
続・2004年国家大ホラル(国会)選挙に向けての政争(2003年12月07日)
先に動いたのは、市民の意志・共和党である。同党は、12月03日、市民の意志・共和党国民委員会を開催した。議題は、1)祖国・民主同盟との三角同盟をめぐる現状、2)民主新社会党との統一問題、であったが、3)オヨンの「市民の意志党」と、ジャルガルサイハンの「共和党」との分離問題が提起された。
ジャルガルサイハンは、「第三勢力」強化を目指し、市民の意志党と、2002年12月22日に、合併した。ところが、野党との同盟が論議されるようになり、それに反対し、同党から脱退し、「共和党」を再び立ち上げようとした。結局、このジャルガルサイハンによる分離問題は受け入れられ、「市民の意志・共和党」は、党名が元の「市民の意志党」に戻った。だが、これは最高裁判所への届け出義務を伴うことから、最高裁によって認可されるまで、「市民の意志・共和党」と呼ばれる。
民主新社会党との統一問題については、その行動は正当だが、現在は「三角同盟」の問題をまず解決すべきであり、この問題は先送りすべきである、とした。これに対し、「オヨニ・オンドラ」社社長С.オトゴンバヤル、ダリ.スフバータル、С.ハシエルデネらのグループは、民主新社会党との統一を目指して行動を開始した。そして、「市民の意志・共和党国民委員会34人と政治局16人がオヨンとガンホヤグ更迭に賛成した」として、党首オヨン、書記長ガンホヤグを更迭し、オトゴンバヤルを党首にする、と宣言した。
民主化運動草創期からゾリグと行動を共にし、「市民の意志党」結成に奔走した、Т.エルデネビレグとХ.ホラン(注:現在はこの両者は表だった政治活動はしていなかった)も、これに同調した。エルデネビレグは、「三角同盟」結成が遅れていることに不満を抱き、ホランは、その責任は現執行部にあると主張する。
これに対し、書記長ガンホヤグは、その決定は、同党総会によって決定されたのではないから効力がない、と反論した(以上、「ウヌードゥル新聞」2003年12月05、09日付、「ウランバートル・ポスト紙」(電子版)2003年12月11日付、参照)。
市民の意志・共和党は、元来、「市民の意志党」、「共和党」、「モンゴルのための党」などが合併してつくられた。それが、国家大ホラル(国会)議員選挙を目前にして、再び三者に分裂したかに見える。なぜそうなったか。それは後述しよう。
一方、民主党は、12月6日、民主党国民評議会臨時大会を開催した。議題は、国家大ホラル(国会)議員選挙立候補者数割り当て(注:民主党は民主新社会党と「祖国・民主同盟」を結成し、選挙に臨む)、および立候補者選定であった。
これに先立ち、党首エンフサイハンは、民主新社会党党首エルデネバトと密かに会談し、その割当数を「51議席対25議席」という提案をして、エルデネバトと意見の一致をみた。エンフサイハンとしては、この「51:25」を承認させて、選挙に臨もう、というもくろみであったであろう。ところが、民主党内派閥である、ゴンチクドルジ、ドルリグジャブ、アルタンホヤグ、Н.バトバヤルら「アルタン・ガダス」グループは、エンフサイハンの提案に反対し、「56:20」にすべき、と主張した。結局、この「51:25」は支持されなかった。
それでも、エンフサイハンはエルデネバトとの「同盟」を推進する立場から、12月7日、再び秘密(無記名)投票を実施し、「51:25」を承認させようとした。それに対し、ゴンチクドルジ、ドルリグジャブらは、抵抗し、会場から退場した。そのため、決議に必要な代議員定足数に達せず、流会してしまった(「ウヌードゥル新聞」2003年12月08日、11日付、および「ウランバートル・ポスト紙」(電子版)2003年12月11日付、参照)。
この民主党は、旧「民族民主党」系、旧「社会民主党」系、エンフサイハン系が、日頃から派閥争いを繰り返している政党である。ここにきて、その派閥争いがさらに激しくなったのである。
次いで、民主新社会党は、当初の予定では、民主新社会党小委員会を開催し、民主党国民評議会の決定を受けて、「51:25」を承認し、さらに、市民の意志党との統一問題を討議する予定だった。だが、開催できずにいる(「ウヌードゥル新聞」2003年12月08日付)。
このように、選挙を控えて、野党は分裂気味である。「三角同盟」を結成し、選挙に臨むというのは、エンフサイハンの選挙戦術である。彼は、世論調査の結果に基づき(注:「同盟」すれば、人民革命党と互角か、もしくは勝利できる、というのが、サンマラル基金の世論調査結果である。もっとも、人民革命党社会研究所の調査はその正反対である。このことについては、以前に、
「最近の世論調査から(2003年11月16日)」で論評した)、是が非でも「三角同盟」を成立させたい。選挙勝利後、5年間牧民の税金を免除し、カシミア価格を3万トグルグ以上にすることを確言している(「ウヌードゥル新聞」2003年12月11日付)。(注:この政策は、1996年当時の再現、すなわち、物価値上がり、国内産業破壊、経済混乱、腐敗進行、という事態になり、かなり危険な試みである、といえる)。
