
農牧業銀行が民営化され、日本のHS証券が落札した(2003年01月24日)
モンゴルの銀行の中で、第3位の銀行である農牧業銀行(ХААН ванк)が、2003年01月24日、民営化された。落札したのは、日本のHS証券であった。
モンゴルでは、民営化(=国有資産の「私有」化、あるいは「簒奪」)は、1991年06月07日に「民営化法」が制定された時点から始まる。これまで、2段階の過程を経ている。第一段階は、「民営化委員会」によって実施され、バウチャー(クーポン券)方式によって、大小国営企業資産が国民一人一人に無償で分与された(=私有化された)。第二段階は、「国有財産委員会」(1997年設立)によって実施され、証券取引所を通しての国有財産の売却、および非公開方式(後に公開方式)での外資の参加する競売入札方式をとる。
第一段階の民営化は、基本的には、国営企業の解体→営業停止を招いた。また、地方でのネグデル(農牧業協同組合)資産の民営化によって、組合員および一般国民に家畜が無償で分与され、モンゴルでの家畜頭数増加に寄与したとされる。だが、これは、家畜の対ロシア輸出の停止が大きな原因の一つである。必ずしも成功例であるとはいえない。現に、2年前からのガン(干ばつ)やゾド(冷害)によって深刻な被害を被ったのは、家畜民営化によって、国家からの情報の伝達や災害対策が講じられなくなったために被害を大きくした。だから、第一段階の民営化は失敗であった。
第二段階の民営化は、現在進行中である。国有不動産・動産の売却は、現在も続けられている。遊休物件が多いので、これらがモンゴル国民の活動の源泉になるかどうかの判断は、もう少し時間が必要となるだろう。
ちなみに、何回もここで取り上げている「土地の所有化」も、この段階で並行して進んでいる。これについては、ここでは取り上げない。
外資誘引の競売入札が今回の農牧業銀行の民営化であった。いままで、この形態では、APU(酒・飲料醸造販売会社)、商業発展銀行の民営化があった。両者については、かつてこの「モンゴル時評」で取り上げたので、これも言及しない。
農牧業銀行(ХААН ванк)は、国営の商業銀行であって、1991年11月01日、農牧業協同組合銀行が改名されてできた。全国に352の支店網をもち、地方に強固な基盤がある。小規模営業主、牧民、年金生活者に融資している。自己資金は24,170,000ドル、経常利益は201,000ドルである(2002年3月31日時点)("Annex 1 to Government Resolution No. 142 of July 8, 2002" による)。民営化される直前まで、国際開発協会(IDA)派遣のピーター・モロウ(Peter Morrow)という人物が経営していた。ということは、米国中央情報局(CIA)との関係もある、ということだ。この人物は、1991年の「モンゴル最高の経営者」に選ばれた。米国からの様々のノウハウが注入されたと思われる。
一方、落札したHS証券(エイチ・エス証券株式会社)は、その公式ホームページによれば、代表取締役社長・澤田 秀雄、資本金 33億3,299万2,500円、従業員数 154名(平成14年9月30日時点)、事業内容 株式、債券、投資信託などの売買、媒介、取次または代理、株式、債券等の引き受け、有価証券の売り出し、募集もしくは売り出しの取り扱い、上記に掲げる業務に付帯する業務、S33/ 1/ 21 合同証券株式会社を継承して協立証券株式会社を設立、H11/ 4/ 1 エイチ・アイ・エス協立証券株式会社、H13/ 4/ 1 エイチ・エス証券株式会社に社名変更、ということだ。かつて、モンゴルでは、ヘッジ・ファンドのかのジョージ・ソロスがもてはやされ、今回は、同様の性格を帯びる人物の経営になる企業が(”HS”という名前はこの人物のイニシャルかもしれない)、モンゴルの資産を685万ドルで買い取ったわけだ。
当然、モンゴル側は、この証券会社を仲介して、日本からの資本投下が期待できる、と手放しで喜んでいる。応札した他の二つの企業体の価格が、この落札者によって事前に入手されていた、というから(ウヌードゥル新聞2003年01月27日付)、日本では「談合」にあたる「犯罪」行為になるのだが、現地ではそれは話題にもならぬ。(2003.02.06)
(追補)このHS証券代表取締役社長の将来構想は、農牧業銀行の支店網をアジア全域に張り巡らすことだという。これは、強固な地方の基盤を放棄し、地方支店を整理統合することを意味する。筆者たちのグループは、2003年8月に、ヘンティー・アイマグのガルシャル・ソムで、農牧業銀行支店の聞き取り調査を行ったが、この支店にも地方のモンゴル人が数多く訪れていた。こうした地方支店が廃止されれば、困るのはモンゴル人であろう。(2003.08.18)
