
国家大ホラル(国会)が『2008−20012年政府行動綱領』審議開始(2008年11月05日)
国家大ホラル(国会)では、2008年11月5日、経済および予算両常任委員会が合同で、「政府行動綱領」の審議を開始した(ウヌードゥル新聞2008年11月6日付)。
この「政府行動綱領2008−2012年」の内容を概観する。
国家大ホラル(国会)法によれば、政権樹立後60日以内に「政府行動綱領」を作成し、国家大ホラル(国会)に提出しなければならない。
この「綱領」は、2008年9月12日に人民革命党と民主党が連合政権協定に署名した文書、私企業との協定文書、国際機関との条約などを基礎に作成された。
食料不足、物価上昇、失業、貧困などの解決を目指す。
政府による調整に市民が参加する。
行政介入を少なくし、市場経済を発展させる(注:上記二項目は民主党の主張に近い)。
この「綱領」は、人民革命党と民主党の選挙綱領の重なる部分60カ所を納めている。エンフバヤル大統領の提言も盛り込んだ。また、国際機関や諸外国との協定に従う。
この行動綱領は、1)各年の実行計画、2)内容の詳細、3)実行のための原資と会計、から構成される。
国家予算による資本投下の占める割合を30%、私企業による割合を33%、外資の割合を30%、外国からの借款と援助の割合を7%にする。
世界金融の混乱や銅・金世界市場価格の低落が否定的要因になっている。
「政府行動綱領」における留意点は、
1)鉱山部門の法律を調整し、鉱山部門から得られる収益を国民に分配する(注:Д.ガンホヤグたち民主党の一部議員たちは具体的数字がないと非難している)、
2)中小企業を育成する、
3)農牧業を発展させ、国民の食糧需要を100%満たす、
4)健康、教育、就労、所得を向上させ、専門家を養成する、
5)政権の公開性、誠実、責任を明確にし、国民の信頼に応える。
「政府行動綱領」の詳細は、
1、国民生活の向上
1.1、保健部門、
1.2、教育・文化・科学政策、
1.3、労働市場・労働政策、
1.4、社会保障政策、
1.5、(注:脱落)、
1.6、人口政策、
2、工業化・経済成長
2.1、マクロ経済、財政政策、
2.2、工業化政策、
2.3、農牧業および食糧自給政策、
2.4、インフラ・都市建設政策、
2.5、地方開発政策
3、環境対策
4、法整備・政府の公開性
4.1、法律政策、
4.2、犯罪対策、
4.3、国境防衛対策、
4.4、国民登録制度の確立、
4.5、市民社会・行政指導政策
5、安全保障・外交政策
5.1、外交政策、
5.2、国防政策、
5.3、災害対策
2007年末2008年初頭から2012年までの到達目標:
1)労働生産性 326万1000トグルグ(2007年末2008年初頭)→655万トグルグ(2012年)、
2)就労場所 5万3000カ所→21万カ所、
3)失業率 2.8%→2.5%、
4)高等専門部門の教育 4万人→5万5000人、
5)外国への留学生数 1000人→2000人、
6)高等教育における工業系学生の割合 30%→40%、
7)識字率 92.9%→95%、
8)妊婦10万人当たりの死亡率 67.2人→65人、
9)嬰児死亡率 19.1%→17.8%、
10)伝染病ら病率 84.8%→83%、
11)電化 70%→90%、
12)水道施設 66%→68%、
13)輸入食品に対する安全度 40%→80%、
14)アパート建設 10万戸、
15)ウランバートル市大気汚染 10mg/立方メートル→80mg/立方メートル(?)、
16)GDP成長率 10.2%→12%、
17)外資誘致 20%→25%、
18)一人当たりGDP 1288.8ドル→5000ドル、
19)一世帯当たりの収入(一ヶ月) 36万5400ドル→100万トグルグ、
20)個人平均所得(一ヶ月) 28万1800ドル→80万トグルグ、
21)貧困化率 32.2%→25%、
22)食糧自給率 60%→100%、
23)国道 2120キロメートル
(注:http://www.parliament.mn/home.php 参照)
この「政府行動綱領」には、С.バヤルの腹心であるЖ.スフバータル議員(注:前「中央選挙管理委員会」事務局長、1975年生まれ、人民革命党所属)が解説を加えている。
彼の解説によれば、最も重要な点は、1)政府歳出額がGDPの40%だったのを来年度は37%にすること、2)公務員数が12万8000人だったが15万人余に増えた。これを13万8000人にすること。3)政府の調整を改革する(=構造改革を行う)。すなわち、官僚主義、汚職、事務の重複などを解消すること、4)国家予算が歳入額の40%を鉱山部門で占めている現状を変える必要があり、そのため、生産者を支持し、ビジネス環境を整える必要性があること、5)来年度から個人所得税を地方予算に組み込むこと、6)「独立採算」の政府機関に財政支出を行うようになったこと(注:社会主義への回帰傾向の一つ)、などなどであるという(ウヌードゥル新聞2008年11月12日付)。
さて、С.バヤル連合政権が提出した、この「政府行動綱領」の特質について言及したい。
第一に、この「綱領」は、人民革命党と民主党という「水と油」の関係が破綻しない限り有効である。だが、民主党内にエルベグドルジらの造反派が誕生し、「鉱山法」改正をめぐって意見対立が激化し(注:元来、民主党は一人一党の性格が強く、また、鉱山に利権を持つ議員・党員が多い)、政権の足を引っ張る可能性が生じる。
第二に、この「綱領」の実現性の度合いに関していうと、大変悲観的である。それは、上記のことに加え、世界金融の混乱から銅・金世界市場価格が低落しているため、予算不足に陥る懸念があるからである。
モンゴル政治の特徴として、数値目標の達成が強く求められる。これは、「計画経済」からの伝統でもある。もし達成できない場合、С.バヤルの政治責任が問われるであろう。
今のところ、圧倒的な国民的支持を得ているС.バヤル首相が失脚する状況も出てくるかもしれない(注:サンマラル基金による世論調査[2008年10月24日〜11月7日実施]によれば、「支持する政治家」として、С.バヤルが46.7%で、Ц.エルベグドルジの18.8%を圧倒的に引き離している。「モンゴリン・メデー」新聞2008年11月14日付。なお、ウヌードゥル新聞[2008年11月17日付]では、С.バヤルが40.9%、エルベグドルジが21.7%となっている)。
第三に、この「綱領」が「人民革命党と民主党の選挙綱領の重なる部分60カ所」を収集した結果(注:実際は、人民革命党の政策が7割を占める[ウヌードゥル新聞2007年11月6日付参照])、私企業による「市場経済化すなわち資本主義化」という目標と、「政府による(効率的な)調整」という目標が最終的に対立して、破綻を来す可能性がある。
世界資本主義の危機が深化する中で、「市場経済」すなわち「資本主義」を目指すことは、危険性を伴うし、モンゴルの歴史と伝統に反するものである。
第四に、最も危険性のあることなのだが、この「綱領」は、「国際機関」との「協定」に束縛されている。これは、IMFの介入を正当化するものとなるであろう。(2008.11.17)
