
エグ河水力発電所建設問題その後(2008年01月22日)
筆者は、
エグ河水力発電所建設問題についての最近の動きについて、「ところが、このエグ河水力発電所建設計画は凍結された。中国による投資計画案に違法の疑いが出てきたためである。また、環境破壊(森林伐採、棲息魚類死滅)のおそれもある、といわれる(ウヌードゥル新聞2008年1月17日付)」、と書いた。
このことについて、やや敷衍して説明したい。
このエグ河水力発電所の建設費は、3億ドルであり、その内、中国政府が60%(1億8000万ドル)を供出し、モンゴル側が40%(1億2000万ドル)を負担する。さらに、中国側が専門家を派遣する、というものであった。
ところが、ここへきて、С.バヤル首相はこの計画を停止させた。
その理由は、当該計画が非経済的であり、自然環境破壊につながる、ということであった。
そして、当該計画の建設費である3億ドルは、「4万戸アパート建設計画」に充当する。С.バヤル首相は、電力問題を石炭によって行う考えであり、彼は、シベー・オボー炭坑に依拠する火力発電所建設案を支持している(以上、ウヌードゥル新聞2008年01月23日付)。
さて、この事態をどう見るか。
この記事を掲載した「ウヌードゥル新聞」は、С.バヤルの当該計画凍結を批判的に書いている。
だが、エグ河水力発電所建設計画は、1991年、アジア開発銀行(注:私見によればIMF、世界銀行のアジア版、資本主義「侵入」のための代理機関)により調査が開始された(ウヌードゥル新聞2008年01月23日付)。
従って、当初から「いかがわしさ」がつきまとっていた。
どのような調査であるか、詳細は不明だが、モンゴルの実情を知らず(注:冬季に河川が凍結し、夏季にも水量の確保が困難で、当然のことながら、自然環境破壊、牧民の遊牧地侵害などがおこる)、他国の経験を丸写したことは容易に想像できる。
С.バヤル政権の政治手法は、「社会主義的」であって、「政府による政治経済への介入」を強めている。
最近でも、金採掘に伴う環境汚染問題で、「ニンジャ」(注:鉱物資源個人採掘業者)の活動を禁止する措置を執り、彼らの監視責任を怠った人々の責任を問うことにした(ウヌードゥル新聞2008年1月24日付)。ダルハンオール・アイマグ、ホンゴル・ソムでの環境汚染問題の監督責任を問うて、「国家監察局」局長を辞任させ(ウヌードゥル新聞2008年1月17日付)、メチル・アルコール入りのウォッカ飲酒によって14人が死亡し、多数が健康を損なった事態について、メチル・アルコール密輸を見逃した(注:あるいは賄賂を受け取った)税関の責任を問うて、関税庁長官を交代させた(ウヌードゥル新聞2008年1月21日付)。
また、人民革命党出身の政府閣僚と政府高官に対して、人民革命党(党首С.バヤル)は、「倫理」契約を結び、汚職行為を禁止する措置を執った(ウヌードゥル新聞2008年1月18日付)。
更に、鉱山法を一部改正し、国家戦略上重要な鉱山に対する政府の(国家の)所有割合を高めるべく、改正案作成作業グループが結成された。そのメンバーに、С.バヤル首相が参加した(その他のメンバーは、産業貿易相、ダミラン、オチルフー、ザンダンシャタル、З.エンフボルド、バヤルサイハン、Н.バトバヤル議員)。(ウヌードゥル新聞2008年1月24日付)。
農業部門でも、1990年以前の食糧自給を復活させるべく、С.バヤル首相は、農業従事者との懇談会に出席し、農業の復興を訴えた(2008年1月21日、ウヌードゥル新聞2008年1月22日付)。
従って、この「エグ河水力発電所建設計画」凍結も、С.バヤル首相による、従来の政策見直しの一環であることが理解できる。「従来の政策」というのは、無論、「IMFによる急速な資本主義化」である。
その意味で、彼の行動は、モンゴルの歴史的伝統に合致したものである、といえる。(2008.01.27)
(追補)この「エグ河水力発電所建設計画」凍結に関し、エネルギー局長Р.ガンジュールは、(凍結が)適正な措置だ、と述べた。
その理由は、1)電力料金が割高であること(ウランバートル市第3火力発電所が47トグルグ/1キロワットなの対し、70トグルグ/1キロワット)、2)中国政府融資が利子率2%と高率であること(通常は当該部門では、0.75%)、3)建設費に払う3億ドルのうち、2億4000万ドルが中国企業に、6000万ドルがモンゴル企業に支払われ、中国側に有利な権利を与えること、などである(ウヌードゥル新聞2008年2月25日付)。
現政府(=С.バヤル政権)産業貿易省幹部である、ということを割り引いて考えても、説得力があることは事実であろう。(2008.02.26)
