2004年国家大ホラル(国会)選挙に向けての政争(2003年06月19日)

モンゴルには現在、政党が16あって、そのうち立法機関である国家大ホラル(国会)に議席を占めるのは、4党のみである。しかも、全議席76のうち政権与党の人民革命党が、絶対(究極)的多数の72議席を占めている。この国家大ホラル(国会)の選挙は、4年ごとに行われる。最近の選挙は2000年7月2日に実施されたので、次の選挙は2004年の半ば頃に行われる。

与野党は、従って、次の選挙で議席獲得を目指して様々な活動を開始した。選挙法では、選挙運動は告示後1ヶ月と定められているから、もちろん、表だった活動はできない。であるから、選挙戦術、駆け引き、陰謀、といった類の活動に限定される。

「選挙戦術」としては、民主党、市民の意志・共和党、民主新社会党による、「三角同盟」がある。これについては、前に論評したが、補足すれば、6月18日、市民の意志・共和党は、この「三角同盟」に反対していた、副党首ジャルガルサイハンを党規違反で除名し、「三角同盟」準備部会を立ち上げた(ウヌードゥル新聞2003年06月20付)。また、それに対抗して、6月17日、人民革命党と伝統統一党が、2004年末までの「協力宣言」に署名した(ウヌードゥル新聞2003年06月20付)。この伝統統一党というのは、もともとダシバルバルが率いていた。ダシバルバルは、腐敗の極に達していた1996−2000年の民主同盟連合政権下の国会議員として、その追求に孤軍奮闘していた(伝統統一党は1議席のみを占めていた)。そのせいであろうか、1999年に突然死亡した(暗殺されたという説もある)。この政党は、彼の死後、分裂し、その一部は民主党に流れ、残った人々がフレルバータルを党首として、伝統統一党を引き継いだ。党是は、モンゴルが古来持っていた、汚職反対、倫理・公正の追求、祖先や年長者への尊敬と幼少者への慈愛の復活、などを目指していた(つまりは、現在の民主党の党是に反対していた)。従って、人民革命党(あるいは、旧「市民の意志党」、民主新社会党)とは、政策的には、近親性がある。

「駆け引き」としては、人民革命党による、市民の意志・共和党と民主新社会党へ「締め付け」がある。市民の意志・共和党へはオヨンの孤立化、民主新社会党へは党首ジャルガルサイハンの「エレル」社脱税の追求、などがある。これも前に言及した。

「陰謀」としては、民主党による、「ニャムドルジ法務内務相スパイ疑惑問題」がある。これも前に論評したが、今回は、これについて、事態がさらに動いたので、再度取り上げる。

ことの発端は、何者かが(たぶん民主同盟連合政権下での情報局長官バータル)、国i家大ホラル(国会)民主党議員グンダライのもとに、情報局「国家最高機密」とスタンプされた資料を持ち込んだ。この資料を、グンダライは元来元気な若者であるからして、記者会見で公開してしまった。その内容は、ニャムドルジ法務内務相が中国のスパイである、というものであった。絶対多数を占める与党は、当然それを否定した。

すると、その焦点がグンダライによる「国家機密漏洩」問題になっていった。あわてた民主党党首エンフサイハンは、グンダライを擁護し、「これは国家機密ではない、ニャムドルジは、中国情報機関高官某と会っている写真があるではないか」、と言い出した。だが、「なぜそれを知っているのか」、ということになって、彼は墓穴を掘ってしまった。ここまでは、前に述べた。

一方、グンダライは、元気者とはいえ、これはまずいと思ったのか、トゥムル=オチル国家大ホラル(国会)議長に「外遊」許可を取り、ドイツとイギリスに、病気治療目的で、6月1日から13日の間、「逃亡」した。彼は、元来、酒類販売会社を経営していて、ドイツとの関係が密なのであろう。

このまま行くと、グンダライは政治生命をたたれるので(国家機密漏洩罪は25年の禁錮刑)、帰国後、6月16日、記者会見を行い、反撃を開始した。

その内容は、(1)部下が大臣を遠慮なく調べることは不可能だから、ニャムドルジ法務内務大臣が自ら辞職することを要求する公式文書を送付したこと、(2)エンフバヤル首相には、情報局の誤りについて、それをただすこと(つまり情報局長官らを解任すること)、(3)ビャンバドルジ国家大ホラル(国会)副議長には、「グンダライは気が狂っている」という、ボルガン・アイマグでの名誉毀損発言に対して、謝罪を要求した(彼もグンダライに負けず劣らずの勇猛派)(ウヌードゥル新聞2003年06月17付)。

グンダライは、さらに、「公開した文書は」、すでに内容が公開されているので、「秘密ではない」、という(ゾーニー・メデー新聞2003年06月17付)。これは、理由にはならない。何しろ、自分が公開したのだから。そして、今後、入手した内容を少しずつ「公開」していく、と言っている(それが国家機密漏洩になるのだが、彼は気が付いていない)。かなり追いつめられているようである。ただ、その内容を小出しにすることによって、人民革命党側にプレッシャー(=ブラフ)をかけるつもりなのであろう。時には弱気になる時もあるようで、「私は人民革命党の眼に入ったトゲとなった。(彼らは)これを除去することを日夜考えている」、と述べることもあるようだ(ウヌードゥル新聞2003年06月21付)。いずれにせよ、まさに、陰謀劇というべきである。

民主新社会党党首エルデネバトも、ニャムドルジ攻撃に加わった。ニャムドルジというのは、元来、もっともモンゴル人らしい男なので、エンフサイハンには、「男らしい豪快さが無い」、という。その返す刀で、「エルデネバトは80万トグルグを奪取して、1キロの道路に、10億トグルグを使った」という発言をした。この発言に対して、エルデネバトは名誉毀損で陳謝を要求したのである(ウヌードゥル新聞2003年06月19付)。もちろん、民主党幹部擁護の意味合いが含まれている。

というわけで、選挙「戦」が始まったのである。(2003.06.23)

(追補)最高検察庁は、スパイ疑惑問題に関し、ニャムドルジ、グンダライ、エンフサイハンを召喚し、取り調べることを決定した。だが、グンダライは、北京へ向かった。これは、「召喚」を回避する行動と思われる。グンダライにとって、この行動はかえって立場を悪くするだろう。彼の政治生命はこれで終わるかもしれない。貴重な存在ではあったが、少し思慮に欠けたかもしれない(ウヌードゥル新聞2003年06月26付)。(2003.06.29)

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