
サン・マラル基金による3月の世論調査(2003年03月19日、追々補・イラク戦争04月01日)
2003年02月28日から03月10日に、サン・マラル基金が行った世論調査の結果が新聞紙上で公表されている(例えば、ウヌードゥル新聞2003年03月18日付、UB−POST紙2003年03月19日号)。
サン・マラル基金というのは、ドイツの保守系「コンラッド・アデナワー財団」によって財政的支援をうけている民間調査機関である。モンゴルには、政党がそれぞれ調査部門を持っていて、定期的に世論調査を行っている。当然の事ながら、その調査はその政党に有利な数値が出てくる。その点では、サン・マラル基金の調査は、何れの政党にも属さない故に、モンゴル人の一般的傾向を見るのには、今のところ一番便利である。
しかも、モンゴルの世論調査では、被調査員は比較的明確に自らの意見を披瀝する傾向にある。
このサン・マラル基金による調査は、大体、四分の一半期ごとに実施されている。最近の調査が、上に述べた2003年第一期の調査である。
調査対象地域は、ウランバートル市、および、オブス、ドルノゴビ、ウブルハンガイ、ドルノド諸アイマグ(県に相当)である。つまり、都市部と地方部が網羅されている。被調査対象人数は1536人である。
その全般的傾向については、ウヌードゥル新聞によると、2002年10月と比較して、人民革命党の支持率上昇傾向、民主党の支持率下落傾向が指摘されている。
ウランバートル・ポスト紙はこれをさらに詳しく紹介している。政党支持率でいうと、ウランバートル市(全人口の3分の1を占める)では、人民革命党34%、民主党23%、市民の意志・共和党10%であり、地方部では、人民革命党48%、民主党19%、市民の意志・共和党7%である。なお20%が支持政党なし、である。
つまり、地方部で人民革命党が圧倒的に支持され、ウランバートル(都市部)で市民の意志・共和党が好まれている。民主党は、6党が合同して結成されたわりには支持率が延びない。今後、民主党は再び分裂して、資本主義路線に寄り添っている人民革命党に吸収される部分と、よりウルトラ資本主義(英国保守党のような)にすすむ部分とに分裂するかもしれない。現エンフサイハン執行部は後者である。それ以外の部分は、人民革命党に対立する軸としての、中道・社会民主主義的傾向を示す市民の意志・共和党の一部と民主新社会党の一部の連合、といったところであろうか。
何れにしろ、モンゴル国民にとって、不幸で、支持されない傾向が進むかもしれない。
それは、社会・経済状況について、良くなった20%、悪くなった19%、変わらない60%、という回答からもうかがえる。国民は、今の政治・社会・経済状況を、シニカルに、つきはなして見ている。
これと合わせて、政治家の人気度も調査されているが、これだけは、国政・地方政治に反映しない。単に、名前が知られている、というのがモンゴル人の傾向である。
参考までに紹介すると、ウランバートル市では、エンフバヤル(現首相)、バガバンディ(現大統領)、オヨン(市民の意志・共和党党首)、エンフサイハン(現民主党党首)、グンダライ(現民主党国会議員、民主党副党首)、ゴンチクドルジ(前国会議長、元社会民主党)、ジャルガルサイハン(ボヤン社社長、現市民の意志・共和党副党首)、エルデネバト(エレル社社長、現民主新社会党党首)、トゥデブ(作家、元人民革命党推薦大統領選挙候補者)、ジャスライ(元首相、現人民革命党国会議員)、といった順。
地方部では、エンフバヤル、バガバンディ、オヨン、ゴンチクドルジ、エンフサイハン、グンダライ、オラーン(現財務相、現国会議員)、ニャムドルジ(現法務・内務相)、トゥムル・オチル(現国会議長)、ジャルガルサイハン、といった順。
ただ、強いて言えば、オヨンは、故ゾリグ(モンゴル民主化運動指導者)の妹だ、ということで人気がある。最近では、「世界の100人の政治家」の一人に選ばれた。
米英のイラク攻撃(あるいは「侵略」)に対して、エンフバヤル政権は、「支持」を表明した。つまり、モンゴルは米国のいう支持国40数カ国の中に入っている(注:モンゴルは、米国が最初に発表した「支持国35カ国」のリストの中に入っていた)。モンゴル国民はこれをどう見ているのだろうか。一方、駐モンゴル・米大使館書記官が自国の政策に対し、抗議の辞任をした。このことについても、モンゴル国民はどう思っているのだろうか。やはり、現地に行って聞いてみたいものである。(2003.03.25)
(追補)エンフバヤル政権の米国支持声明は、やはり、モンゴルで物議を醸している。民主党は米国支持をいち早く出した。これは予想された。だが、同党国会議員ナランツァツラルトは、政府のこの声明は憲法違反である、と抗議の声明を出した。彼によれば、この国事行為は議会(国家大ホラル)と政府の協議事項である、という(「ウランバートル・ポスト紙」電子版2003.03.27)。これに対し、政府は、これは政府の専権事項であり、この路線は1994年の議会決議に則ったものである、として、ナランツァツラルトの抗議を突っぱねている(ウネン新聞2003.03.26)。また、市民の意志・共和党は、この支持声明はモンゴルの非同盟政策に違反し、一方からの軍事的攻撃に荷担するものである、と非難している(ウランバートル・ポスト紙同上)。道理ある意見であろう。(2003.03.28)
(追々補)さらに、「ゾーニー・メデー」新聞は2003年03月25日付で、各界の人物の意見を掲載している。その主要なところを紹介しておこう。
П.オチルバト前大統領は、イラク戦争はテロリズムに対する戦争である、という。つまり、政府と同意見。
Д.ゴンボジャブ元外相(元大統領選挙伝統統一党候補者)は、やむを得ない措置、という。
Д.ソドノム元閣僚会議議長(首相のこと)は、戦争は正当化できない、という意見。
Д.ドラムスレン・モンゴル国立大学経済学部教授は、石油価格安定化のための米国のこの戦略に賛成、とする。
Д.ガンバヤル・「ホルド」グループ責任者は、戦争を支持するが、早期解決を望む、という。
Г.プルヴェー・ジェンコ大学教授は、戦争は不正なものであり、気に入らない他者を攻撃する権利は誰にもない、と述べる。
Н.エンフバヤル・ジャーナリストは、フセインは虐殺者であるから、彼を打倒することは正当であるが、一般市民を巻き添えにすべきではない、という。
また、「ウヌードゥル」新聞は、2003年03月26日付で、この戦争は、政治的・経済的にも、独立(注:内政不干渉ということ)に関しても、「不当で、誤った戦争」である、という署名入り論説を掲載している。著者もこの意見に賛成である。(2003.04.01)
