続・フシュート石炭鉱山を国家戦略鉱山に指定するよう要求(2010年5月10日)

筆者は、前回の「モンゴル時評」で地元民によって結成された「フシュート・モンゴル運動」の要求について書いた。今回は、それに対する政界の状況について述べたい。

フシュート石炭鉱山の採掘権は、Mongolia Energy Corporation(モン・エン・コ)社が保有している。このことについては前回の時評で述べた。

Mongolia Energy Corporation(モン・エン・コ)社は、中国資本100%の会社である。

この会社がフシュート石炭鉱山開発に投資するための仲介をしたのは、当時ホブド・アイマグ知事であったУ.バルスボルド(注:現人民革命党書記)である。

彼の主張は、フシュート石炭鉱山をホブド・アイマグ政庁主導で開発してホブド・アイマグに利益を還元する、というものであった。

だが、ホブド・アイマグに資金がないから、外資によって(この場合は中国資本によって)開発しようとした。この問題は、中央政界でも問題になり、2010年1月29日、国家大ホラル(国会)安全保障外交政策委員会で審議された。

その結果、安全保障外交政策委員会は、この問題を研究するための作業班結成することにして、そのメンバーにエルデネ、シンバヤル(両議員とも民主党)、ツァガーン(大統領顧問)が入った。彼らは、フシュート石炭鉱山に現地調査に赴いた。

同作業班は、その3ヵ月後、国家大ホラル(国会)安全保障外交政策委員会に対し、フシュート石炭鉱山を国家戦略鉱山に含める勧告書を提出した。

ところが、それに反対する動きがモンゴル政界で起こった。人民革命党書記У.バルスボルドとホブド・アイマグ選出議員、さらに民主党のН. フレルスフ(彼はホブド出身)と二人の民主党アルタン・ガダス派が勢力を糾合して、フシュート石炭鉱山早期開発を主張した。

この主張は、バルスボルドの意に沿うものであった。

一方、これに対抗して、国家戦略鉱山に含めるべきである、と主張する勢力もある(注:政府高官など)。

このように、中央政界では、フシュート石炭鉱山開発をめぐって、早期開発を主張する勢力(注:ホブド派というべき)と国家戦略鉱山に含めることを主張する勢力(注:現大統領派というべき)との対立が深刻化している(以上、ウヌードゥル新聞2010年5月10日付電子版を参考にした)。

地元民の「フシュート・モンゴル運動」は、外資(注:中国資本)によるフシュート石炭鉱山開発に反対している。今後、この問題はどう推移するのであろうか。(2010.05.16)

(追補)上記の「国家戦略鉱山に含めるべきである、と主張する勢力」とは、天然資源エネルギー省副大臣Б.アリオンサンのようだ。彼は、ウヌードゥル新聞(2010年5月24日付電子版)によるインタビューで同趣旨の発言をしている。つまり、この意見は、政府の鉱山部門を担当する部署の責任者によるものだということである。この意味は大きいだろう。(2010.05.30)

(追々補)上記フシュート石炭鉱山開発に関し、ウヌードゥル新聞(2010年6月7日付電子版)が伝えるところによれば、中国資本100%のMongolia Energy Corporation(モン・エン・コ)社には、建設資材会社「レイトン・ホールディング」が、6年前から2億7300万オーストラリア・ドルの投資を行っている、という(注:毎年300万トンのコークス石炭を採掘)。さらに、「エネルギー・リソース」社と共同で、ボーリーング開削、鉄道敷設のため、9億4000万ドルの投資を行うらしい。この記事から判断すれば、フシュート石炭鉱山は、多国籍企業の強い影響下にある、といえそうである。この強大な「敵」に対して地元民の組織した「フシュート運動」は、困難な状況に立ち向かわなければならない。(2010.06.13)

(追々々補)上記フシュート石炭鉱山開発に関し、アビルメド博士(注:ホブド・アイマグ出身)は、フシュート石炭鉱山を国家戦略鉱山に含めるべきであること、モン・エン・コ社は当鉱山を略奪しようとしていること、中央議会・政府、地方行政府の高官・役人たちが汚職・陰謀によって開発しようとしていること、当地出身の自分自身もこの運動に加わりたいこと、などをウヌードゥル新聞(2010年6月21日付電子版)記者のインタビューで述べている。このことは、「アヨーシの牧民運動」の伝統が現在も生きているというべきであろう。


(注:ウヌードゥル新聞2010年6月21日付電子版掲載の写真を転載)
(2010.06.27)

(追々々々補)「モン・エン・コ」社は、フシュート石炭鉱山から採掘した石炭を、大型トラックを使って、「千年道路(「ミャンガニ・ザム」=高速道路)を利用して、340q先のヤラント税関まで運んでいる。このため、「千年道路(「ミャンガニ・ザム」)の破損が激しい、と現地視察を終えた運輸都市建設副大臣が発表した(ウヌードゥル新聞2011年3月23日付電子版)。

この「千年道路」とよばれる高速道路は、エンフバヤル政権(2000〜2004年)の時に計画立案され、現在に至るまでモンゴル各地で建設中である。


(注:ウヌードゥル新聞2011年3月23日付電子版掲載の写真を再掲)

この高速道路が上記「モン・エン・コ」社によって破損されている、という。この修理は、当然のことながら、当社が行うべきであろう。(2011.03.27)

(追々々々々補)オハーボラグ、タバントルゴイ〜ガショーンソハイト間245キロメートルの道路が2011年4月20日から閉鎖される。これまで、1日400台以上のトラックが石炭を中国に向けて運んでいた。そのため道路が壊れ、死者が出たためである(ウヌードゥル新聞2011年4月20日付電子版)。(2011.04.24)

(追々々々々々補)ウヌードゥル新聞2012年11月19日(電子版)の報道によれば、政府はフシュート石炭鉱山を国家戦略鉱山に指定する模様である。


(注:フシュート石炭鉱山2012年11月19日付電子版より)
(2012.11.24)

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