「大同盟」政府をどうみるか(2004年08月31日)

8月13日、国家大ホラル(国会)は、議長にエンフバヤル(人民革命党党首)を選出した。エンフバヤルは首相の任務を解かれ、首相代行にオラーン財務相が選出された(筆者注:人民革命党の選挙前のシナリオはこれだったろう)。今後は、首相選出問題の協議は常任委員会に移行した(ウヌードゥル新聞2004年08月14日付)。

8月18日、国家大ホラル(国会)は、副議長にオヨンを選出し、さらに、8月19日、ルンデージャンツァンをもう一人の副議長に選出した(ウヌードゥル新聞2004年08月19日、および20日付)。

8月20日、国家大ホラル(国会)は、首相にエルベグドルジを選出することを承認した(Mongol Messenger 2004.08.25 No.34)。

こうして、人民革命党と「祖国・民主」同盟による「協議」の結果、大同盟政府が設立された。なお、旧閣僚が当分の間(「協議」成立まで)政務を継承する(注:「大同盟」あるいは「大連立」という用語は、人民革命党は「国民和合」(=「挙国一致」)と言い、「祖国・民主」同盟は「大同盟」、すなわち、民主党と民主新社会党さらに市民の意志・共和党による「同盟」の発展形態としての「大同盟」と言っている。訳語が定着しないが、ここでは「大同盟」としておこう)。

これは、前に論評したように、国家大ホラル(国会)議員数の「究極のバランス」による、国政の混乱回避の一つの方法であるといわれる。

このいわゆる「大同盟」政府をどうみるか。

人民革命党と「祖国・民主」同盟による「協議」が、8月12日に成立し、両者が署名した。この文書は二種類からなっている。「協議第1号文書」(2004年08月12日)では、1、法に則り合意した。2、国家大ホラル(国会)法第26条に基づき、議長を選出する。3、法に則り、首相を選出し、政府を作る。4、共和党、無所属議員とも協議する。5、議長を「祖国・民主」同盟が承認し、首相を人民革命党が支持する。6、両陣営が国家大ホラル(国会)と政府構成を承認する(ウヌードゥル新聞2004年08月13日付)。

「宣言第2号文書」(2004年08月12日)では、1、国家大ホラル(国会)議長にエンフバヤル、首相にエルベグドルジを両陣営が支持する。2、この「宣言」を議員全員が署名する。3、合意文書に両陣営の代表が署名する(ウヌードゥル新聞2004年08月13日付)。

この「協議文書」については、以前(2004年7月28日)に、人民革命党書記長イデブフテンが、「人民革命党の『協議』原則は国家大ホラル(国会)法に則って行う」と述べていたように(ウヌードゥル新聞2004年07月29日付)、人民革命党によって提案され、人民革命党の思惑通りに事が運んだことを示す証拠文書となっている。

次に、この「協議」過程で、「祖国・民主」同盟側は、バト=ウールらが議長にエンフバヤルを選出することに反対し(ウヌードゥル新聞2004年07月29日付)、エンフサイハンとエルデネバトが首相にエルベグドルジを選出することに反対した(ウヌードゥル新聞2004年08月13日付)、ということからわかるとおり、「祖国・民主」同盟側「指導者」に不満が残るものとなっている。すなわち、この議長と首相選出は、「祖国・民主」同盟側の妥協の産物である。

第三に、この「協議」による「大同盟」政府は、「政府綱領」の作成、政府役員の構成(注:50:50にする)を終えることによって完成する。「政府綱領」は、「祖国・民主」同盟の選挙公約を基にし、人民革命党の公約の一部を加える、という方法が採用される(ウヌードゥル新聞2004年08月06日付)。その焦点は、1)子供に毎月1万トグルグ支給、2)牧民の税免除、という政策であろう。これは、「祖国・民主」同盟の選挙公約であって、選挙時に、「1万トグルグ支給証明書」を作成し、署名させる、という、露骨な利益誘導を行ったしろものだから、「祖国・民主」同盟側とすれば、譲歩できない線であろう。バト=ウールなどは、貧困解決の唯一の政策である、と単細胞的に固く信じている(ウヌードゥル新聞2004年09月01日付)。これが実行されれば、インフレ再発、国家予算赤字拡大(3000億トグルグと試算されている)という、モンゴル経済に否定的な影響が出ること必至である。

第四に、モンゴル国民が議会バランスの適正化を選んだ、といわれる、この「究極のバランス」は、大同盟政府設立によって、総与党化を実現してしまった。「批判勢力の発言力増大」を志向した、この「バランス」選択は、「批判勢力」の存在しない政治状況を作り出してしまったのである。オヨン副議長が「議会が野党になる」、と述べていたが(ウヌードゥル新聞2004年08月19日付)、彼女の正義感あふれる思考も、政治力学によって、実現不可能であろう。むしろ、政治混乱による「国家大ホラル(国会)解散」を結果するかもしれない(注:人民革命党は普通にやれば選挙に勝利すると思っているから、それは思うつぼであるが)。そして、この政治的行き詰まりが経済混乱を誘発する懸念も依然としてあるといえよう。

最後に、ウヌードゥル新聞(2004年09月01日付)が行った、「大同盟」協議についてのアンケートを紹介しておこう。

モンゴル商工会議所会長С.デンベレルは、「協議」が官職を誰に与えるかのという「商売」になってしまった。

モンゴル大学学長Н.ダシゼベグは、両陣営がお互いに妥協すべきである。官職の数を増やすべきではない。役人たちが公金を横領し始めている。

私営業従事者Б.エンフバータルは、ここ2ヶ月でモンゴル経済が悪化した。大同盟政府は好結果をもたらさない。無責任体制になる。

NGO職員Г.バイガルマーは、各党が官職を奪い合うだけであって、「協議」には反対である。

というふうに回答している。

いずれにせよ、「政府綱領」作成の成り行きが今後の政局を見るカギである。(2004.09.02)

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