
銅精錬工業建設計画と「モンゴル家畜」計画(2010年4月14日)
モンゴル経済は、基本的には、畜産品と銅・モリブデンに依拠している。この両部門に、新たな計画が作成され実施されようとしている。
まず、銅・モリブデンについて。
銅加工業建設計画案作成のための国家大ホラル(国会)議員作業グループが結成された(2009年11月13日)(ウヌードゥル新聞2009年11月16日付)。
彼らの作成した「銅精錬工業建設計画」案がオルホン・アイマグ(注:エルデネト社がある)選出の国家大ホラル(国会)議員Д.バルダンオチルによって国家大ホラル(国会)に提出された。この計画は、銅精錬工業をエルデネト、オユトルゴイに建設するというものである。国家大ホラル(国会)経済常任委員会は満場一致でこの議案を採択した(ウヌードゥル新聞2010年4月14日付電子版)。
この計画は、突如として立案されたのではない。
エルデネト社は、2004年、イスラエルと合弁で、銅最終製品輸出を行う計画を立案していた。また、韓国・三星と合弁で純銅輸出を行う。これには、フィンランド、韓国、オーストラリア、ロシア、チリ、イスラエル、カナダ、日本が関心を寄せていた(ウヌードゥル新聞2004年11月24日付)。
エルデネト社株主総会が、2008年1月18〜20日、モスクワで開かれ、年産5万トンの純銅生産工場建設計画が承認された(ウヌードゥル新聞2008年12月22日付)。
このエルデネト社の周辺では、米国が資本参加するエルドミン社が、年産5000トンの銅線を製造する企画を持っていた(ウヌードゥル新聞2008年4月22日付)。
一方、オユトルゴイ鉱山においても、将来、純銅生産の必要性が強調された(オユトルゴイ鉱山「投資契約」調印の際のС.バヤル首相[当時]演説)(ウヌードゥル新聞2009年10月7日付)。
国営企業エルデネト社は、1970年代初頭、ロシア(旧ソ連)との合弁で設立された。モンゴル中北部の草原に位置するエルデネト銅・ボリブデン鉱山から産出する鉱物資源は、モンゴルの国家経済に発展をもたらした。
だが、社会主義諸国への銅鉱石=粗銅による輸出は、ロシア(旧ソ連)・東欧からの機械製品輸入とあいまって、モンゴルの植民地型経済を形成していった。
このプロセスは、1990年以降も継続した。
だが、ここにきて純銅製品生産という完成品生産計画が立案された。これは、モンゴル経済の発展に寄与することは疑いない。
次に、畜産品について。
「モンゴル家畜」計画案がД.バルダンオチル議員によって国家大ホラル(国会)に提出された。
その主な内容は、1)モンゴル牧畜業改革のため、2)国民に安全な食料を確保するため、3)2010〜2021年までの期間に9000億トグルグ投入する、4)ソム(注:行政単位、「町」に相当)に獣医院施設、種付けサービス施設などを建設する、5)外部機関・諸国の援助資金による、というものである(モンツァメ通信2010年4月15日付電子版)。
モンゴル家畜頭数については、1999年に一端3000万頭に達していたが、2000年からのゾド(注:冷害)のため減少し、2004年度に2796万6800頭、2005年度に3000万頭、2006年度に3400万頭、2007年度に3900万6408頭になった(ウヌードゥル新聞2004年12月25日、2005年12月23日、2006年12月25日、2007年12月22日付、また、国家統計局統計表参照)。
家畜構成については、ラクダが減少し、山羊が増加している。カシミア毛が採取できる山羊の増加は、牧民の現金収入をもたらすからである。だが、この結果、生態系のバランスに悪影響を及ぼしている。
この家畜頭数の増加は、家畜頭数1000頭以上を所有する「ミャンガト」牧民を現出させたが、その一方、ゾドによって生活手段たる家畜を失い、やむなく都市(ウランバートル市など)に流入し、そこで最貧層を形成する人々を生み出した。
この家畜数増加の淵源は、1990年代初頭の「ネグデル(農牧業協同組合)」解体=「家畜の民営化」による家畜の牧民への分与にある。
この結果、牧民所有家畜頭数は増加したものの、牧畜業向けサービスはなくなり、すべての責任は個々の牧民にまかされた。
1990年以前には、国家が牧畜業サービス部門を経営管理し、ゾドなど危機の際の管理がなされていた。
こうして、ゾドなどの際に国家の保護がなくなり、牧民たちの対処が無力になって、家畜を失うものが多くなったのであった。
(後注:今年[2009〜2010年]のゾドにより、650万頭の家畜が斃死した。2010年4月15日時点で、全家畜を失った世帯が8771戸に達し、半数の家畜を失った世帯が3万2756戸になった。ウヌードゥル新聞2010年4月19日電子版)
こうしてみると、「ネグデル(農牧業協同組合)」解体=「家畜の民営化」は、生態系悪化、社会不安、貧富の差を生み出し、結果的には、失敗であった、といわざるを得ない。
これは、「国営農場」解体による食糧生産の停滞と軌を一にする。
上述の「モンゴル家畜」計画は、「家畜の民営化」を訂正し、1990年以前からあったシステムの「再編強化」を目指すもである。
ただ、この二つの計画は、「外国援助」と「外資」に依拠している。1990年代以前の否定的側面の継承だけは避けるべきであろう。
いずれにしろ、1990年以降の20年間で、歪曲され、失われたものを取り戻し、モンゴル史の正しい方向に戻ることが課題となっている。(2010.04.18)
