モンゴル銀行が政策金利を引き上げた(2009年3月10日)

モンゴル銀行は、2009年3月10日、政策金利を9.75%から14%に引き上げる、と発表した(ウヌードゥル新聞2009年3月11日付)。


(モンゴル銀行。筆者写す)

モンゴルでは市中銀行の金利が固定していないから、政策金利の引き上げによって経済活動の後退は生じない、というのが、モンゴル銀行(および国際金融機関)の判断なのであろうか。

だが、この政策金利の引き上げは、市中銀行の金利の引上げに連動するだろう。

なぜなら、モンゴルの市中銀行は、その経営基盤が脆弱であって、政策金利の引上げに耐えられないだろうから。

モンゴルの市中銀行が金利を引上げれば、銀行の融資活動が停滞し、企業活動が衰退する。

企業活動が衰退すれば、モンゴル経済が更に混迷する。

これは、自明である。

現に、この事態を恐れたС.デムベレル・モンゴル商工会議所所長は、モンゴル銀行による政策金利引上げがIMF(2億2400万ドルの借款供与の条件として)の指示にしたがった誤った決定であって、モンゴル中小企業の活動を妨げるものである、として反対を表明した(ウヌードゥル新聞2009年3月11日付)。

では、なぜこのような「無謀な金融政策」をとろうとするのか。

実は、IMF現地スタッフ(注:IMFはモンゴルにスタッフを常駐させてモンゴルの経済政策を「監視」している)は、財務省およびモンゴル銀行の幹部と会談し、世界経済混乱のモンゴルへの影響を考慮して、2億2400万ドルの借款を供与することに同意し、その条件として、「外貨準備高を引上げること」、「社会給付金を精緻化すること(必要な人にのみ支給する)」を押しつけた(ウヌードゥル新聞2009年3月9日付)。

この「外貨準備高を引上げる」ために、モンゴル銀行は、1)「銅・金特別税」の廃止に乗り出し(以前の時評参照)、2)モンゴル国内でのドル紙幣の蓄積をねらって(注:これに2億2400万ドルの融資が加わる。さらに、中国から30億ドルの借款[年利3%、30年償還]にも合意した。ウヌードゥル新聞2009年3月13日付)、「政策金利の引上げ」政策を打ち出したのであった。

これらは、モンゴルの「歴史」と「伝統」に背馳するという点はここではいわないとしても、少なくともモンゴルの「現状」に会わない。

世界経済混乱(注:米国が引き起こした)は、銅の世界市場価格の下落(注:1トン当たり約7500ドルから約2500ドルに下落)という形でモンゴルに影響を及ぼしている。

この銅の世界市場価格の下落によって、国家予算の赤字が生じ(注:国営企業[モンゴル・ロシア合弁企業]エルデネト社の国家予算納入額が国家予算歳入の約60%を占める)、エルデネト社の収支決済でのドル減少をもたらした。


(エルデネト社採掘現場。筆者写す)


(エルデネト社。オルホン・アイマグ、エルデネト市。筆者写す)

さらには、経済活動の縮小によって、国内へのドル流入の減少を引き起こしている。このことが、トグルグ価の対ドル価減少(注:1ドル約1200トグルグから約1500トグルグへ)をもたらしている。

この原因は、銅・モリブデンおよびカシミアなど原材料の輸出に依存する「植民地」型経済をモンゴルが取っていることである。

「モノ」の生産が少なく、生産物の80%近くを輸入に依存している。その取引の決済はドルによってなされる。だから、ドル価の世界的減少傾向は、モンゴルでは、みられない。むしろそれは恒常的に増大している(注:このため、政府は、経済活動の決済を国内通貨でのみ行う法案を作成しようとしている)。

だから、モンゴルは、中小企業の育成に力を注ぎ、その富の蓄積をもとに原材料加工業を振興させなければならない(注:С.バヤル政権は、2009年を「中小企業振興の年」にしたが、今回のモンゴル銀行のやり方はこの動きにも反する)。

モンゴルがIMFプランにいつまでも従っているのは、モンゴルの将来の「発展」に否定的な影響しか与えないであろう。(2009.03.15)

(追補)上記「トグルグ価の対ドル価減少」への対案として、対ドル相場を恣意的に引き上げていると言われる「外貨(ドルなど)両替商」(注:モンゴルではいわゆる「チェンジ」と称される小規模両替業者。「ナイマン・シャルガー」がその代表的なもの)を「ББСБ(非銀行金融機関[貯蓄組合])」に組織化することになった(2009年5月までに)。その際の自己資金は5000万トグルグである(ウヌードゥル新聞2009年3月20日付)。これによって効果が現れるかは、今後を見なければならないであろう。(2009.03.22)

(追々補)上記に関して、2009年5月1日から、小規模外貨両替商を自己資金5000万トグルグ以上のものにのみ非銀行外貨両替業者の許可を与える。このため、彼らは、「ББСБ(非銀行金融機関[貯蓄組合])」を組織化することを余儀なくされている(ウヌードゥル新聞2009年4月24日付)。(2009.04.26)

(追々々補)財政調整委員会は、2009年5月6日、非銀行金融機関として、130機関の21カ所を認可した(ウヌードゥル新聞2009年5月7日付)。(2009.05.08)

(追々々々補)モンゴル銀行は、2009年5月11日、政策金利を1.25%下げる決定を出した。その理由として、1)銅・金世界市場価格の上昇傾向、2)トグルグ安定化傾向、3)対外貿易赤字縮小傾向、4)インフレ下落傾向などをあげている(ウヌードゥル新聞2009年5月13日付)。なお、非銀行金融機関は、従来の場所で営業中である(ウヌードゥル新聞2009年5月13日付)。(2009.05.17)

(追々々々々補)モンゴル銀行は、5月12日(注:5月11日か?)に引き続き、2009年6月12日、再度、政策金利を1.25%引き下げ、11.5%にした。これは、ロシア中央銀行と同じ水準である。この政策金利引き下げの理由として、モンゴル銀行の専門家は、1)インフレ率が引き続き下がっていること、2)トグルグの外為比が安定していること、をあげている。また、モンゴル銀行総裁は、この結果、この政策金利引き下げは、モンゴル経済後退を防止し、市中銀行による融資供与意欲を高めるだろうと述べた(ウヌードゥル新聞2009年6月16日付)。いずれにせよ、先月に引き続き、政策金利が引き下げられたわけである。建設業部門からの市中銀行融資申し込みなどが活発化するかもしれない。(2009.06.17)

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