独『シュピーゲル』誌によるモンゴル大統領に対する名誉毀損事件(2007年03月27日)

独『シュピーゲル』誌(2007年1月8日号)は、「買収、売却、マネー洗浄」(執筆者はマンフレド・エルテル)という見出しで、エンフバヤル大統領らモンゴルの6人の政治家たちが、自分たち名義の鉱山を私的に米国に2億5000万ドルで売却しようとしている、と外務省高官たち(注:米国駐在官僚だという)が詳細に語った、と報道した(ウヌードゥル新聞2007年3月24日付)。

この記事は、2007年03月27日、モンゴルの日刊紙やテレビなどの報道機関によって一斉に紹介された。

これに対し、エンフバヤル大統領は、自ら鉱山を所有しておらず、またモンゴルの戦略的鉱山を国民の財産とし、モンゴル人の所得としようというキャンペーンを展開している、したがってこうした報道は真実ではない、として、外務省の見解を求めた(ウヌードゥル新聞2007年3月27日付)。

外務省は、即座に反応し、そのような高官たちは存在しないこと、『シュピーゲル』誌の報道は根拠がないこと、を発表した(ウヌードゥル新聞2007年3月29日付)。

これに関し、目立つことなら何でもするといった風情の、Г.オヤンガ(記者)、Г.バーサン(「自由老人同盟」代表)、О.ボムヤラグチ(緑の党ウランバートル市支部長)、Х.バトヤラルト(「市民の健全な裁判所」代表)たちは(注:緑の党のほうは2008年の選挙を視野に入れている)、2007年3月29日、記者会見をして、エンフバヤル大統領が独『シュピーゲル』誌を国際裁判所に名誉毀損で提訴するよう求めた(ウヌードゥル新聞2007年3月30日付)。

さて、この「事件」は真実がどこにあるのであろうか。

エンフバヤル大統領は、彼自身が述べるように、鉱山を自分名義で所有していないことは鉱山局登録簿を見ればわかることであるから、嘘をついていないであろう。それは、状況証拠として、自ら提唱の「国家発展総合戦略」をみればわかることでもある。

この「国家発展総合戦略」というのは、「国家資金によって探査した鉱山を、外資によって短期間に採掘し、その収益の50%以上をモンゴル政府が取得する。その収益金を基に加工業を興す。さらに、プールしたその剰余金の一部を国民に均等に分与する。こうして、2021年までに、モンゴル人の一人当たりGDPを1万5000ドルにする」、というものである(注:このことは以前の時評で述べた)。

そのために、世銀、国連、ヨーロッパ復興銀行、IMF、アジア開銀にも参加を要請するという(ウヌードゥル新聞2007年3月30日付)。

このことから考えれば、エンフバヤルがモンゴルの鉱山を米国に売却するとは考えられないだろう。

一方、独『シュピーゲル』誌のマンフレド・エルテルは、О.ボムヤラグチ(緑の党ウランバートル市支部長)との電話で、自分は確実な情報源に基づいて執筆したこと、情報源を明らかにするつもりはないこと、を述べた(モンゴリン・メデー新聞2007年3月30日付)。

結局、この複数の「外務省高官たち」がどのようにして記者に語ったか、ということが問題になるであろう。マンフレド・エルテル記者によれば、彼らは大変「興奮して話をした」、という(モンゴリン・メデー新聞2007年3月30日付)。

この「興奮」というのがくせ者で、モンゴル人には飲酒上の広言癖がある。反大統領的立場の外務官僚たちの数人が、この記者と会った際、日頃の見解を披瀝した、ということは十分考えられる。

ただ、現在、国家大ホラル(国会)議員の中には、取得していた鉱山採掘権を政府に売却する動きが隠然としてある。それも相当の高額で。

また、かつて、オロンオボー金鉱山(バヤンホンゴル、ウムヌゴビ県境)が香港証券取引所に1億ドルで売りに出される、という事態が生じたことがあった。「モンゴル・ガザル」社長Ц.ミャンガンバヤルが、この鉱山所有株の49%を所有していて、これにО.チョローンバト前モンゴル銀行総裁が参画した(ウヌードゥル新聞2007年1月23日付)。

であるから、国家大ホラル(国会)議員の中には、純粋に売却しないまでも(注:改正「鉱山法」では、外資によるモンゴル鉱山100%所有は禁じられている)、資本参加を求めて、外国人投資者を募った、ということは十分考えられる。

これらは、すべて自国で鉱山開発をしようとしないことからくる。

それにしても、この程度の情報源に基づいて、記事が書かれたことは、モンゴル人が自力で鉱山開発をしないので、外国人に足元を見られたと言うことであろう。

こうしたことは今後も起こりうる。

豊富な地下資源を有するモンゴルでは、その所有者であるモンゴル人たちがもっと自立の気概を持たなければ、外資の餌食にされてしまうであろう。(2007.04.01)

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