続・ホンゴル・ソム(ダルハンオール・アイマグ)環境汚染問題(2007年09月20日)

著者はかつて、ダルハンオール・アイマグのホンゴル・ソムでのシアン化ナトリウムや水銀使用による、環境汚染問題を取り上げた。今回は、その続報である。

モンゴルでは、金採掘後の洗浄・選別に水銀その他の有害物質を使用している。アルタン・ドルノド社やボロー・ゴールド社などの大規模企業は、一応厳重な管理の下で、こうした物質を使用している。また、新鉱山法(2006年)では、環境保全対策が採掘業者に対し義務づけられるようになった。

だが、不法に金採掘を行っている個人採掘業者(いわゆる「ニンジャ」)は、第1に、水銀使用の危険性に無知のまま、第2に、中国からの密輸された水銀を無制限に(注:水銀使用は、一応、法により制限されている)、使用している。

その結果、日本の「ミナマタ」と同じような環境汚染問題が起こっている。

こうした地域は、ダルハンオールのみならず、トゥブ、バヤンホンゴル、ウムヌゴビ、ドルノゴビ諸アイマグなど、多岐にわたっている。

ダルハンオール・アイマグ、ホンゴル・ソムに関しては、国家大ホラル(国会)民主党会派代表Л.ガンスフ(注:ダルハンオール・アイマグ選出議員)は、2007年9月18日、ホンゴル・ソムでの環境汚染問題に対し、М.エンフボルド政府が関心を持っていない、と非難した。

さらに、行政側が、シアン化ナトリウム被害を証明した住民に対し圧力をかけ、こうした被害例はない、といっている、と彼は述べている。

そして、その対策として、1)政府準備金から支援金を出すこと、2)ホンゴル・ソムに検査室を設置すること、3)2008年を「安全の年」にすること、などをガンスフは提案した(ウヌードゥル新聞2007年9月19日付)。

ガンスフによる、政府告発の背景には、Ц.トヤー保健相がホンゴル・ソムでは環境汚染による重症者はいない、と述べるなど、事態を深刻にとらえない傾向が出ていることがある。また、検査機器がモンゴルにはなく、汚染による被害患者の血液や尿を韓国と中国(フフホト)に搬送して検査を依頼している、というような、検診体制の遅れがある(注:なお、その結果が9月23日に判明する、という)。

(後注:ホンゴル・ソムの住民100人余から採血標本を検査していた、韓国と中国(フフホト市)の研究所が行った結果が判明した。ソウル市の研究所の行った検査結果では、血液中の水銀含有量は基準値以下、中国(フフホト市)の行った結果では、血液中のシアン化ナトリウム含有量は基準値以下、であった[ウヌードゥル新聞2007年9月25日付]。)

(後々注:ダルハンオール・アイマグ、ホンゴル・ソムで起きた環境汚染問題に関して、水俣病研究センターと国際機関も調査をした。その調査結果が2008年3月10日に公表された。すなわち、WHOジュネーブ本部から派遣された専門家たちがホンゴル・ソムの住民109人の尿を採取して検査を行い、そのうち105人は、人体に残された水銀が基準値以下であること、残りの4人は、人体の健康に影響を及ぼす影響は少ないこと、などと発表した。日本の水俣病研究センターの専門家サカモト氏が採取した標本の調査結果は、まだ出ていない。ロンドンで行われている血液検査の最終的な結果は、5〜6日後に出る(ウヌードゥル新聞2008年3月11日付)。これに対し、ホンゴル・ソム住民と市民運動家たちは、2008年3月17日、国連専門家による調査結果を受け容れず、再度調査するよう要求した(ウヌードゥル新聞2008年3月18日付)。これを受け容れ、政府は、2008年3月19日の閣議で、ホンゴル・ソムの水銀・シアン汚染に関して、再度検査すること、また、環境保全措置を講ずること、などを決めた(ウヌードゥル新聞2008年3月20日付)。

また、上述のように、国家大ホラル(国会)議員選挙を来年2008年に控えて、その影響を顧慮した当局者たちが、ホンゴル・ソム問題を隠蔽しようとしている、ということも指摘されている(ウヌードゥル新聞2007年9月20日付)。

一方、2007年9月18日、ホンゴル・ソムで野菜の品評会が開かれたが、その売り上げは芳しくなかった。人々は、野菜への汚染を懸念したからである。

ダルハンオール・アイマグ知事は、その野菜を試食し、無害だと語ったが、その試食した野菜は、前もって検査済みのものだった、という(ウヌードゥル新聞2007年9月20日付)。

こうした動きに押され、政府は、2007年9月20日の閣議で、ホンゴル・ソムの状況を協議・検討した。

それによれば、1)医師の活動によって、150人を検診し、妊婦11人は正常であると判明した。2)ゴミ捨て場からシアンが検出された。また、「テールミーン・ホダグ」井戸から水銀が検出された。3)新しい井戸を掘った。4)3世帯が栽培した野菜(大根、キャベツ)に汚染の兆候がみられる。5)中国人3人、ソム議会議長、ソム長、自然環境監督官、「ツァガーン・ブルド」社従業員に対し、刑事罰を適用する。6)家畜、豚に汚染の影響がある。

(後注:ダルハンオール・アイマグ警察は、ホンゴル・ソムの環境汚染問題で、「アンダ・インターナショナル」社社長ガンボルドを逮捕した。この会社は、トゥブ・アイマグのボルノールで金採掘を行い、金を含有する土壌をホンゴル・ソムに搬入し、そこで有害物質による金選別を行い、その汚染された土壌を当ソムに破棄した、という容疑である。[ウヌードゥル新聞2007年9月25日付]。)

