与野党党首のアジア諸国訪問(2003年11月12〜26日)

民主党党首エンフサイハンたち12人は、2003年11月12〜19日、中国を訪問した。一方、人民革命党党首(首相)エンフバヤルたちは、2003年11月19〜26日、北朝鮮(19〜20日)、日本(21〜23日)、韓国(24〜26日)を訪問する。

エンフバヤル現首相の方は、政府首班としての業務の意味合いもあるが、エンフサイハン元首相の方は、相手を相当意識しているようだ。いずれにしろ、この二人の「エンヘー」のライバル意識は相当なものである。

エンフバヤルは、先にロシアを訪問し、懸案の対ロシア負債問題の解決の糸口をつけ、ロシアとの関係復旧を果たした。さらに、その勢いをかって、対ポーランド負債問題も、その90.4%を返済免除して、1年間で現物返済する、ということで合意をみた(ゾーニー・メデー新聞2003年11月19日付)。北朝鮮にも負債があった。これも、今回の訪問で一定の解決の糸口を付けようだ(ウヌードゥル新聞2003年11月19日付)。さらには、北朝鮮から、海港使用の申し出を受けた(ウヌードゥル新聞2003年11月21日付.)[後注:なお、この海港使用は、1996年にモンゴルが北朝鮮に対し提案していたものである(ウヌードゥル新聞2003年11月28日付)]。かなりの外交的得点であると言ってよかろう。

日本訪問時には、エンフバヤルは、大相撲九州場所で、新しい首相杯を優勝力士に授与することまでやる(らしい。筆者は見ていないが)。もちろん、この日本訪問は、第10回モンゴル支援国会合(11月19〜21日)への出席が主目的なのはいうまでもない。

[この問題は改めて論ずる方がいいと思っているが、一応忘備禄風に記しておくと、モンゴル財務省経済交流政策調整局長代理の話によれば、今回の会合の特徴は、これまでが、融資、援助を受けるのが主要な目的だったのに対し、その使途を報告するのが主目的であり、さらに、IMF、世銀のプランを話し合って、どの分野に投資するかを決定することにある、という(ウヌードゥル新聞2003年11月18付)。それも大きな問題をはらんでいるが、問題は、そのために国家大ホラル(国会)での来年度予算審議が一時ストップした(モンツァメ通信2003.11.20)。自国の予算の使い道を議論するのに、国際会議の結果待ちとは情けない話で、この国際会議はモンゴルの独立を侵犯しているといってもいい。]

韓国訪問は、実は、この5月に行われる予定だったが、例のSARSのため、延期されていたものである。モンゴルへの観光、投資問題や朝鮮半島問題が議題に上るが、非公式に1万6000人といわれる在韓国モンゴル人の福利厚生問題が大きい(ウヌードゥル新聞2003年11月19日付、ゾーニー・メデー新聞2003年11月19日付)。その際、彼らモンゴル人とも面談し、直面する諸問題を話し合う予定である、という。

いずれにしろ、エンフバヤルの政治的評価は、さらにあがることであろう。

一方、エンフサイハンは、11月12〜19日、中国共産党の招待で中国を訪問した。彼は、この訪問に先立って、「(民主)党の党首レベルでは最初の訪問である」、と誇らしげに語っていた(ウドゥリーン・ソニン新聞2003年11月08付)。

エンフサイハンは、11月12日、その訪問での席上、モンゴル外交政策の継続を表明し、2004年選挙前に、中国共産党外交部主任をモンゴルに招待する、と述べた。一方、中国は台湾とダライ・ラマに関する立場を強調し、エンフサイハンを2004年に中国で開催される第三回アジア政党会議に招待する、と前もって発表していた(モンツァメ通信2003.11.17)

また、エンフサイハンは、帰国後、11月20日、上述の事実を繰り返し、さらに、「ニャムドルジ・中国スパイ疑惑問題」に関し、ニャムドルジ、オラーンたちは、選挙が近づくと、無責任な言動が増える、と思わせぶりな発言をした(ゾーニー・メデー新聞2003年11月21日付)。当人がそれに近いと思われるが、それはひとまずおくとして、中国側からは、これに関する具体的な言及はなかったようだ。

民主党エンフサイハンは、英国、フランスを訪問し、今度は中国を訪問した。野党党首としては精力的な政治活動である、と言っていい。特に英国からは資金援助も得て、民主新社会党との「祖国・民主同盟」結成した。

彼は、民主党内にも政敵が多く、しかもそれほど人気がない(首相の時の失政が一つの原因である)。国家大ホラル(国会)選挙が来年7月に実施される。上述の「ニャムドルジ中国スパイ疑惑問題」では、グンダライを援護しようとして、墓穴を掘った(注:これについては以前の「モンゴル時評」参照)。民主党、および党内での自身の勢力基盤を強化する必要があった。

その状況下で、中国共産党からの招待の申し込みがあった。彼の政治的師匠に当たるオチルバト元大統領と同じく、彼自身も中国系である、と言われており、この申し出は願ってもないことであった。

であるから、メンバー構成も、ゴンチクドルジら党内の政敵は排除したものにした。しかも、問題になりそうな、グンダライ副党首も、用心して除外した。

だが、この訪問の実質的成果はあまりない(もっとも、あるニュース・ソースによれば資金援助もあったという。そうなれば別であるが)。「モンゴル外交の継続」表明は、与党にならない限り意味がないし、中国共産党幹部のモンゴル招待も、モンゴルでは、中国人嫌いが多く、政治的効果は余り無いだろう。もっとも、エンフサイハンの党内基盤強化には少し役立つかもしれない。

筆者には、やはり、中国側の外交戦略が際だって見える。エンフサイハン招待と同時に、国家大ホラル(国会)国家安全外交委員会委員長ルンデージャンツァンを11月末に招待している(モンツァメ通信2003.11.18)。こちらの方は人民大会議による招待である。

中国側は、政党と議会を使い分けることによって、モンゴル与野党を招待し、そのバランスをとっている。さらには、最近、高品質アパートを、ナラン・トルー・ザハ近くに無償援助で建設し、モンゴル側に引き渡した。

さらに、中国側としては、エンフバヤル政権が台湾へのモンゴル人労働者派遣を実現しようとしていることに対する、警戒心もある(ゾーニー・メデー新聞2003年11月03日付など)。

こうした国際関係のなかで、エンフバヤル政権はロシアとの関係復旧を果たし、それに対抗するかのように、エンフサイハン民主党は中国との関係を強化した。

もっとも、双方とも、国際機関や大国の掌上にある。(2003.11.25 後注2003.11.29)

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