最近の世論調査から(2003年11月16日)

人民革命党社会研究所(プログノズ・センター)は、10月15日から25日にかけて、世論調査を実施した。国家大ホラル(国会)議員選挙まで8ヶ月になり、この調査の焦点は、政治・経済関係についてであった。その結果が、モンゴル国営テレビで、2003年11月16日日曜日午後8時のニュースで放送された。

モンゴルで世論調査というと、サン・マラル基金による世論調査が代表的だが、人民革命党付属機関による世論調査も、正確さはほぼ同じである。実施機関名を秘して、より大規模に実施されるという。

筆者は、そのサン・マラル基金による世論調査について、かつて論評したが(「サン・マラル基金による3月の世論調査(2003年03月19日」)、その後の推移も興味深い。

なお、この世論調査の結果は、ウネン新聞(2003年11月12日付)で、「人民革命党に対する評価は2000年選挙時と比べて下がっていない。世論調査の応答者は、『千年道路』」をすぐれている」という見出して、いささが自画自賛気味に報道された。さらに、モンツァメ通信(2003.11.11)やウランバートル・ポスト紙(2003年11月14日電子版)も報道している。

これらの報道を整理して記すと、

「モンゴルはこれからどうなるか」、「よくなる」16.0%、「少しよくなる」35.0%、「変わらない」20.9%

「モンゴルの重要課題」は、「貧困、失業、飲酒、犯罪、増税、汚職、倫理観の喪失」

「政府のすぐれた点」は、「千年道路の建設」

「もし明日選挙があればどこに投票するか」、「人民革命党48.2%、祖国・民主同盟26.3%、市民の意志・共和党9.8%」

「有名な政治家は」、「エンフサイハン(首相)45.1%、バガバンディ(大統領)20.2%、オヨン12.5%、ゴンチクドルジ12.2%、グンダライ11.7%、以下、ニャムドルジ(法務内務省)、エンフサイハン(民主党党首)、オラーン(財務相)、ガンディ(国家大ホラル(国会)議員)、ジャスライ(元首相)など」

「前政権(民主同盟連合政権)と比べて現政権(人民革命党政権)は」、「よい41.9%、変わらない28.4%、悪い11.9%」

「人民革命党は公約を完全に実現すべき」

ということになる。

現代モンゴル社会の矛盾は、確かに、「貧困、失業、飲酒、犯罪、増税、汚職、倫理観の喪失」である。これに、「官僚主義、貧富の差の拡大」を付け加えると、さらに正確になる。つまり、資本主義が生み出してきた諸矛盾が集約される。

この矛盾を前にして、モンゴル国民は、将来を楽観していない。楽観しているのは「16%」である。だが、何とか光明を見いだそうとして、「千年道路(ミャンガニ・ザム=「世紀の道」)」に期待をかける。これが完成すれば(注:筆者は以前にも取り上げたが、あまりにも問題が多く、完成しないと思う)、35%の人々は「少しよくなる」と考える。

こうした事態を急激に招いたのは、1990年のビャンバスレン政権と、1996年の民主同盟連合政権であった。それが、民主党への不人気に現れている(注:ただし、その背後には、日本をはじめとする支援国・国際機関、とくにIMFがいることには、モンゴル国民はまだ気づいていない。それを知らせることが筆者の責任であると思っている)。

人民革命党の支持率上昇をどう見るか。もちろん、一つには、実施機関が人民革命党付属機関であるからであろう。ウランバートル・ポスト紙(電子版)は、その記事に対する「読者の反応」も掲載している。この記事の反応は3件あって、「この世論調査はコミュニストに偏っている(by Es)」、「世論調査というものはいつどこでもそういうものさ(by anuu)」、というものであった。インターネットに接続できる環境にあることから見て、ウランバートル市民で、学生、知識人ではないかと思われる。ちなみに、人民革命党は今まで「共産党」であったことはなく、従ってまた「コミュニスト」であったことは一度もない。