(後々注:ダルハンオール・アイマグ、ホンゴル・ソムでの環境汚染問題(2007年4月23日)で、中国人投資会社の従業員3人、ソム長バトナラン、ソム議会議長エンフボルド、自然環境監督官ルハグバスレンたち9人に、刑法が適用され、有罪とされた。中国人と「ア(ナ)ンダ・インターナショナル」社社長ガンボルドに禁錮5〜8年、ソム長バトナラン、ソム議会議長エンフボルド、自然環境監督官ルハグバスレンたちに公職停止5年、労賃の51〜100倍の罰金、もしくは5年までの禁固刑が適用される[ウヌードゥル新聞2007年11月20日付]。)


М.エンフボルド首相は、1)水銀汚染検査器具の購入。2)被害患者のための薬品購入。3)専門家による連携の必要性。4)専門家の検査結果を受け、適正な措置を講じる。5)飲料水の確保、などを指示し、「政府は、ホンゴル・ソムの状況を最重要視し、必要なすべての措置を講じる」、と述べた(ウヌードゥル新聞2007年8月21日付)。

いずれにしろ、モンゴルでは現在、環境汚染問題が深刻化しているが、当該地域の農民たちの収穫した農産物へ汚染が懸念され、この農産物を購入するウランバートル市民は不安感を抱きながら注視している。(2007.09.23)

(追補)ダルハンオール・アイマグ、ホンゴル・ソムの住民に健康診断を行った医師たちは、2007年9月25日、記者会見を行った。その内容は次の通りである。

50人の医師が4日間、延べ3500人に検診を実施した。その結果、延べ1000人余(実数320人余)が環境汚染で被害を受けた。その内、重症が10%余、軽症が70%余であった。また、気管支炎14%、肝炎18%、高血圧16%であった(ウヌードゥル新聞2007年9月26日付)。

これを受け、市民の意志党は、2007年9月26日、ホンゴル・ソム住民の移住を提案し、そのための費用として、各世帯に2000万トグルグを国庫支出することを提案した(ウヌードゥル新聞2007年9月27日付)。

上記医師団は再度、2007年9月27日、記者会見を行って、補足説明をした。

ソム住民1600人のうち、321人が汚染被害を受けた(注:上記と同じ内容である)。このうち、12人が金採掘を行っており、そのため慢性疾患がみられる。これらの被害者たちに治療を施す。なお、住民の移住の必要はない。また、7世帯の栽培した野菜に汚染が見られた。その他の世帯の栽培した野菜は、食料として使用可能である(ウヌードゥル新聞2007年9月28日付)。

これは、1)市民の意志党の提案を退け、2)金採掘汚染は個人金採掘業者(注:いわゆる「ニンジャ」)に多く影響を与えている、3)野菜汚染に対する国民の不安を打ち消す、といった目的がある。つまり、М.エンフボルド政権の意向に添ったものといえる。

また、政府は、セレンゲ・アイマグ、マンダル・ソムのゾーンモドにある「エレーン・アム」で金採掘を行っている、「サンゴルド」社に対し、金採掘作業停止命令を出した(ウヌードゥル新聞2007年9月26日付)。

こうした政府の「努力」にもかかわらず、トゥブ・アイマグ、ボルノール・ソムの住民が、2007年9月26日、記者会見を行い、環境汚染の事実を訴えた(ウヌードゥル新聞2007年9月27日付)。

環境汚染に対する国民の関心は高まる一方である。(2007.09.30)

(追々補)さらに、ホンゴル・ソムで医療活動を行った、国立救急医療センター長Г.ナランフーの語るところによると、

1300人以上の住民が診察を受け、その内、22人に感染症状が見られた。

水銀中毒患者が5人。彼らはウランバートルに移送され治療を受けている。彼らは、「ミチ」社従業員で、金採掘に従事していた。

ホンゴル・ソムで住民が日常生活を送るのには支障はない。

一部の家屋の消毒が行われている。

状況は改善に向かっている(注:筆者には、そのようにはみえないが)。

国立救急医療センター入院患者Э.ベルドムラトとА.ホルメンベクが語るところによれば、自分たちは体調は悪くなく、2002年に、ホブドから来て、「ミチ」社で働いている。

以前から水銀を使用していた。今年(2007年)5月からシアン化ナトリウムを使い始めた。

その結果、多くの鳥たちが死に、その原因がシアンだと知った。

7月からは、家畜が汚染された穀物を食べて次々に死んだ。

シアン化ナトリウムに汚染された土壌の近辺に、畑があり、また、井戸水を飲んでいた。

金採掘業者も、井戸から水を引き、金洗浄を行っていた。

畑にも散水していた。

汚染源は、水か空気かよく分からない。

「ミチ」社の給料は少なく、何人かの従業員の体調が悪化した。

ウランバートルに行って治療せよ、という。

後に残された家族の者たちは、金がない、と言って来ている。生活状態が悲惨になっている。

われわれはホンゴル・ソムから出たい。そこで生活するすべがない。栽培した野菜は食べられないという。

行政側の援助が欲しい。ホンゴルから立ち去った人が多くいる。彼らも治療して欲しい、と彼らは訴えている(ウヌードゥル新聞2007年10月11日付)。

こうして、モンゴルにおける環境汚染問題は、貧富の差の拡大と並行して、モンゴル社会を蝕んでいく。諸悪の根源はどこにあるのか(注:自明である)。(2007.10.14)

トップへ
トップへ
戻る
戻る
次へ
次へ