
有言不実行と不言実行(2006年10月20日)
国家大ホラル(国会)民主党会派による、М.エンフボルド政権解散要求書の提出に対し、当の
М.エンフボルド首相は反論した。これに関連し、多分、政府資金が投入されたと思われるが、新聞に「有言不実行と不言実行」というヘッドラインの記事(広告)が掲載された(ウヌードゥル新聞2006年10月20日付)
この記事は、エルベグドルジ「大同盟」政権とМ.エンフボルド「民族統一」政権の実績を比較した内容となっている。
これは、両政権の比較というより、エルベグドルジとМ.エンフボルドの性格・政治手法の相違、モンゴルの政治路線の対立を示すものとなっている。興味深いので紹介する。
「有言不実行と不言実行」
エルベグドルジ前政権の548日
2005年のインフレ率が約9.2%
2005年の経済成長率が6.2%
2005年の一人当たりGDPが740ドル
2005年度予算による資本投下が669億トグルグ
平均賃金が9万4900トグルグ
必要最低限生活費以下および3人以上の子供を持つ世帯に3000トグルグ支給
顕彰老人に年に報奨金一度限り2万4750トグルグ
エルベグドルジ政権以前にも同様に、叙勲者に2万4750トグルグ支給していた
1995年以前の年金受給者の年金額との差を解消できなかった
公務員給与を7.5%増額
最低労働賃金を4万2500トグルグにした
社会保険費を2万480トグルグにした
税制改革を行い、15%、30%の2段階課税にした
アパート供給計画の協議を開始
エルベグドルジ政権下で3件の「自動継続契約」を無効にした
中国政府からの借款(3億ドル)問題が未解決
鉱山法を改正し、200万ドル以上の投資を行った外資企業との「自動継続契約」締結を計画
モンゴル建国800年記念祭の作業を開始
政府儀典場の開礎を20億ドルで設置
モンゴル側すなわちモンゴル政府の提案によって、外国側に対し、財政支援を要請する支援国会議が一度も開催されなかった
М.エンフボルド政権による「民族統一政権」の250日
2006年のインフレ率が5.3%。これは経済安定成長の証拠
2006年の経済成長率が8%
2006年の一人当たりGDPが950ドル
2006年度予算による資本投下が1478億トグルグ(2倍化)
2007年には1979億トグルグになると予想
2006年の平均賃金が13万トグルグ
2007年には16万トグルグになると予想
子供に支給する金額を増額し、0〜18歳のすべての子供に3000トグルグ支給
将来これを5000トグルグにする
新生児に10万トグルグ支給
新婚家庭に50万トグルグ支給
第1級母親に10万トグルグ、第2級母親に5万トグルグ支給
顕彰老人に10万トグルグ支給
叙勲者に毎4半期5万トグルグ支給
懸案の年金額の差を解消し、「年金差額解消のための基金」を設置
年金額を2007年初めに15%増額
公務員給与を33%増額
2007年1月から再度20%増額
最低労働賃金を2006年に5万3000トグルグにした
社会保険額が2006年に2万6500トグルグになった
モンゴルの最重要な主要資源たる人間に対して、「健康なモンゴル人」計画を実施
給食計画、来年度には全小学生に実施
「国民発展計画」作成完了(約360人の専門家研究者が参画)
税制改革を行い、10、25%の2段階課税にした
「4万戸アパート建設」計画の実施。政府国債600億トグルグの発行。担保の保証。
金準備高が6億ドルに達した
著名な「ボローゴールド」社との「祖国契約」を締結し、100%の課税、金のモンゴルへの売却、従来の特恵条件を無効にした
3億ドル借款を中国政府側と合意に達した。エグ河水力発電所建設により、電力の独立およびその輸出の可能性
「鉱山法」を改正し、5000万ドル以上の投資を行った企業と「投資協定」を締結することにした
大モンゴル国建設記念祭が行われた
政府儀典場が2006年11月に利用できるようになる
支援国会議を2度開催。両者が協議し決議した投資分野を確定。モンゴルの発展に何が障害となっており、何を解決したらいいか、ということを、政府と支援国が協議し決議した。
世界銀行による反汚職法、教育に関するマスタープランの作成。政府へ諮問
教育マスタープラン確定後、外国支援者による教育分野への9000ドルの支援金供与
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周知のように、エルベグドルジは、モンゴル民主化運動(注:1989年末1990年に開始され、1990年9月に終焉)に参加した。ゾリグの「沈着冷静」、エルベグドルジの「炎の弁舌」、バトウールの「猪突猛進」といわれ、「民主化運動の13人」と称えられた。
ゾリグは暗殺され、バトウールやエルベグドルジは変身(変節)し、そのほかの人々も「マンゴー(愚かな)76人」(注:国会議員のこと。ただしエルベグドルジは非議員)といわれても、私益と名誉追求に余念がない。
「変節」についてはさておき、そのエルベグドルジは、「炎の弁舌」に関していえば、健在であり、「大同盟」政府の首班の時に、その性格を遺憾なく発揮し、パフォーマンスを繰り広げた。彼は、記者会見を繰り返し、米国流の報道官を登用し(その後、その内容の空疎さにより廃止)、反汚職対策会議では「企画書」を壇上から破り捨てたりして、グンダライ顔負けのパフォーマンス家であった。
一方、М.エンフボルドは、演説が苦手なように見受けられる。国家大ホラル(国会)法に定める、開会式の冒頭演説は行わないし、人民革命党の会議でも政府の閣議でも、弁舌によって他を圧することはないようだ。どちらかといえば、聞き役に回る方を好む。
モンゴル人は概して、雄弁である。しゃべらせると延々としゃべり続ける。人によっては、それが韻を踏んでいたりする。その意味では、エルベグドルジの方がМ.エンフボルドよりもモンゴル人的であるといえよう。
だが、その実行ということになると、両者に格段の差が現れている。それが上の記事からも証明されている。
ただ、М.エンフボルド政権時の2006年というのは、銅の世界市場価格が上昇し(注:世界工業化の進展によるものである)、「銅・金特別税」という「不正常な」法律からの歳入増によるものである。すなわち、それはモンゴル国民による生産活動の増加によるものではない。
また、エルベグドルジ政権は支援国会議を回避し、外資を嫌った。少しだけ、「民主化運動」家の残滓があった。М.エンフボルド政権は、貧困家庭と児童・青年への援助金供与や公務員給与増額を実施し、IMF(=資本主義者)の「不興」を買っている。だが、一方で、外資や支援国依拠の政治手法を用いる。だが、これは憲法に規定する、私有と国有による経済体制、という条項に一致する。
従って、両政権の長所をとれば、モンゴルの歴史的発展に適合したものとなるだろう。(2006.10.22)
