
Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相罷免要求をめぐって(2008年04月28日)
このパン価格値上がり問題に関して、民主党国家大ホラル(国会)議員グループのЗ.エンフボルドとР.エルデネブレンは、2008年4月28日、Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相が小麦粉価格を550トグルグ以下にできなかった、という理由で、彼を罷免する議案を国家大ホラル(国会)議長に提出した(ウヌードゥル新聞2008年4月29日付)。
その罷免要求書には、「Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相は、国家大ホラル(国会)総会で小麦粉1キログラムの価格を550トグルグ以下にすることを約束した。国家大ホラル(国会)が4万トンの小麦と小麦粉の関税を免除する決議を出しても効果が上がらなかった」 、とある(ウヌードゥル新聞2008年4月30日付)
これに対し、Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相は、「З.エンフボルドが、パン価格値上がり阻止に関する自分の失敗を他人に転嫁するため、今回の罷免要求を出した」、と記者へのインタービューで答えた。
このことは、З.エンフボルドやГ.ザンダンシャタル議員たちの提案で、138億トグルグの補助金支給のための政府案が否決されたことをさしている。
また、Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相は、「パン製造会社との協定により、2月末まで価格が安定していた」、「10万トンの小麦と1万トンの小麦粉を輸入し、貯蔵する計画を2007年12月に国家大ホラル(国会)に提案した。これをЗ.エンフボルドたちが反対して、その結果(この計画が)実現しなかった」、と具体的にЗ.エンフボルドたちに反論した(以上、ウヌードゥル新聞2008年5月2日付)。
さて、この問題の背景には無論、モンゴルで現在、物価が急激に値上がりしている事実がある。
だが、それ以上に、国家大ホラル(国会)議員選挙(注:6月29日予定)をめぐる選挙戦術が見え隠れする。
民主党党首エルベグドルジは、2006年1月に人民革命党によって首相職を逐われた。エルベグドルジによるこの怨念が(注:モンゴル政治は「怨念」が露頭する、珍しい国の一つである)、2006年以降の民主党による政府倒閣運動を引き起こし、2007年まで、政治的不毛の期間が続いた。
結果的には、М.エンフボルド人民革命党主導政権は倒れ、С.バヤルが政権を引き継いだ。
ここまでは、エルベグドルジの試みは成功したように思われる。だが、その反作用として、民主党(およびエルベグドルジ)の支持率が低下し、С.バヤル(および人民革命党)の支持率が回復した。
これには、モンゴル政治を混乱させたエルベグドルジを忌避する動きがその背景にある(注:С.バヤルが提案した「比例代表選挙制度」導入を、エルベグドルジがかたくなに拒否したこともその要因の一つである)。
そして、選挙が間近に迫った。
民主党は、З.エンフボルドらを使って、С.バヤル政権への支持率を低下させる方策を講じた。
Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相が罷免されるかされないかは、余り問題ではないように思われる。
「罷免されれば」、Ц.ガンホヤグを「擁護」できなかったС.バヤル首相(人民革命党党首)がその非難の矢面に立ち、Ц.ガンホヤグの所属する市民の意志党(注:彼は同党副党首)の離反を誘発するであろう。あわよくば、民主党が主張する、「民主党への市民の意志党の取り込み」が成立するかもしれない(注:モンゴル語では「統一」というが、実質的には「取り込み」である。その可能性は低いとしても)。
また、「罷免されなければ」、М.エンフボルド前政権時代の政治混乱が再び繰り返され、このところ高支持率を維持する、С.バヤル個人への非難が澎湃として起こり、С.バヤル政権の支持率が低下するであろう。
こうした目的で仕掛けられた政治ショーは、しかし、Ц.ガンホヤグの反論によって失敗するであろう。
市民の意志党は、モンゴル人の間では、「公正」「誠実」のイメージをもっており、前回のエルベグドルジが仕掛けた「政治的爆弾」が爆発しそうにない。
ちなみに、パン価格値上げを行った、「タルフ・チヘル」、「アルタン・タリア」両社の民営化を主導したのは、当時(1996〜8年)の「国有財産委員会」(注:当委員会が国営企業を「所有」する)委員長だったЗ.エンフボルドであり、不当に安い価格で落札したのは、ジェンコ・グループ代表のХ.バトトルガであった(注:両者はともに現在、民主党議員)。
いずれにしろ、「Ц.ガンホヤグを罷免しても小麦粉価格が下がるのか。食糧の国内生産・自給が重要である。これを政治問題化するのは誰の利益となるか」、と「ウヌードゥル新聞」(2008年4月30日付)は書いている。これは、正しいと筆者は思う。(2008.05.04)
(追補)2008年5月5日、国家大ホラル(国会)自然環境・食糧・農牧業常任委員会が開かれ、Ц.ガンホヤグ食糧農牧業相罷免問題が審議された(出席委員11人)。
その結果、10人の委員が罷免に反対した(ウヌードゥル新聞2008年5月6日付)。
なお、議員たちは、選挙が近づき、浮き足立っている。そのため、国家大ホラル(国会)総会は、2008年5月9日、定足数不足のため、Д.ガンホヤグ食糧農牧業相罷免問題の審議・採決が先送りにされた(ウヌードゥル新聞2008年5月10日付)。
なお、この問題に関するС.バヤル首相の談話が発表されている。
それによれば、(政府は)小麦粉4万トンと小麦10万トンの輸入関税を免除したが、それらが無秩序に輸入されて、行方不明になった。
(食糧農牧業相罷免要求は)政略的である。
新憲法(注:1992年施行)の規定により、(政策の失敗に)責任があるとすれば、それは、最終的には首相にある。(その必要があれば閣僚の)罷免要求は首相が行う(ウヌードゥル新聞2008年5月7日付)。
これは、С.バヤルらしい硬骨な発言である。
なお、筆者は、公平を期すため、あえて書かなかったが、
Ц.ガンホヤグには2度、会ったことがある。(2008.05.11)
(追々補)国家大ホラル(国会)総会は、2008年5月15日、Д.ガンホヤグ食糧農牧業相罷免問題を審議・採決し、同相罷免要求案を否決した。(ON080516)
