モンゴル・ロシア両国政府がエルデネト社問題を協議(2003年02月10日)

ゾーニー・メデー新聞(2002年02月10日付)の報道するところによれば、モンゴルとロシア両政府は、エルデネト鉱業会社に関する1991年の交渉を更新するために、実務者交渉を開始する、という。

この交渉の第一回目は、2003年01月20〜24日にウランバートルで行われ、第二回目の交渉が2003年02月10日から4日間モスクワで行われる。第二回目の交渉には、Ч.ガンゾリグ商工相が担当する。

この協議の内容は、エルデネト鉱業会社設立に伴って生じた、モンゴルの「対ロシア負債返済問題」、および当該会社のモンゴルへの地代支払い充当額分の「資本金増資問題」である(ウヌードゥル新聞2003年02月13日付)。

モンゴルの対外貿易の内容は、基本的には、銅・モリブデンとカシミヤを輸出し、石油と機械製品を輸入している。この銅・モリブデンの採掘・輸出を行って、国家予算歳入の7割近くを納入しているのが、エルデネト鉱業会社である。だから、モンゴル随一の基幹産業である。

エルデネト鉱業会社は、1974年にソ連の全面的支援で設立された。設立当初、すでに8万人がエルデネト市に居住していた。2000年の人口家計調査によると、現在は、7万6千500人である。

エルデネト市建設は、その当初から、内外の注目を集め、モンゴル国内では、ツェデンバル首相のいう、「農工国家から工農国家」への転換、すなわち「社会主義建設の基礎の完了」の象徴と見なされた。当然、これは、モンゴルの「コメコン(経済相互援助会議)」への加入(1962年)による、国際分業体制への必然の帰結であった。一方、資本主義国では、米国の保守的な研究者達、特にマーフィー(Murphy, G. G. S.)、ルーペン(Rupen, R. A.)などは、これを「モンゴルの植民地化」と見なして、ソ連を激しく非難した。

エルデネト鉱業のモンゴル経済への寄与は否定できない。だが、一方で、いわゆる原料と機械製品の不等価交換によって、銅・モリブデン価格の恒常的低下、石油・機械製品価格の上昇、という現象は1980年代に入って顕著になった。

ただ、この価格の差額分は、「援助」として、「振替ルーブル」でコメコン銀行帳簿に記帳されるだけで、実際にはモンゴルが納入することはなかった。

だが、ゴルバチョフのペレストロイカ(1985年以降)で、資本主義的手法が導入されるのに伴い、この振替ルーブルは、ルーブル貨への1対1の等価交換で、「負債」と見なされ、ここで返済問題が生じた。当時のトグルグの対ルーブル価、さらにルーブルの対ドル価は「いびつ」なものだったから、このいわゆる「負債」はモンゴルの国家予算総額に匹敵した(注:この「負債」総額[1949-1990年]は98億振替ルーブルである)。

だから、1989年に民主化運動が起こされた時も、この対ソ連負債返済問題も一つの争点となった。つまり、民主化運動家達は、ソ連が銅・モリブデンを不当に廉価で国外に持ち去ったのであるから、負債返済は無効である、と主張した。モンゴル経済がソ連経済に「従属」している、という意味であった。

もっとも、その時点でのモンゴルおよびソ連の実務者達は、もう少し冷徹であって、モンゴル側は、インフラ部門、国民向け社会サービス、国際貿易収支均衡などのための負債は、返済不能のため、負債総額の90%以上を無効にすることが提案され、一方、ソ連側は、負債総額の三分の一を返済免除にすることが提案されて、交渉に入っていた。

最近では、2000年11月13〜13日、プーチン・ロシア大統領がモンゴル訪問をした際も、この負債問題が取り上げられ、1)負債が生じた歴史的状況、2)国際慣行、3)両国の従来からの友好的な関係、などを勘案して解決することに合意している。

しかし、IMF、世界銀行はこの対ロシア負債問題を重視して、返済するよう強く迫っている(ゾーニー・メデー新聞2003年02月10日付)。これは、将来自らの機関にも生ずる問題であることを強く意識していることと思われる。これは、「友好的」な態度ではないことは否定できなかろう。

1991年以降、エルデネト鉱業会社は、モンゴル・ロシア合弁会社となった(持ち株比率は、モンゴルが51%、ロシアが49%)。当該会社は、モンゴルの基幹産業であるからして、1990年代には、モンゴル政治経済社会に大きなインパクトを与えてきた。例えば、ゾリグ国会議員暗殺事件の背景として、このエルデネト社を巡る、「マフィア」暗躍(もちろんゾリグはこの問題を徹底的解明しようとしたのであって、彼が関係したのでは決してない)、オトゴンビレグ社長を弾劾した「世紀の横領」報道、エルデネト社のロシア側持ち株「民営化」を巡る訴訟事件と、それの処理を巡るナランツァツラルト首相解任問題、また、ドルリグジャブ社長の背任問題、などがあるが、ここではふれない。

以上のような歴史的経過をふまえて、このエルデネト鉱業会社の対ロシア負債問題が協議されるわけである。

その交渉を要約すれば、ロシア側は、エルデネト社のロシア持ち株を増加させることによって、対ロシア負債の帳消しを提案している。一方、モンゴル側は、エルデネト社の地代支払いの原資によって、モンゴル側の持ち株が60%から80%まで増資することが可能だとしている(ウヌードゥル新聞2003年02月13日付)。

これは、今春3月に予定されている、エンフバヤル首相のロシア訪問の事前交渉の意味もある。だから、この問題が解決できるかどうかは、エンフバヤル人民革命党政権の命運にも関係してくる。(2003.02.17)

結局、この交渉は合意に至らず、次回の協議は延期になった(ウヌードゥル新聞2003年02月27日付)。これがエンフバヤル政権にどういう影響を与えるかの結論を出すには、今少し時間が必要であろう(追補2003.03.02)。

エンフバヤル首相のロシア訪問を前に、3月4日、3回目の交渉が行われた。これは、対ロシア負債問題が重要であることを物語っている。同時に、前述のように、この交渉がエンフバヤル人民革命党政権に少なからぬ影響を与えることを示すものである(追々補2003.03.08)。

モンツァメ通信(2003年03月19日)によれば、この対ロシア負債は、10億2600万ドルと見積もられ、その60%を返済免除、残りの40%を現物返済、ということで合意に達した、という。これは、モンゴル側にとって大きな負担であることは言うまでもない。国内で、いずれ論議がわき起こること必至であろう(追々々補2003.03.22)。

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