第10回モンゴル支援国会合の意図は何か(2003年11月19〜21日)

1991年、東京でモンゴル支援国会合が開催されてから、これまで9回、この種の会議が開催された。今回で10回を数える。今年(2003年)は、11月19日から21日まで、東京で開催された。参加メンバーは、30カ国、20以上の国際機関(日本、米、露、カナダ、インド、ルクセンブルグ、中国、アジア開銀、EC、IMF、国連開発計画、ユネスコ、世銀、ソロス基金など)であった。

この会議に先立ち、オラーン財務相が東京を訪問し、議題を細部に亘って支援国(特に日本)と突き合わせをしたようだ。そのせいでもあるまいが、今年は、極めて円滑に進行した(第1日目が予備討論、第2日目が本会議、第3日目がエンフバヤル首相の発言など)。首相が出席したのは、モンゴル側に成功の自信がかなりあったからのようだ。

今回の会議の特徴はといえば、1)これまでの「援助」の効果の点検、2)3億3500万ドルの援助(このうち52.5%が無償援助、37.5%が特恵援助)、3)経済構造を短期間に改造するために、インフラ部門へ資金投下(34%)、4)貧困緩和計画の作成(1999年9月のIMFの指示による)、ということになる(ゾーニー・メデー新聞2003年11月25日付など)。特に、援助金が、昨年より200万ドル多い。それは、モンゴルが政治、経済、社会の安定が実現され、援助の効果的運用状況が整ったと見なしたからである、という(ウヌードゥル新聞2003年11月28日付)。

モンゴルが「政治、経済、社会の安定」を実現した、というのは、一見正しいようだ。ただし、これは相対的なもので、1990年代が混乱を極めたからであり、また、その「安定」の度合いは、1980年代末の水準に戻ったに過ぎない。一方で、否定的な現象(失業、貧富の差の拡大、倫理観の喪失、犯罪の凶悪化、汚職、拝金主義、国内産業の崩壊)が克服されていない。むしろ、こうした現象は諸外国から持ち込まれた、と言ってもいい。

諸外国・国際機関がこうしてモンゴルに関係して、「援助する」というのは、どういう意味を持つのか。

モンゴル科学アカデミー国際研究所主任研究員Ts.バータルは、世界百ヵ国以上で事業・調査を展開する、J & Austin Associate Company の調査について言及し、その中で、世界各国に占めるモンゴルの位置を紹介している。分母(世界各国数)が一律ではないので、100ヵ国当たりに直すと、一人当たりGNP76位、GDP成長率64位、輸出71位、投資額43位、銀行部門融資額85位、GDPに占めるマネー・サプライ72位、金融リスク・レベル39位、コンピュータ数70位、インターネット接続73位、研究者・技術者数49位、一人当たり電話台数63位、電話料金88位、人間開発指数68位、平均寿命64位、乳幼児死亡率67位、識字率52位、平均66位である。

つまり、モンゴルが平均を上回る分野は、「投資額」、「金融リスク・レベル」、「研究者・技術者数」、「一人当たり電話台数」、「平均寿命」、「識字率」である。

ここから、諸外国・国際機関の描くモンゴル像が明確になる。モンゴル人は、教育が普及し、その労働資源も存在する。平均寿命が高く質実剛健である。事業をするための通信手段が確保されている。であるから、金融リスクが低い。投資するのに適している。

そこで、彼らは、豊富な鉱物資源を有するモンゴルの鉱業分野に進出し、投資する。唯一の問題は、インフラである。従って、その分野(道路、教育リハビリ)に「援助」するのである。決して、「慈善事業」ではないのだ(Mongolian Economy at the Threshold of Globalization Era, Ts.Baatar, pp.37-45, The Mongolian Journal og International Affairs, No.10, 2003, the Institute of International Studies of the Mongolian Academy of Sciences. 特に、p.41 以降参照)。

その意図に呼応し、モンゴル政府は、2002年を「投資の年」として、諸外国・国際機関に投資を呼びかけた(ちなみに、2003年は「観光の年」、ところがSARSで旅行客が減少したので、来年も「観光の年」である。それに加えて、2004年が「水の年」である)。

エンフバヤルは、ロシア、ポーランド、北朝鮮に対し、懸案だった負債問題を基本的に解決して、声望を高めた。だが、3億5000万ドル(累積金額を含まない)の「援助金」は、30年後には返済しなければならないものがある。自分がなめた苦労を子孫に同じように経験させようというのだろうか。(2003.12.02)

(追補)オラーン財務相は、12月05日、国家大ホラル(国会)総会で、第10回モンゴル支援国会合の報告をした。その報告で、彼は、毎年3000〜3500万ドルを返済し続ければ、10〜15年後には、負債負担がなくなる、と気楽なこと(あるいは選挙対策上のこと、多分後者)を言っている(ウヌードゥル新聞2003年12月08日付)。これは、今後融資を受けなければ、という条件のもとでのことであって、それはあり得ないだろう。(2003.12.10)

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