さて、この野党の一連の動きに対し、人民革命党はどうか。現在のところ、報道される限りでは表だった動きはない。だが水面下では、かなり動いている、と思われる。
エンフバヤル人民革命党政権は、ロシア、ポーランド、北朝鮮(いわゆる「金日成の贈り物」)への「債務問題」を基本的には解決し、社会主義インターの正式メンバーとなり、モンゴル支援国会合から3億5000万ドルの援助を引き出し、インフレ率を5%以下に抑え(ているように見え)、一見順調のようにだ。だが、失業率は横ばい、犯罪の凶悪化、汚職の蔓延、都市環境の悪化、国内産業の不調、といった否定的現象に対し、効果的な施策を講じていない。また、2000年国家大ホラル(国会)議員選挙時の公約である、「給料・年金の2倍化」を実現できないでいる。2004年度予算で、給料・年金の増額のための歳出額は計上したものの、IMFによる歳出額増8%以内、という足枷が政策の柔軟性を損ねている(注:オラーン財務相は歳出増は7%だ、といっているが、インフレ、対ドル相場の下落、選挙前の大判振る舞いで、そのデッドラインを遵守できるかどうかあやしい。そもそも、IMFが国内政策に口出しをすること自体、内政干渉である。それに抵抗できない政権であることがさらに問題である)。
政府与党は、こうした状況をモンゴル国民が選挙でどう判断するか、ということを懸念している。人民革命党にとって、民主党はそれほど脅威ではない。人民革命党政権(2000年−)は、民主同盟連合政権(1996−200年)の政策の中身を継承している。これは、人民革命党の方がモンゴル国民の慣習・思考方法を巧妙に利用しているからだ。だが、1996年の国家大ホラル(国会)議員選挙のように、逆転もあり得る。
人民革命党にとって脅威なのは、民主新社会党のエルデネバトと、市民の意志・共和党のオヨンである。エルデネバトは金鉱採掘会社「エレル」社の総帥で、資金が潤沢だった(以前は)。しかもイデオロギー的には、人民革命党よりも人民革命党らしく、旧社会主義官僚や地方牧民に支持者を持つ。すなわち、人民革命党と民主新社会党は双生児である。であるから、エルデネバト攻撃は人民革命党のもっとも必要かつ高度な政治戦略である。こうして、エルデネバト「エレル社法人所得税未納問題」が表面化したのである。
ただ、人民革命党の読み違いは、エルデネバトとエンフサイハンが「同盟」したことである。水と油の関係とも言うべき、「祖国・民主」同盟の結成は、人民革命党の予想外であり、この「同盟」は脅威になりうる。できれば、阻止したい。元来、エンフサイハンの民主党は、ネオ資本主義の旧民族民主党と、社会民主主義の旧社会民主党とが母胎となっており、派閥抗争が絶えない。そこを利用すれば、人民革命党にとって、比較的対処しやすい。
「市民の意志・共和党」党首オヨンは、周知の通り、ゾリグの妹であり、国民的人気がある。できれば、オヨンを追い落としたい、と人民革命党はねらっているだろう。そこで、民主新社会党と市民の意志・共和党を統一させ、党首をエルデネバトにすれば、少しはその「国民的人気」にかげりが出るかもしれない。
以上が、筆者の推測する人民革命党の政治戦略である。このことは以前にもこの「時評」で書いた。
ここに一人のキーマンがいる。それは、与党人民革命党会派代表、国家大ホラル(国会)副議長ビャンバドルジである。彼は、民主党副党首の一人グンダライの議会での破天荒な行動を、体を張って阻止しようとした。そのグンダライと同じ「武断派」である。だが、それだけにとどまらず、弁も立つし、頭の回転も速い。その上、野党民主党にも人脈がある(注:ビャンバドルジは、旧社会民主党系の「アルタン・ガダス」協会に籍を置いている)。
ビャンバドルジは、市民の意志・共和党の旧「モンゴルのための党」にも影響力を持つ。このグループを通じて、民主新社会党との統一を働きかける。こうして、С.オトゴンバヤル、ダリ.スフバータル、С.ハシエルデネによる、「オヨン、ガンホヤグ更迭」が行動に移されたのである。さらには、旧「共和党」ジャルガルサイハンには、「丸紅」債務を突きつけ、市民の意志・共和党からの脱退を教唆する。かくて、市民の意志・共和党は、分裂の危機を迎えている。
一方、民主党へは、「アルタン・ガダス」グループを通じて、「同盟」結成を阻止、あるいは少なくとも遅延させる(その方が選挙対策には有利である)。ゴンチクドルジは、元来、陰謀が得意で、人民革命党の戦術は察知しているので、エンフサイハンの「51:25」に内心、賛成してもいいと思っているのだが、「アルタン・ガダス」グループ代表の立場上、反対行動を「指導」しているのである。
これが12月上旬時点における、モンゴルの政治状況である。(2003.12.16)
