
モンゴル人民革命党党名改称問題再浮上(2010年9月15日)
モンゴル近現代史において、最も長く存在する政党は、モンゴル人民革命党である。モンゴル人民革命党は、1921年に設立されたモンゴル人民党が1924年に党名を改称して、モンゴル人民革命党になったものである。モンゴル人民革命党は、モンゴルの社会主義化に大きな役割を果たしてきたことは否定できない。
つまり、モンゴル人民革命党には、バガバンディーの「民族民主主義」と、エンフバヤルの「社会民主主義」との穏やかな(?)対立がある(注:両者とも大統領経験者)。
ここにきて、モンゴル人民革命党に「党名改称問題」が再浮上した。
エンフボルドモンゴル人民革命党党首(現首相)は、2010年9月15日、政府官邸で「モンゴル人民革命党と政治思想」というセミナーを開催した。このセミナーには民族新党と伝統統一党は参加したが、当然のことながら民主党は不参加を決め込んだ。
このセミナーの基調講演で、Б.ダシヨンドンが「モンゴル民族民主主義思想、内容、責務」という報告を行った。その主旨は、「民族民主主義は第三の道ではない」、「(それは)左派右派の中間でもない」、というものだった(ウヌードゥル新聞2010年9月16日付)。
また、モンゴル人民革命党内の青年組織である「モンゴル民主社会主義青年同盟」第4回大会が開催された(2010年9月16日)。その席上、バトボルド党首は、モンゴル人民革命党の目指す道として民族民主主義を提唱した。これは社会民主主義と同一の内容であり、富裕な中間層の形成をめざすものだという。
ちなみに、この「モンゴル民主社会主義青年同盟」は、組織名を改称し、「社会民主モンゴル青年同盟」(НАМЗХ)となった(ウヌードゥル新聞2010年9月17日付)。
こうした一連の流れからみて、モンゴル人民革命党現指導部は、党名改称に着手したようである。
この動きに対し、エンフバヤルは釘を刺すことを忘れない。彼は、新聞紙上で自説を展開した。すなわち、
モンゴル人民革命党指導部は、「改革、リーダーシップ、発展」という宣言文書を公にした。その要点は、1)モンゴル人民党に党名を改称する、2)民族民主主義思想を党是とする、3)国民生活の向上を目指す、4)発展の新時代を開く、5)党員の質の向上を図る、6)党の政策を堅持する、である。元来、モンゴル人民革命党の優位点は、「独立」の堅持であり、欠点は、「政治的粛清」の存在である。モンゴル人民革命党以外のすべての党は、明確な思想がなく、利得追求を旨としている。従来の左派「民主社会主義思想(=社会民主主義)」を「民族民主主義思想」にする目的は、「右派」になることである。一方、「左派」の思想は、党にとって新鮮で、積極的で、原則的立場を堅持し、将来に信を置く人々の思想である。だから、貧富の差の解消、質の高い教育と保健、中流層の形成、都市と地方間の格差の解消、という中道左派思想を堅持するべきである(ウヌードゥル新聞2010年9月7日付)。
エンフバヤルの「意見書」について、モンゴル人民革命党指導部は口を閉ざしているという(ウヌードゥル新聞2010年9月7日付)。
ただ言えることは、1990年からの20年間で、モンゴルの資本主義化が困難であり、モンゴルの歴史と伝統に合致しないということが明らかになっていることを、この党名改称問題が示している。(2010.09.19)
(追補)モンゴル人民革命党党名改称問題に関して、モンゴル人民革命党の約400人の党員は、2010年9月24日、国立オペラ劇場で「モンゴル人民革命党改革」というセミナーを開催した。
ツァンジド(注:元教育文化科学相、Н.エンフバヤル元党首・前大統領の理論的支柱)、オドバル(注:モンゴル人民革命党内改革派)、
ダシゼベグ(注:経済学者、私立モンゴル大学学長、市民運動が初めて鉱山問題を提起したときの提唱者)たちがこのセミナーで報告した。
Н.エンフバヤルも参加した(注:このことは、このセミナーがエンフバヤルの後援で開催されたことを示す)。
彼らは、「(1997年)党綱領」遵守を呼びかけ、モンゴル人民革命党は「幹部達の党」になっていると批判し、モンゴル人民革命党を一般党員の手に取り戻すべきだと主張した。
これは、社会民主主義堅持を意味する。
参加者の大半は、党名変更に反対を表明した。又、彼らは、現指導部が中・上層のみの支持を求めていると批判した。
参加した年配者達は、党名変更によって2012年の国家大ホラル(国会)議員選挙に敗北するだろうと批判した。
最後に、参加者達は、「倫理、団結、自由」運動結成を宣言した(ウヌードゥル新聞2010年9月27日付電子版)。
再説するが、モンゴルでの政権党内でこのような意見が強いというのは、モンゴルの資本主義化の困難性を示すものである。(2010.10.03)
(追々補)なお、しかし、ウヌードゥル新聞の報道によれば、モンゴル人民革命党党員の81.3%は党名変更を支持しており、党綱領を「明確にする」(注:民族民主主義にするということを指すと思われる)ことを92.6%の党員が支持している、という(ウヌードゥル新聞2010年10月6日付電子版)。このことから見れば、上記の「運動」は、おおかたの支持を受けていないと言うことになる。いずれにせよ、今後の推移が注目される。(2010.10.10)
(追々々補)上記「倫理、団結、自由」運動について。
201010月13日、「倫理、団結、自由」運動結成大会が労働文化センターで開催された。報告者は、ダシゼベグ、オドバルなど(注:下記写真参照)。参加者の大半は年長者であった(ウヌードゥル新聞2010年10月14日付)。
(注:ウヌードゥル新聞2010年10月14日付より転載)
この運動は、エンフバヤル(人民革命党元党首・前大統領)の権力闘争の一環のようである。(2010.10.17)
(追々々々補)
一方、人民革命党の若年層党員たちは、現指導部を支持し、党名変更、党綱領「明確化」を求め、運動を始めた。彼らは、2010年10月20日に文化センターで集会を行う(ウヌードゥル新聞2010年10月14日付および電子版)。
