
2004年国家大ホラル(国会)議員選挙の結果(2004年06月27日)
これを別の角度からいうと、サンマラル基金が2004年05月30にから06月07日にかけて行った最新の世論調査によれば、「明日投票するとすればどの政党に入れるか」という質問に対し、「人民革命党47%、祖国・民主同盟36%、その他の党4%、無所属5%」という回答があった(ウヌードゥル新聞2004年06月15日付、ウドゥリーン・ソニン新聞2004年06月15日付)。これを議席数にすると、「人民革命党36議席、祖国・民主同盟27議席、その他の党3議席、無所属4議席(注:合計が76議席ではないのは、いうまでもなく「その他」の回答者がいるからである)。
実際は、人民革命党が36議席に対応しているにもかかわらず、「祖国・民主」同盟が36議席と9議席多い。つまり、上の設問は、「祖国・民主同盟の議席配分の結果と、世論調査の回答割合の差異はどこから来るか」、という設問に置き換えることができる。
これは、第一に、筆者が「周囲の人々に訊くと、議会バランスが必要である、だから野党側に投票する、という人が多い」、と記したように、「議会バランス是正」のための投票行動があったためである。ただ、この「議会バランス」というのは、人々が考えたのは、「50%:50%」というものではなかっただろう。筆者が先に記したように、少なくとも、50議席対26議席といった、「野党が与党の政策に対する監視機能を持つバランス」であった。このことは、С.オヨンが「議会バランス是正のために、政策の違いと党内の異論を越えて、祖国・民主同盟に参加する」、と述べていたことと一致する。こうした考えで投票行動をした人々が「多かった」ため、「監視機能を持つバランス」ではなく、「究極のバランス」になっ(てしまっ)た。
第二に、「祖国・民主」同盟の公約、つまり、「17歳以下の青少年に毎月1万トグルグ支給、牧民の税金を4年間免税」が与えるインパクトが非常に大きかったためである。これは、地方に強いと言われる人民革命党が、例えば、バヤンウルギー・アイマグの3選挙区ですべての議席を失ったことに象徴される。特に貧困とされる当該アイマグの地方牧民は、上記の公約を支持したのである。このインパクトに困惑した与党人民革命党は、急遽、「新婚家庭に40万トグルグ支給」を言い出した。これはかえって、同党に不信感を与えただろう。
第三に、「祖国・民主」同盟による、「裏の選挙運動」といわれる、「酒食・物品・金銭などの供応」が功を奏した。これは、現行選挙法がザル法のため、処罰されない。Х.バトトルガ、Ж.ナランツァツラルト、Б.エルデネバト、ゴンチグドルジ、ドルリグジャブ、Д.オドフー、ジャルガルサイハンなど、すべて議席を獲得し(てしまっ)た(注:具体的な事例は、ウネン新聞2004年06月09日付、ウヌードゥル新聞2004年06月09日付、モンツァメ通信2004.06.22など参照)。すなわち、今回の選挙は金権選挙だった、ということである。
さて、この結果を受け、これからのモンゴル社会はどうなるか。
3議席獲得の無所属候補は、民主党員であるから(注:エンフサイハン執行部は選挙期間中にはこの3人を「党から追放した」、と言っていた。政権奪取のためにはなりふり構わず、といったところであろう)、「祖国・民主」同盟が39議席、人民革命党36議席、共和党1議席という議会バランスになる(注:共和党ジャルガルサイハンは対丸紅負債問題で人民革命党に借りがあるので、人民革命党と連立会派を組むかもしれない)。ということは、「祖国・民主」同盟政権が成立する、ということである。
つまり、上記の設問は、「『祖国・民主』同盟政権によって、モンゴル社会はどのようになるか」と言い換えてもいいだろう。
この解答としては、第一に、腐敗・汚職・不正がさらに深化するであろう。今回の選挙では、1996年の選挙で当選した「民主同盟連合政権」の政治家たちで、「国有財産簒奪」に関与した人々、エンフサイハン、ゴンチクドルジ、ドルリグジャブ、バト=ウール、エンフボルドたちは、そろって当選した。彼らはその手口に精通しているから、その手段を行使しないという保証はない。また、「負債、税滞納疑惑」のあるジャルガルサイハン、エルデネバト、バトトルガたち、酒食金品供応を行った今回の候補者たち、および会社社長出身候補者たちは、その見返りを求める行動を抑えることはできないだろう。
第二に、この「祖国・民主」同盟によって政府の組閣が行われたとすれば、その議員たちの中からから政府閣僚を供給するであろうから、国家大ホラル(国会)は、与野党が逆転してしまう。そうなれば、「政策論議の深まり」は実現せず、1996年当時よりもさらに、「政治の不安定化」が進行することになる。また、経済的に言っても、「祖国・民主」同盟の公約実施をめぐって、国家予算歳出との関係もあって、来年度予算も決められない、と言った事態も予想されよう。まして、この「公約」は、荒唐無稽なもので、財政の裏付けもなく、もし実施されれば、物価上昇必至である。すなわち、1996年の「経済混乱」の再現となる。
第三に、これが最も基本的なことなのであるが、モンゴルは、IMFプランの「PRGF(貧困緩和成長戦略)」に従って政策を遂行している。これはモンゴルの「真の独立」(注:すなわち、国内産業、特に中小企業発展による一般国民所得増加、経済活動の自由化など)、を侵害するものである。このプランは、「国家予算歳出削減、輸出増による経済成長、インフレ抑制、私有化(民営化)推進」を至上命令としている。左派中道路線を採用していた人民革命党エンフバヤル政権は、このIMF路線を忠実に守った。これは究極的にはモンゴルを従属に導くものであった。ところが、「祖国・民主」同盟政権は、それからも逸脱し、歳出増、倫理喪失、経済混乱という事態を引き起こす。
すなわち、この政権によって、IMF路線の継続(=最悪)は実現されず、逸脱(=極悪)し、モンゴル社会を混乱に導くものとなる。
この政権を選択し(てしまっ)たのは、モンゴル国民であるから、これを抑止するのもモンゴル国民である。(2004.06.29)
