税関庁長官らが逮捕された(2005年10月28日)

モンゴルの「発展」を阻害しているものは「汚職」と「官僚主義」である、とよくいわれる。また、汚職に関係する機関は、「土地登録局」、「国税庁」、「税関」である、とも指摘される。このうちの「税関」の幹部職員による汚職事件が発覚した。

税関庁長官Х.バータル、セレンゲ・アイマグ税関所長Д.ダンバ、元国家大ホラル(国会)議員Х.ウブグンフーが、2005年10月28日、警察に逮捕された。

それにさかのぼる3日前、Д.ダンバがウランバートルに来て、Х.バータルに会っていた。警察及び検察庁は、10月28日22時、Х.バータルの執務室を捜索し、関係書類とコンピュータを押収し、さらに、鉄製ロッカーから多額の現金を発見した(注:これは、その後、誤報であるとわかった)。

この事件の発端は、スフバートル・アイマグのビチグト税関所長Н.ダバージャブが、4月20日、ビチグト税関から自動車210台(50トン)をくず鉄(5トン)と偽って申告し、関税をごまかした。その結果、その関税差額4億6000万トグルグを詐取した。そのため、警察が彼を逮捕して、取り調べを行ったことから始まった。

このビチグト税関所長Н.ダバージャブを取り調べている過程で、彼ら三人に関する書類が出てきた。ダバージャブもダンバも以前には、(外国)タバコを関税を払わずに輸入するビジネスをしていた。

さらに、税関庁長官Х.バータルを取り調べている過程で、10月30日、税関調査官だったН.トゥブシンジャルガルが逮捕された。彼は、同長官の庇護下で、文書を偽造し、山羊皮4万枚を中国に輸出したという容疑であった。11月2日には、大量の羊皮を無関税で輸出する際に賄賂を取った容疑で、ウムヌゴビ・アイマグのガショーン税関上級職員Ш.アディシャーが逮捕された(以上、ウヌードゥル新聞2005年10月28日、31日、11月01日、04日付)。

この税関幹部職員による汚職事件は、氷山の一角といっていいのだが、特に今回の摘発は政治がらみである、といわれている。

というのは、スフバートル・アイマグのビチグト税関所長Н.ダバージャブは、2004年国家大ホラル(国会)議員選挙で、オラーン副首相の選挙対策本部長を務め、本職に任命されていた。また、元国家大ホラル(国会)議員Х.ウブグンフーは、オラーン副首相の顧問であった。

オラーンは、「協議」による「大同盟」政府で、人民革命党側から副首相になった(その前は財務相)。その際の「協議」事項により、2年後(すなわち2006年半ば)には旧「祖国・民主」同盟側の首相と、人民革命党側の副首相が交代する。

この間、エンフバヤル人民革命党前党首が大統領に当選し、その後継者にウランバートル市長だったМ.エンフボルドが党首に就任した。従来、人民革命党の規約から、党首が首相になることになっている(その後この規約は削除された)。

ところが、オラーン副首相が首相になることを望めば、誰もそれを止める手だてはない。そこで、エンフボルド派は、オラーンの力を牽制するため、彼の側近たちを逮捕して、その力を牽制しようとした。

ただ、これは、モンゴル政治を知るものにとっては、余りにもわかりやすい論理であるし、オラーンは現在空席になっている法務内務相も兼任している。法務内務省は警察庁を直接管轄する。

そこで、もう一つの論理が浮上した。

エルベグドルジ首相は、就任期間を後1年残し、将来はビジネス分野に進出することをねらっている。そこで、最近とみにパフォーマンスをするようになった。前の第1回国内投資家会議で、汚職や官僚主義を打破する必要性を強調していた。

また、米国大統領ブッシュの提唱する「千年試練計画」に、モンゴルも選定され、「千年試練基金」による資金が供与される。この「基金」は、内政干渉するかのごとく、モンゴル国内の問題点として「汚職と官僚主義の撲滅」を「勧告」した。

この「千年試練基金」の「資金供与」を望むエルベグドルジ首相としては、どうしても米国に対し、汚職摘発の姿勢を強調したかった。近く、ブッシュ本人がモンゴルに来るが、その際の「おみやげ」という意味合いもある。

この汚職事件摘発から1週間して、人民革命党出身のХ.バータル税関庁長官の代わりに、民主党出身のД.エンフバト税関庁副長官が長官代理に任命されたことが、その憶測に真実味を加えた。

だが、エルベクドルジ首相は、「私は首相であって、警察官でも裁判官でもない」と、これまた大向こう受けする発言をして、この憶測を否定した。

モンゴルにおける「汚職の蔓延」は、1990年から始まる。だから、この時期の矛盾を解決することが根本的な解決方法である。(2005.11.7)

(追補)さらにこの汚職事件は広がりをみせ、11月10日、ゴビアルタイ・アイマグのボルガスタイ税関所長ジャルガルサイハンが、2005年7月に150トンの羊皮を不法に輸出した疑いで、逮捕された。。また、ザミンウード税関所長С.バンズラグチも逮捕された(ウヌードゥル新聞2005年11月11日付)。まるで底なしであるかのごとくである。(2005.11.13)

(追々補)また、週末には(2005年11月12〜13日)、税関センター実験室長Ё.バトエルデネが拘引された。税関から持ち込まれた物品の等級や品質を変えた容疑(注:2004年に、くず鉄を輸出する際、くず鉄ではない、という虚偽の証明書を発行した疑い)である。(ウヌードゥル新聞2005年11月15日付、および16日付)。(2005.11.20)

(追々々補)2006年9月4〜5日、ウランバートル市スフバータル区裁判所で彼らに対する公判が開かれ、Х.バータルに禁固8年、ダバージャブに禁固7年、ウブグンフーに禁固2年、О.エルデネバトに禁固5年6ヶ月、М.バトトルガに禁固2年、Ч.ツェデブマーに禁固5年の判決が下された。(2006.09.21)

(追々々々補)これに対し、被告側(Х.バータル)、検察側双方は、ウランバートル市裁判所に控訴した(ウヌードゥル新聞2006年09月25日付)。(2006.09.26)

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