
2003年04年中旬のモンゴル(2003年04月20日)
筆者は、この4月11日に、モンゴルに着いた。色々と事務手続きなどで(まだ完了していない)ばたばたしていて、資料の分析ができていないので、個人的に見聞したことを中心に簡単に記しておきたい。
・4月11日夜9時頃、スフバートル広場を通ると、バト=ウールの指導する、「土地公正分配運動」(いわゆる「トラクター・デモ」)の人々がハンストを行っているのがみられた。
今回のハンストは、4月7日に始まり、農民たちに土地を分配するよう要求し、エンフバヤル首相に直接面会することを求めるものであった。ウランバートル市警察による、強制立ち退きなどの強硬手段が執られたが、それに抗して続行された(後述のSARSのため13日に一時中止)。
ただ、筆者が12日の朝、スフバートル広場に行ってみると、人影はまばらで、あまり市民の関心がないように見受けられた。農民たちがハンストをしている片隅で、人々が議論している以外には、静かであった。
これは、第一に、ウランバートル市民は農地を所有したり利用したりしていないので、関心が薄いこと、第二に、「土地所有法」(この5月1日施行予定)自体が詳細が不明で、最近やっと、「土地所有法解説書」が1000トグルグで出されたらしいが、価格からみても、一般市民が購入できず(無料にすべきである)、この面からも国民の関心度が低い(よく知らないらしい。学生たちに聞いても首をかしげているものがほとんどであった)。当該法は、モンゴルの国家的性格を変えるような重大な法律であるにもかかわらず、国民の関心が低い。これは、指導層の(国際援助機関を含めて)意図によるものなのか、単なる官僚制度の非効率のせいなのかは不明である。たぶん両方であろう。
政府は、このハンストがバト=ウールの政治的ショーである、とみなして無視の構えである。
・2003年度春期国家大ホラル(国会)が4月7日から始まった。
この冒頭演説での特徴(政令の規定により、大統領、議長、首相、8名以上の議会会派の代表が行う)は、第一に、バガバンディ大統領がモンゴルにはびこる腐敗に警鐘を鳴らし、特に、政府高官による汚職に言及した。この「汚職」の「うわさ」とは具体的何なのか、現地のモンゴル人(もったいぶって言えば「あえてニュース・ソースを記さない」)によれば、例えば、農牧業銀行民営化作業に関わるものだという。
第二に、トゥムル・オチル国会議長がモンゴルの経済成長に言及した。ただ、この時期に発表された、国家統計局の2003年度第一4分の半期の「経済社会概況」を読むと、財政赤字拡大、外貨準備高と貯蓄高の上昇、政府借款額減少、消費者物価上昇、対外貿易赤字拡大、といった状況であって、とても経済成長を遂げているようには思えない。
筆者による現地での観察によれば、確かに小売店舗が増え、モノが増えている。その上、不法に道路にせり出している店舗もある。現地のモンゴル人によれば(これもあえて名前を秘す)、市当局に賄賂を贈ったのか、法令を無視したのか、あるいは、筆者のみるところ、単に、国家資産は個人に帰す、という政府上層部をはじめとするモンゴル的発想からであろう。このため、以前はアパート1階は治安上の観点から、不人気だったが、現在は、最も高い価格で転売されるのがアパート1階であるという。
ウランバートルは消費の町でもある。金銭がないと生活ができない。公式失業者数は4万5700人である。筆者の勤務する大学に講師に来ている人は、夫婦合わせてで10万トグルグの所得だ、と言っていた。大学を掛け持ちしてである。
こうした一般的なウランバートル市民が高い購買力があるとは思えない。経済力のあるのは一部富裕層だけで、一般市民はぎりぎりの生活を送っているようである。
また、国家的レベルにおいても、「援助」に依存する経済であって(その「担保」は暗黙のうちに借り手・貸し手とも、国民の財産である鉱物資源である)、国内生産が少ない。
第三に、野党議員グンダライは、昨年の行動をさらに加速させて、エンフバヤル首相の演説中に演壇後方で、プラカードを掲げた。そのプラカードには、「なぜ我々に発言の機会を与えないのか」「家畜頭数が3千万頭から2千万頭に減少した」「1億5千2百万トグルグ相当の政府高官による汚職がある」「国民テレビ・ラジオ局は人民革命党の所有物ではない」「モンゴル国民2人につき1人は貧困、4人につき1人は極貧である」「『良き統治』は低下している」とあった。
昨年は、自分の議席にプラカードを掲げていたのだが、今回は、首相が演説している後方にたって、プラカードを掲げた。武闘派のビャンバドルジ副議長も今回はあきれ顔で、素知らぬ顔だし(前回はこのプラカードを自ら破り捨てた)、トゥムル・オチル議長に至っては、しかたがない若者だ(彼は元教師)、というふうなにやにや顔である。エンフバヤル首相に至っては、渋い顔で、結局は、冒頭演説は短期間に切り上げざるを得なかった。
今回のグンダライの作戦は、その意味で大成功だった、とみていいだろう。何しろ、エンフバヤルの演説内容と正反対の文言を掲げて、その後方に立っていたのであるから。
この若い野党議員を即刻退場させないのもまた、モンゴルの議会風景である。
・香港に端を発した新型肺炎(SARS)感染者がモンゴルでも発見された。流入経路は内モンゴルである。患者は5人と言われている(6人とも)。
ウランバートル市当局は、4月13日、命令を出し、公的行事の自粛、バー・レストランの夜10時以降の営業禁止、大規模公的市場の営業禁止、官庁・学校でのマスク着用、などを決定した。
著者も学生にマスク一個もらった(もちろん新品)。それを着用して、外国人登録局に行った。そうしないと入れてくれないからだ。入り口にはマスク売りのおばさんが立ち売りしていた。そのマスクの価格は上昇している(マスクは薬局で販売されている)。大学の授業もマスク着用である。お互いに顔がわからず、不気味なものである。
その他、知人などにあったりして、モンゴルでの1週間があっという間に過ぎていった。(2003.04.20)
