営化(の失敗)により、生活の手段を失ったモンゴル人(牧民)は、放置された鉱山で私的に坑道を掘り進め、石炭や金、蛍石などを採掘(=盗掘)し始めた。この結果、自然環境が悪化し、このニンジャとよばれるようになった人々の生活状況も改善されなかった。

もう一つは、国家戦略鉱山に関するものである。モンゴルでは、近年、豊富な鉱物資源の大規模開発が内外の人々の注目を集めるようになった。このため、市民運動が2005年から2008年にかけて高揚し、「鉱山部門をモンゴル国民の手に」という主張が広く国民の間に行き渡り、欠陥があった(今もあるが)「鉱山法」が2006年に改正され、その結果、重要な諸鉱山が国家戦略鉱山に指定され、国家的規模で開発されることになった。こうして、南ゴビ地域にあるオユトルゴイ銅金鉱山やタバントルゴイ石炭鉱山の開発が国家的規模で開発されることになった。

まず、小規模鉱山発掘業者、いわゆるニンジャに関する政策について。

このほど、スイス開発局支援の下で、「小規模鉱山」開発計画が策定された。これは、その目的が、1)小規模鉱山に関する法整備を行うこと。2)ニンジャに正式な鉱山採掘権を付与し、保健に留意させ教育を施し、その結果、社会的地位を向上させること。3)自然環境破壊の進行を少しでも食い止めること、などである。その方策は、小規模鉱山採掘業者の「組合」の設立することである。また、そのための条件として、「安定操業と責任」をニンジャに義務づける。この方針で、現在、天然資源エネルギー省事務次官とスウェーデン開発局モンゴル駐在代表とが協議を行っている(ウヌードゥル新聞2011年3月30日付電子版)。

次に、С.バトボルド政府は、2011年3月31日、タバントルゴイ石炭鉱山の国家所有株(エルデネス・タバントルゴイ社所有)150億株をモンゴル国民各人に平等に分配する、と発表した(一人当たり536株)。その株価は、コークス石炭採掘および積み出しのためのインフラ(道路、鉄道、水、電気などの)整備、コークス石炭採掘および洗浄精錬という企業活動が軌道に乗った後、(国際)株式市場で決定される。現在、国内外投資企業、採掘事業者を選考中(注:競売入札になる。現在、日本を含め、10数企業体が応札を表明している。後述参照)(ウヌードゥル新聞2011年3月31日付電子版)。

さて、この二つの事項について解説したい。

まず、ニンジャの共同組合化について。

1997年ごろから出現した「ニンジャ」(注:前述の通り4〜5万人とも、10万人といわれる)の福利厚生に向けた「小規模鉱山支援」計画が2005年に立案された。ニンジャは、金1515kg、石炭52万1400トン、蛍石51.2トン(2005年)生産した。これは鉱工業生産全体の10%、400億トグルグを占める(ウヌードゥル新聞2006年4月11日、および2006年4月18日付)。

彼ら「ニンジャ」は、ウムヌゴビ、アルハンガイ、ウブルハンガイ、バヤンホンゴル、セレンゲ、トゥブ、ダルハンオール、ヘンティー、ゴビアルタイ諸アイマグで採掘活動を行っていた(ウヌードゥル新聞2007年9月5日付)

ニンジャは、金採掘で水銀を洗浄選別に用いるが、環境保全作業を伴わないため、河川を汚染させ、環境を破壊させている。それと同時に、ニンジャ自身の生活状況も劣悪化していく。更に、ニンジャ同士、あるいは地域住民(牧民)との争闘、ソム(=町)役場当局との紛争も引き起こされた(ウヌードゥル新聞2009年11月4日付)。

そこで、ニンジャに自然環境回復作業を行わせるべく、小口融資を供与し((ウヌードゥル新聞2008年2月16日付)、彼らを「ヌフルルル」すなわち共同組合に組織化し、社会保険に加入させることが検討されるようになった(ウヌードゥル新聞2008年5月27日付)。