人民革命党に取って代わる政党がない。市民の意志・共和党は、支持率が10%を越えることはない。財政基盤が弱く(汚職をしないないからであるが)、地方に弱い。民主新社会党は民主党に「釣り上げられて」しまった。これでは、モンゴル国民は選択の余地がない。まして、地方では、人民革命党以外の諸政党の活動を知る機会は少ない。筆者は、ヘンティー・アイマグのダルハン・ソムにある、ボル・ウンドゥル・ホトで共同調査したが、ここは蛍石を採掘・精製する「モンゴルロスツェベトメト」社の労働者の町である。どういう訳か、ここでは、目抜き通りには民主党の看板が大きく立てられている。この町の労働者も選択に困るのではないかと思われる。いずれにしろ、ここは例外で、他の地域では、人民革命党が圧倒的である。ウンドゥルハーン市(ヘンティー・アイマグ中心地)では、政庁に隣接して、政庁より立派な建物に、人民革命党の旗が立っている。

人民革命党も、2000年選挙公約の実現を迫られている。すなわち、「給料・年金2倍化」を「完全に実現すべき」だと要求されている。この施策は、IMFプランに違背する。そこで人民革命党政府は、苦し紛れに、「4年間で給料・年金2倍化」という詐欺に近い手法を考え出した。もうすぐ、従って、給料が微増するらしい。ここらをモンゴル国民がどう判断するかが、来年の選挙で問われる。(2003.11.17)

(追補)これに対し、民主党系のウドゥリーン・ソニン新聞(2003年11月17日付)は、即座に反論した。それによれば、サン・マラル基金が10月に実施した世論調査では、人民革命党支持が35%、祖国・民主同盟が39%で、祖国・民主同盟が人民革命党より支持されている、という結果が出ている。だから、これに「驚いた」人民革命党が、付属機関を使い、急遽世論調査を行って、自己に有利なように操作したのである、という。

これは、二つの点で間違っているようだ。第一に、サン・マラル基金も人民革命党社会研究所(プログノズ・センター)も、あるいは、その他の機関(スフバータリン・タルバイなど)も定期的に世論調査を実施している。サン・マラル基金の結果を見て、「驚いて」,、急遽実施したわけではない。モンゴルは官僚主義が色濃く残り、急遽実施しても長期間を要する。10月に行われた世論調査を見て、10月15日に全国的規模で実施し、25日までに回収し、分析できないだろう。実際、ウドゥリーン・ソニン新聞も、サン・マラル基金の結果を報道したのは2003年11月11日になってである。(ちなみに、ウネン新聞に結果が報道されたのは上記の通り、11月12日である)。

第二に、サン・マラル基金の10月実施世論調査アンケート項目を見てみると、「もし民主党、民主新社会党、市民の意志・共和党が同盟し、明日選挙が行われたら、どこに投票しますか」、という質問になっている。この三党はまだ同盟(いわゆる三角同盟)していない。モンゴル国民は、政府による土地所有法施行などで、現状に不満である。この「もし」が実現されたら(市民の意志・共和党は土地所有法に明確に反対していた)、「支持する」かもしれない、ということである。別の質問項目では、「もし明日選挙が行われたら」、「人民革命党38%、民主党31%、民主新社会党3%、市民の意志・共和党6%」という結果であり、「支持政党は」、「人民革命党37%、民主党21%、民主新社会党2%、市民の意志・共和党5%」となっている。

さらに補足すれば、このウドゥリーン・ソニン新聞というのは、選挙が近くなると、誤報を流す。民主党支持の記事が多くなる。現代モンゴル分析に参考にはなっても、そのまま鵜呑みにはできない新聞である。(2003.11.18)

(追々補)米国共和党国際研究所(RII)は同様の世論調査を2003年11月に実施した。それによれば、投票する政党は、人民革命党:45%、民主党:28%、市民の意志党:6%、民主新社会党:4%、その他:17%、である(ウヌードゥル新聞2003年12月22日付)。(2003.12.24)

(追々々補)サン・マラル基金による2004年3月実施の第21回調査になると、「もし明日選挙が実施されたら、どこに投票しますか」という質問に対し、「人民革命党49%、祖国・民主同盟29%、他の政党2%、無所属13%、無回答7%」となっている(ウドゥリーン・ソニン新聞2004年03月16日付)。これは、市民の意志・共和党の三派への分裂傾向が影響を与えているようだ。(2004.03.20)

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