
オユトルゴイ鉱山「投資契約」調印(2009年10月6日)
オユトルゴイ鉱山(注:主として銅・金を産出)
「投資契約」案が国家大ホラル(国会)に上程・承認されたのを受け、2009年10月6日(注:モンゴルのвалжиням、дашнямという日本でいうところの二つの「大安吉日」が重なる日)、このオユトルゴイ鉱山「投資契約」が調印された。
オユトルゴイ鉱山の埋蔵量は、銅2540万トン、金1028トン、銀5144トン、モリブデン8万1600トンであり、この鉱山が操業されれば、世界第5位の鉱山となる。
署名者は、鉱物資源エネルギー相Д.ゾリグト、財務相С.バヤルツォグト、自然環境観光相Л.ガンスフ、リオ・ティント社、アイバンホー・マインズ社である。
モンゴル側は、この鉱山開発を最大限に評価し、大統領、国家大ホラル(国会)議長、首相がこの調印式に出席した。(ウヌードゥル新聞2009年10月7日付)。
(注:ウヌードゥル新聞2009年10月7日付より。向かって左3人が外資側、右3人がモンゴル側Д.ゾリグト、С.バヤルツォグト、Л.ガンスフ)
ここで「投資契約」の概略を再掲しておく。
1)モンゴル側の投資額35億ドルは、モンゴル側の34%の株から得られる収益から投資側(アイバンホーマインズ社)が出す。
2)「銅・金特別税」(注:正確には「若干の生産物価格上昇に係る課税」)は課さない。その代わりに、鉱物資源付加税(29.9%)を課す(これに法人所得税25%が加わる)。
3)5年以内に操業させる。
4)最初は関税を免除する(最長7年)。
5)採掘が始まれば付加価値税を課す。
6)これらを合算するとモンゴル側は76%の利得になる(年間2000万〜8億8000万ドル)。
7)契約期間は30年(国家安全保障委員会は15年を勧告していた)。これは、銅世界市場価格の下落[現在3500ドル]、リオティント社の株価の下降傾向のため妥協した。しかし最終案は国家大ホラル(国会)が決定する。
8)当初は、直接的間接的に約1万人の新規雇用がある。採掘開始時には、更に3500人が雇用される。そのうちの90%がモンゴル人である。
9)環境保全のための環境評価作業を3年毎に行う。
С.バヤル首相は、このオユトルゴイ鉱山「投資契約」調印式で演説し、以下のように述べた。すなわち、
モンゴル側が最終的に53%の利益を得る。
1万人の就業場所、さらに本格的に操業されれば2500〜3000人の就業機会が創出される。
労働力の90%はモンゴル人である。
輸出額が20〜25億ドルになる。
5億8000万ドルの法人所得税収入が入る。
ゴビ地域のインフラ開発の可能性が生まれる。
新たなビジネス、労働機会が生まれる。
純銅生産の必要性がある。単なる(銅精鉱での)原料輸出ではなく、(純銅という)最終製品生産の必要性がある。(ウヌードゥル新聞2009年10月7日付)。
このオユトルゴイ鉱山「投資契約」調印については、モンゴル国内では、賛同する人が多いようだ。
Ш.ゴンガードルジ(元首相、元国家大ホラル[国会]議員・人民革命党、農業問題専門家)は、地下資源から得られた収益を他部門の発展に利用できる、として、農牧業部門発展のテコとなることを期待している。
С.ナランゲレル(法学者)は、国際条約にあったものであるべきである、と述べている。
Су.バトボルド(国家大ホラル[国会]議員・人民革命党)は、経済発展が見込め、タバントルゴイ鉱山(コークス石炭産出)への投資にも好影響を及ぼす、と述べている。
Ц.オヨンバータル(YТЁГ=国税庁長官)は、モンゴル経済社会発展に寄与するだろう、としている(ウヌードゥル新聞2009年10月5日付)。
ザンダンシャタル(国家大ホラル[国会]議員・人民革命党)は、人民革命党が選挙時に公約した「祖国の贈物」法の財政的基礎が形成される、と述べた(ウヌードゥル新聞2009年10月5日付)。
だが、筆者が以前にも何度も指摘したように、「鉱山法」(2006年)の改正が行われた場合、この「投資契約」が新「鉱山法」に違反する事態が起こりうる。
また、この「投資契約」は、モンゴル憲法で規定する「天然資源の国有」条項と矛盾する(注:「株式所有が34%」という項目)。
さらに、当然のことながら、環境保全問題が今後、持ち上がるであろう。特に、オユトルゴイ鉱山は、生態系が危ういゴビ地域にある。
付言すれば、最大の問題は、水問題である。
アイバンホー・マインズ社は、地下約30メートル、および約400メートルのところに、水塊を確認し、これを利用するという。その量は数十年間分に相当する(注:アイバンホー・マインズ側の主張を基礎にした(だけ)の武田哲一「モンゴル国、オユトルゴイ現地調査報告」、『金属資源レポート』2004年11月より)。
アイバンホー・マインズ側は、これで水問題は解決済みである、というが、この水は数十年で枯渇する。
すなわち、水問題は全く解決していない。
であるから、С.バヤル政権が推進するような「経済自立」が確立した後、自力で鉱物資源を開発するのが最善ではないだろうか。
特に、外資側に取り込まれてしまったのだろうが、До.ガンボルド・モンゴル鉱山協会会長(元国家大ホラル[国会]議員・民主同盟連合[当時])は、民間部門による開発に意義がある、西側の大企業の目的が利益ではなく名誉である、と言っている(モンツァメ通信2009年10月6日電子版)。この意見は、余りにもナイーブで、なにをかいわんやである。(2009.10.11)
(追補)上記のオユトルゴイ鉱山の「水問題」について、水資源局局長Я.ツェデンバルジルは、ウヌードゥル新聞(2009年11月3日付)のインタビューに答えて、オユトルゴイ鉱山の開発が水資源に否定的な影響を及ぼさない、と述べているが、それを証明する根拠は、薄い。(2009.11.04)
