
「わが亡き後に洪水は来たれ」に対する地方住民の抗議(2006年03月10日)
トゥブ・アイマグ、ザーマル・ソム長Д.ラーフは、ウヌードゥル新聞(2006年03月10日付)に寄稿し、地方牧民の現状を訴えている。現代の「牧民運動」ともいうべき彼らの行動についての貴重な証言である。このHPを通じて全文を日本語訳しておきたい。
<「金を取り、貴重品箱を捨てている」(トゥブ・アイマグ、ザーマル・ソム長Д.ラーフ論文=全文)>
「モンゴル国政府の「金」産出計画は、1990年から実行に移され、このソム(注:ザーマル・ソム)で金鉱探査と採掘作業が盛んになった。1996〜1998年に30以上の金鉱が開削された。現在は、われわれのソムに金鉱が20ある。金採掘に関する政策と調整が稚拙で、古い技術が用いられている。
1998年から(注:エンフサイハン民主同盟連合政権が作成した「鉱山法」改正後に相当する)手作業で金を採掘する人々が出現し(注:現在「ニンジャ」とよばれている)、冬季には2000〜3000人、夏季には8000〜1万人が当地に住み、ソムの活動を困難に陥れ、自然環境を汚染させるようになった。手作業で不法に金採掘をする人々は、大雑把に見積もって、年間1.5トンの金を採掘し、モンゴル銀行に売却せず、ブラック・マーケットに売却している。
ザーマル・ソムの行政区画領域は、28万1207ヘクタールであるが、そのうち9万ヘクタールが金鉱探査と採掘で失われた。このことは、鉱山業者たちがわが地方の生存の基礎である牧畜業と農業の可能性を狭めたことを意味する。手作業で金採掘を行う人々の数が増加した結果、ソム人口が急激にふくれあがって、牧地が少なくなり、2002年に家畜数が10万8000頭だったのが2005年には5万4000頭になってしまった。
このため、牧畜業と農業に従事する住民が失業して、その生活水準が低下し、それが失業と貧困の原因となった。「鉱山法」第33条第1項によれば、「採掘権所有者は当該地区の行政に協力して、自然環境を守り、当該地域を発展させ、就業機会を増加させる義務を負う」と規定されている。
しかし、企業及び会社は、この条項を遵守しないのみならず、「金を取れ、貴重品箱を捨てろ」(注:いわゆる「我亡き後に洪水は来たれ」、すなわち「自分たちが金採掘した後はその地域はどうなっても構わない」という意味)、といっている。金鉱は、この15年間に、ソム機構を発展させ、就業機会を増やし、ソムを発展させるための方策を何ら採らなかった。
もっとも、2005年5月に、住民代表評議会(ソム議会)とソム職員がこのソムで探査と採掘を行っている企業及び会社代表と交渉した結果、いくらかの改善がみられはした。すなわち、Ц.ガラムジャブが社長をしている「モンポリメト」社の支社である、「トソンアルト」ХХКは、長い間未解決のままだったソム・センターの暖房施設を改善し、暖房用ボイラーを取り替えるための支援をし、数百万トグルグを寄付し、援助し、行政の活動を円滑にさせるために貴重な貢献をした。
Д.バヤンバトが社長を務める「ダツァントレイド」ХХКは、縫製、馬毛、パン、お菓子工場である「ベルヒーン・オンダルガ」という合資会社を設立するのに財政支援を行い、就業場所を新たに10ヶ所作り出してくれた。だが、大部分の企業及び会社はソムと地域に対して協力は何らしないし、地域を発展させ、就業機会を増加させることに冷たい目を向けている。
われわれのソムで10年間操業し、金15トンを採掘した「シジル・アルト」ХХКは、ソム地域に協力できない、と「モンゴルロスツェベグメト」社副社長П.エンフバヤルが公式の通告をしてきた。この会社は、環境保全作業対策を何ら採っていない。ロシア資本の「アルタンドルノド・モンゴル」ХХКは、われわれのソムから金10トン以上を採掘したが、ソムの発展に寄与することはなく、かえって金探査及び採掘面積を拡大した。国家大ホラル(国会)議員Б.エルデネバトの妻Д.セルゲレン名義の「エレル」ХХКは、1997年からザーマルで金採掘を行い、154ヘクタールの面積を独占し、その一部に採掘権を移し、60ヘクタール以上の土地を占拠している。20メートル以上の探査抗2抗とボタ山2ヶ所をそのまま放置している。
「エレル」ХХКは、当地から5450キログラムの金採掘を行っておきながら、ソムと地域のための発展に寄与することはない。М.オトゴンバヤルが社長をしている「サンチル・インベスト」ХХКは、31ヘクタールの土地で1995年から金採掘と探査を行ってきて、金50キログラムを採掘した。2005年に金採掘権料を支払わないため、採掘権が無効にされた。2005年に環境保全措置を講ずると約束して、その作業に入ったが、廃棄物洗浄作業は何ら行っていない。土地の環境復旧作業も行っていない。この会社は、その占有する土地内を流れているバヤンゴル川の流れをたびたびせき止めた。これに関して国家自然環境監督官が与えた指示を実行していない。
「アルタンドルノド・モンゴル」ХХКは、われわれのソムに硫黄水16トン、クロム水600キログラムを30メートルの廃棄穴に破棄した。このため、家畜と野生動物を殺したにもかかわらず、その影響は全くないという結論を出させた。
ザーマルで操業している金鉱山一帯には、トール川とその支流が流れている。世界銀行の資金によって、「オルチロン」ХХКが調査し提出した結論によれば、この状況が続けば、トール川流域の動植物を存在できなくし、エコシステムをすべて破壊してしまう、という。
裁判所裁決に従って操業している中国モンゴル合弁「АШБ」ХХКは、2005年に金探査及び採掘作業を行って、金1キログラムを採掘したという。だが、その主金鉱から採掘された金は、モンゴル銀行の金庫には納入されず、ブラック・マーケットを経由して、外国に流失したのではないかという疑惑が生じている。このことについては、専門機関が合同で調査する必要がある。
手作業で金採掘を行っている業者は、川の流域に直に砂を流し、土地を汚染させ、森林を必要以上に伐採して薪に用いるといった、法律で禁止されている行為をしている。2006年春期国家大ホラル(国会)で、新「鉱山法」案が審議されている中で、鉱物資源採掘地域の土地と水利用料の50%をソムと地域を発展させ、操業機会を拡大して、貧困を緩和し、企業と会社の鉱物資源採掘権所有地に加えて、採掘権のない国有地の、野生動植物が生棲息する地下及び露頭鉱物資源鉱床を、国内軍用地にすることをわれわれは提案したい。また、手作業での金採掘に関する法令が早急に作成されることを望む。
すべての金鉱山の環境保全対策を万全なものにして、環境を破壊しながらその復旧作業を行わない金探査及び採掘に従事する企業及び会社の営業活動を停止させ、採掘権を無効にする方策を講ずることを、商工相と鉱物資源局に望む。
(2006.10.12)
(追補)筆者たちは、2007年6月19日、トゥブ・アイマグのザーマル・ソムを訪れた。その際の画像の一部を紹介する。
(ザーマル・ソム長Д.ラーフ。ザーマル・ソム役場の町長室前に掲示されていた写真)
(ザーマル・ソム役場)
(金採掘場遠景)
(トーラ河をせき止め、採掘した土壌の中から金の選別を行う)
(金採掘現場)
(2007.06.21)
