
ゲル地区にアパート建設の第一歩(2011年3月2日)
ウランバートル市では現在、冬季に石炭を利用して暖房・煮炊きをしている居住者が16万人いる、とされている。そのストーブから出る煙のため、ウランバートル市は、「ウラーンバータル」(注:「赤い英雄」の意)ならぬ「オターンバータル」(注:「煙の英雄」の意)になったと揶揄されている。もちろん、冬季のこの煙害は、ゲル地区からの煙だけが発生源ではなく、自動車の排気ガスや火力発電所の煙突から出る煙も含まれる。しかし、冬季に限って煙害が深刻化するということは、ゲル地区から出る石炭ストーブの煙がまぎれもなく主因である事は否定できない。
(注:凍結したセルベ川より北の方、スフバータル区第7地区を望む。ゲル地区のある遠方が見えない。筆者写)
ウランバートル市住民評議会(市議会)は、2011年3月2日、決議を採択し、ゲル地区(注:854カ所あると言われる)にアパートを建設することにした。その最初の第一歩として、スフバートル区第7地区でアパート建設の礎石が据えられた(2011年3月2日)。
(注:ウランバートル市内北部。「グーグル地図」より筆者加工)
この計画によれば、スフバートル区第9、10、11、12地区(注:広さ210ヘクタール)には、1万950世帯(4万6000人)が居住し、役所、小売店、商業施設、医療施設、学校、幼稚園で就業しているが、ここに、854戸のアパート(占有面積50u)が建設される。
そのため、この年に、当地区に居住する、512世帯および役所が引っ越し・移転することになった(総費用200億トグルグ)。なお、当ゲル地区居住者は、現在所有する土地からの引っ越し(=売却)金を得て、移住することも可能である(ウヌードゥル新聞2011年3月3日付電子版)。
さて、ウランバートル市の冬季公害である煙害(注:世界の都市が多かれ少なかれ経験してきた)を除去する、最終的な方策は何か。
考えられる最も根本的な方法は、首都移転である。かつて、エルベグドルジ(注:現在大統領)が米国留学(注:専攻不詳)から帰り、ビジネスを指向していたとき(2003年)、旧都ハルホリン(注:いわゆるカラコルム)に首都移転を構想し、その付近の土地を買い占め、利益を得ようとしたことがあった。その後、その話は立ち消えになったようである(注:全く雲散したわけではないが)。
この煙害を防ぐ方法として、石炭に替わる圧縮燃料(注:日本で使用されていた練炭、豆炭の類)の使用が考えられた。だが、そのために、ストーブの買い換えが必要になる。ウランバートル市民はそのような買い換え資金はないから、圧縮燃料の普及は進まず、この方策は効果が薄い。
やはり、究極の方法は、燃料としての石炭を使用しないことであろう。
かつて、国家大ホラル(国会)の「暴れん坊」(だった)グンダライ議員がゲル地区にアパートを建設することによって、冬の煙害を除去することを提案したことがあった(実際は、このとき、チンゲルテイ区の住民たちが当区のゲル地区にアパート建設をするようウランバートル市当局に陳情していた。そしてウランバートル市当局は、その陳情に同意していた。ウヌードゥル新聞2005年12月25日付参照)。グンダライは、何でも自分が最初に提案した、といって目立ちたがる性癖があって、かの「子供に毎月1万円支給」も自分が提案したのだと言っていた(注:ウヌードゥル新聞2004年9月8日付参照。なお、これは、民主党元党員で民族新党幹部会員のД.デルゲルツォグトであるという説もある。そしてこの政策に最も強く反対したのがゴンチグドルジ民主党議員とエルベグドルジ現大統領だった、という。ウヌードゥル新聞2010年3月27日付電子版)
それはともかくとして、ゲル地区にアパートを建設することは、冬の煙害を除去する最良の方法であることは間違いない。ゲル地区の住民にとって、冬季の水の確保とともに、暖房は生死にも関わる事項である。ここにアパートを建設することによって、民生の安定が図られ、ウランバートル市の煙害が除去されれば、この方策は一石二鳥となるのではないだろうか。(2011.03.06)
