牧民と金採掘会社との争い(2005年03月11日)

モンゴルは、日本と違って、地下資源が豊富である。金採掘量も最近大幅に増加した。法改正によって、個人の採掘も認められるようになり、「ニンジャ」といわれる個人採掘者の数も増加している。

こうした金採掘業者は、地方予算に所得税を納入し(注:税法では鉱物資源から得られる所得にかかる所得税は、その鉱床がある地方公共団体に納入することになっている)、地方財政に貢献している。そして、採掘された金は、中央銀行であるモンゴル銀行に売却される。こうして、モンゴル経済における金準備高にも貢献している。

だが、その一方で、金採掘に伴う、自然環境破壊の危険性が高まっている。特に、金採掘作業に水銀を用いるために、人体への悪影響が指摘されている。

こうして、当該地方の住民である牧民と、金採掘業者との間の闘争が生じる。

最近では、その典型例として、アルハンガイ・アイマグ、ツェンヘル・ソムの住民たちによる、金採掘中止を求める運動が高まりを見せた。ウヌードゥル新聞(2005年03月11日付)は、それを紹介している。すなわち、

ツェンヘル・ソム住民代表評議会(地方議会)は、2000年、ツェンヘル・ソムにあるナリーン・ハマルという土地を自然環境保護地にする決議を採択した。


(画像はウヌードゥル新聞2005年03月11日付のもの。)

ところが、「モンゴル・ガザル」という金採掘会社が、ツェンヘル・ソムのツェツェルレグ・バグにあるソバルガ・ハイルハン山で、金採掘を始めた。これに対し、牧民側は、水、土地、動植物を守る、として、ツェンヘル・ソム住民評議会(地方議会)に向けて、この金採掘業者による金採掘の停止を求める請願書を提出した。

これに対し、「モンゴル・ガザル」社は、ソバルガ・ハイルハン山はナリーン・ハマルから離れたところにあり(影響はない)、と主張している。

これを受け、中央政府の自然環境省と自然保安局は調査を開始し、両者から事情聴取した。結論はまだ出ていない。

モンゴルでは、金採掘は地方予算収支バランスの適正化(=法人所得税)、中央政府マクロ経済健全化(=金準備高)に貢献している。IMF・世界銀行・アジア開発銀行などの国際「援助」機関、および日本などの「支援」国は、これをもってモンゴルを融資返済優良国家に指定し、また、米国大統領(ブッシュ)の音頭取りで発足した「千年発展基金」は、「援助」金支給対象国家に選定した。

この担保物件の一つが金である。

一方で、金採掘による自然環境破壊、牧地減少という事態を生み出している。これに抵抗する地方牧民の訴えは、今もなお脈々と続くモンゴル牧民運動の地下水脈である。(2005.03.22)

(追補)上記のアルハンガイ・アイマグ、ツェンヘル・ソムの住民たちと「モンゴル・ガザル」社との争いの中で、現代の牧民運動とも言うべき「アリオン・ソバルガ(聖なる卒塔婆)」運動がついに起こった。

その経緯は、上記のように、ツェンヘル・ソム住民評議会(地方議会)が環境汚染を理由にして、金採掘を禁止したことに始まる。

元来、「モンゴル・ガザル」ХХК(株式会社)は、8778А、および1919Хという金採掘権権利書を所持している。その内の1919Хがナリーン・ハマルでの金採掘を認めるものである。

住民評議会(地方議会)とこの金採掘会社とは、地方議会幹部会(および中央政府)の仲介によって、ナリーン・ハマルのうち68ヘクタールに限り金採掘を認める、という妥協を図った。

ソム行政裁判所も性急にこの妥協策を支持し、これに対する反対を認めない、という決定を出した(ウヌードゥル新聞2005年09月01日付)。

これに対し、牧民たちは、「アリオン・ソバルガ(聖なる卒塔婆)」運動を組織し、この妥協案と行政裁判所決定に反対して立ち上がったのである。

彼らの主張は、ナリーン・ハマルには希少動物が棲息し、薬用植物が生育する。この地を流れる水流が金採掘によって汚染され、それがそのままオルホン河に流れ込む、というものである。さらに、「モンゴル・ガザル」社は、現在、牧民の冬営地を囲い込み、入れなくしている、ともいう。

彼らの主張は全く正当である。彼らの運動は、牧民たちはそこまでは意識していないであろうが究極的には、米国による「世界の枠組み」に対する「異議申し立て」に他ならない。(2005.09.07)

(追々補)これについての続報がある。「アリオン・ソバルガ」運動代表Г.チャグナードルジや「人権発展センター」理事長Г.オランツォージたちは、2006年5月5日、記者会見を行って、この間の事情を国民に訴えた(ウヌードゥル新聞2006年05月06日付)。

(補注:「アリオン・ソバルガ」運動代表Г.チャグナードルジ。筆者写す。2007年6月18日)

彼らによると、「モンゴル・ガザル」社は、アルハンガイ・アイマグのツェンヘル・ソムで、金採掘を行っているが、環境保全対策を怠ったため、水質汚染など環境破壊を引き起こしている。

このため、地方住民が闘争を開始した。

アルハンガイ・アイマグのツェツェルレグ・ソムとツェンヘル・ソムの住民代表評議会(町議会)は、「モンゴル・ガザル」社がオルホン・バグで金採掘を行い、環境保全対策を怠ったために、19河川とその支流が涸れた、という理由で、このバグのナリーン・ハマルでの操業を認めない、という決議を2005年夏に出した。

ところが、住民代表評議会(村議会)幹部会は、2005年7月1日、決定を出し、「モンゴル・ガザル」社に対し、ナリーン・ハマルでの金採掘を認め、バグ(村)長は土地と水利用の許可を与えた。

この決定をアイマグ行政裁判所(注:上記にはソム行政裁判所となっている。こちらの方が正しいようだ)は支持した。こうして、2005年8月から10月まで、警官たちに守られ、「モンゴル・ガザル」社は、20ヘクタールの土地を採掘した。

これに対して立ち上がった住民たちは、「アリオン・ソバルガ」運動および「人権発展センター」と協力して、採掘停止を求め、アイマグ行政裁判所に提訴した。

アイマグ行政裁判所は、2005年10月2日、この提訴を支持した。

「モンゴル・ガザル」社は、当地の井戸3ヶ所を涸らし、ナリーン・ハマルの川を汚染させ、この水を飲んだ家畜が病気になった。現在、ナリーン・ハマルには、10以上の家族が生活しており、家畜が病気になり、飲料水もなくなり、タミル川の流れが止まる危険性が出てきた。(2006.05.07)

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