そのためのパイロット計画として、トゥブ・アイマグのボルノール、セレンゲ・アイマグのマンダル、バヤンホンゴル・アイマグのブンブグル、バイドラグで、地域住民の意見、経験などをもとに、共同組合が設立された。彼らには給料も支払われた(約30万トグルグ)。この利点は、ニンジャが土地追い立ての恐怖がなくなることであった(ウヌードゥル新聞2009年4月30日付)。

このような経過を経て、このたびの「小規模鉱山」開発計画が策定・協議の運びとなったわけである。

ニンジャのための共同組合の組織化は、自然環境破壊を食い止め、ニンジャ自身の福利厚生を促進し、モンゴル国民の財産(地下天然資源)を守るのに重要な国家的施策である事は否定できないだろう。

次に、タバントルゴイ石炭鉱山の開発について。

現在、タバントルゴイ石炭鉱山で採掘を行っているのは2社ある。すなわち、一つは、タバントルゴイ社で、その51%の株がウムヌゴビ・アイマグ行政庁によって所有されている。もう一つは、エルデネスMGL社、96%の株が国家によって所有されている(ウヌードゥル新聞2009年12月2日付)。

政府は、2010年5月26日、タバントルゴイ石炭鉱山開発計画案を国家大ホラル(国会)に提出した(ウヌードゥル新聞2010年5月27日付電子版)。

この国家的所有のエルデネスMGL社は、その子会社として、「エルデネス・タバントルゴイ」社を設立し、その資本金を「エルデネスMGL」社が全額出資することになった(ウヌードゥル新聞2010年10月21日付および電子版)。

そして、この「エルデネス・タバントルゴイ」社がタバントルゴイ石炭鉱山の採掘・販売を行い、270万人の国民に平等に当社の株を無料で分配する、ということになったのである(ウヌードゥル新聞2010年6月9日付電子版)。

だが、モンゴルにはその開発資金がないため、広く国内外に出資者を募り、その競売入札に応札した企業体が採掘を行う。それに参加を表明している企業体は、モンゴル側がエルデネスMGL、外資側がPHPビリトン、ジンダル(インド)、ベイル(ブラジル)、ピーボディ(米国)、シェンホア(中国)、コペス(韓国)、ガスプロム(ロシア)、日本企業連合である(ウヌードゥル新聞2009年10月28日付)。

さて、この「モンゴル全国民(270万人)への株券支給」に関しては、かつて1990年代前半期に、ピンク・クーポン(注:元来レッド・クーポンにしたかったが印刷技術関連の欠陥のためピンク色になった)とブルー・クーポンによる国営企業の「所有分割=民営化」が実施され、結果的には、国営企業の解体という事実だけが残ってしまったことがある。

これは、国民に支給された両株券が生産のため利用されず、アルコール購入に消えるか、所有権細分化による無責任体制→生産効率低下→企業解散、という事態を招いてしまったからであった。

今回の施策も、そのようにならない保証はない。元来、国家的所有である「エルデネス・タバントルゴイ」社からの収益は、モンゴル政府が国家予算に繰り入れて管理・運営し、民生向上(注:教育、社会保障、インフラ整備など)に投資する方がより効果的であろう。

また、それは、社会主義の伝統を継承する、モンゴルの歴史過程に合致しているのである。(2011.04.03)

(追補)なお、この株券は、「優先権付き株券(давуу эрхийн хувьцаа)」とよばれ、証券取引所で取引されない。エルデネスMGL社は、15の国家戦略鉱山を所有する(ウヌードゥル新聞2011年4月7日付電子版)。だが、この株券が私的に売買される懸念までは否定できないように見える。1997年にアパートが民営化されて以降、無料で入手したアパート所有者がそれを売却してしまった、という事実があるから。


(注:タバントルゴイ石炭鉱山。UBポスト新聞2011年4月5日付電子版より転載)(2011,04.10)

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