
債務返済不能に苦しむ牧民世帯に対する課税免除法案作成(2009年5月14日)
世界経済混乱によって、物価上昇、畜産品原料買い取り価格下落が起こり、牧民世帯の生活が困難になっている。
つまり、牧民世帯は、畜産品原料買い取り価格の急激な下落のため、銀行に負っている負債返済が不能になっているのである。
現在、ХААН(農牧業)銀行に対して、6万6000戸の牧民世帯は、総額819億トグルグの債務残高がある。これは、牧民世帯1戸あたり120万トグルグに相当する。
(注:牧民世帯。バヤンホンゴル・アイマグ、イフボグド・ソム。2003年。筆者写す)
(注:山羊の搾乳を準備をする牧民世帯。バヤンホンゴル・アイマグ、イフボグド・ソム。2003年夏。筆者写す)
(注:ヘンティ・アイマグ、ガルシャル・ソム、第1バグの牧民世帯。2003年夏。筆者写す)。
(注:ヘンティ・アイマグ、ダルハン・ソムのミャンガト(富裕)牧民世帯。2003年夏。筆者写す)。
非公式統計によれば、牧民世帯は、17万1100戸(1世帯平均4人)で、その内の70.8%が牧畜専業世帯である。牧民世帯への所得税課税方法は、牛・馬は羊5頭分、ラクダは羊2頭分、山羊は羊1.5頭分にそれぞれ換算するやりかたである。
政府は、これらの牧民世帯に対する課税を免除する法案を作成した。ただし、定住する世帯で、個人的使用家畜を放牧する世帯に対する措置は除外される(以上、ウヌードゥル新聞2009年5月15日付より)。
デムベレル・国家大ホラル(国会)議長は、かつて、牧民の借金返済期間延長につき、モンゴル郵便銀行、ハス銀行、ХААН(農牧業)銀行に要請していた(ウヌードゥル新聞2009年4月2日付)。
ただし、この法案には根強い反対論もある。これは、特に、ウランバートル選挙区選出の国家大ホラル(国会)議員(注:都市住民を援助すべきであるという意見)や民主党議員(注:自由な市場経済に任せるべきであるという意見)から出されている。
再度、ХААН(農牧業)銀行についていうと、同銀行経営最高責任者代理Д.バトサイハンが述べるところによれば、ХААН(農牧業)銀行は、これまで、2000年のゾドで被害にあった数千世帯の牧民家族に融資を与えた。その後8年間で、延べ42万1900人の牧民世帯に総額5081億トグルグの融資を与えた。最近の畜産品原料価格の暴落(皮革、羊毛、カシミア、肉)のため、彼らの返済状況が悪くなっている。牧民の担保は、家畜、自動車、バイク、ゲル、ソーラー電池である。100頭以上の家畜所有者に1年期限月利2.0〜2.7の融資を与えている、という(ウランバートル・ポスト新聞2009年1月29日号)。
この状況(ХААН銀行と商人に対する負債)に関し、牧民世帯の現状は、1921年の人民革命以前と変わらない、と指摘する向きもある(ウヌードゥル新聞2008年12月12日付)。
モンゴル農牧業は、モンゴル産業の根幹である。モンゴル人の食をも支えている。これらを自立させることは、政策の最重要課題である。
モンゴル農業については、「開墾V」運動によって、モンゴルの歴史的伝統を守る動きが始まった。モンゴル牧畜業でも同様な動きが必要である。そのために、まず、牧民世帯の生活・産業基盤の強化が求められているのである。(2009.05.17)
