
С.バヤルによる連合政権構想をどう見るか(2008年9月3日)
モンゴルでは、2008年7月1日の「騒乱」の後遺症が残っているが、ここにきて、ようやく政局が動き出した。これを時系列で列挙する。
2008年8月28日、国家大ホラル(国会)総会が開催され、当選議員76人のうちの67人が議員宣誓を行った(ウヌードゥル新聞2008年8月29日付)。残る9議員は、公務出張や選挙区での当選認定作業が遅れているため、宣誓を行っていない。
その中には、「騒乱」の煽動者の一人エルベグドルジ(民主党)が含まれている。彼には、逮捕される可能性が残されている。
2008年8月30日、選挙に敗北した民主党は、エルベグドルジに代えて、アルタンホヤグ(アルタンガダス派)を党首に選任した。なお、アルタンガダス派というのは、民主同盟連合政権時代(1996〜2000年)に、同政権内の「反対派13人」を中心にして生まれたものである(ウヌードゥル新聞2008年9月1日付)。この「アルタンガダス」には、人民革命党のニャムドルジも加わっている。
2008年9月1日、国家大ホラル(国会)は、同議長にД.デムベレル(人民革命党)を選出した(ウヌードゥル新聞2008年9月2日付)。
2008年9月1日、С.バヤル人民革命党党首は、アルタンホヤグ民主党党首と会談し、「インフレ」、「物価値上がり」、「鉱山部門の成長」などの問題について、民主党と協力して政局を運営することを提案した。これに対し、アルタンホヤグ民主党党首は、「貧困」、「収入格差の不均等」、「民生不安」などの除去が必要であり、協力できると答えた(ウヌードゥル新聞2008年9月2日付)。
2008年9月3日、人民革命党小会議が開かれた。その席上、С.バヤル党首は、鉱山部門の開発には人民革命党と民主党の協力が必要であること、また、モンゴルには融和が必要となっていることを述べた。これに対し、テルビシダグバは、(連合政権は)憲法違反である、として反対意見を述べたが、圧倒的多数の賛成で、彼の提案が受け入れられた(ウヌードゥル新聞2008年9月4日付)。
さて、С.バヤルのこの「連合政権」構想は、まだ実現していないが、なぜこの構想が生まれたのであろうか。
元来、「憲法」や「国家大ホラル(国会)法」では、選挙によって多数派となった政党が政権を担当することになっている。このため、人民革命党と民主党のそれぞれに反対する人々がいる。また、憲法学者チミドも、国民の選択が尊重されるべきである、と述べて、この構想に疑念を表明している(ウヌードゥル新聞2008年9月4日付)。
2004〜2008年には、究極的均衡状態のため、各党が同盟して政権が結成された(注:エルベグドルジ大同盟政権[2004−2006年]、М.エンフボルド人民革命党主導政権[2006−2007年]、С.バヤル政権[2007−2008年])。これは、やむを得ない措置であった。
この状況に類似したをあげると、1990〜1992年のビャンバスレン政権(人民革命党)の時に、野党(民族民主党、民主党[第1次])が政権に参加した。当時は、経済混乱が深刻化し、単独政権は困難であった。
実際、今度の連合政権構想で、С.バヤルもアルタンホヤグも、「物価値上がり」、「民生不安」を連合政権結成のための根拠の一つとしてあげている。
つまり、現代モンゴルにおける「貧富の差の拡大」がこの連合政権構想の背景にある。
第二に、「鉱山部門」開発の問題がある。モンゴルでは、鉱山部門は(注:現状では、「銅・金」、「石炭」)、憲法に規定するところの「モンゴル国民の所有物」として、国家主導の下で開発しなければならないとされている。
だから、単独政権での「鉱山部門」開発は、不適当である。
少なくとも、各政党や諸運動を抱き込んでの、資本主義大企業による「搾取」は回避されなければならない。
従って、この連合政権構想に外資がどのように反応するか注目される。
さらに、野党による監視機能がなくなるのではないか、という問題がある。かつて、
市民の意志党が「影の内閣」を結成して、政府に対する監視機能を果たそうとした。今度も、市民の意志党は、無所属議員と共に、この機能を果たすことを期待したい。
ここにきて、労働組合連合(注:議長は市民運動出身のガンバータル)は声明を出し、物価値上がり(注:40%以上といわれる)のため、生活が困難となっているとして、抗議集会を開くことを宣言した(ウヌードゥル新聞2008年9月4日付)。
2006年半ば以降、エルベグドルジの「怨念」(注:人民革命党によって政権を更迭されたことに対する情念)がモンゴル政治を混乱に陥れてきたが、2008年後半期のモンゴル政局はこうのようにして動き出した。(2008.09.10)
(追補)国家大ホラル(国会)総会は、2008年9月19日、С.バヤル連合政権の閣僚を承認した。閣僚は以下の通り。
第一副首相Н.アルタンホヤグ(民主党議員)、副首相М.エンフボルド(人民革命党議員)、財務相С.バヤルツォグト(民主党議員)、外務相Сv.バトボルド(人民革命党議員)、自然環境観光相Л.ガンスフ(民主党議員)、国防相Л.ボルド(民主党議員)、教育文化科学相Ё.オトゴンバヤル(人民革命党議員)、社会保障労働相Т.ガンディ(人民革命党議員)、鉱物資源エネルギー相Д.ゾリグト、食糧農牧業軽工業相Т.バダムジョナイ(人民革命党議員)、保健相С.ラムバー(民主党議員)、官房長官Б.ドルゴル(人民革命党非議員)。(ウヌードゥル新聞2008年9月22日付その他)。
その後、С.バヤル首相が演説し、大略、抱負として以下のことを述べた。すなわち、「貧困」、「後進」、「不正」などから脱却し、「発展」の道にはいる。工業化(をめざし)、公正な政治を行う。「責任」を重視する(ウヌードゥル新聞2008年9月22日付)。
С.バヤルという政治家は、今後の政治実績次第で、モンゴル史に残る政治家になる可能性を秘めている。(2008.09.23)
