北京オリンピックとモンゴル・カシミア産業(2008年04月04日)

モンゴルの主要産業の一つがカシミア(注:山羊の毛から加工された衣類)産業であることは周知の事実である。「ゴビ」ブランドのカシミアを知る人も多いであろう。

最近、「北京オリンピックがモンゴル・カシミア産業の好機である」、というヘッドラインの新聞記事がウヌードゥル新聞に掲載された。

北京オリンピック、カシミア、モンゴル国内産業ということで、いささか三題噺めくが、モンゴル経済の現状をうまく言い当てているので紹介しよう。

モンゴルのカシミア梳毛市場を独占している中国人は、カシミア梳毛買付価格の相場を高く設定することによって、他者(モンゴル人などの国内業者)を締め出し、その後、安く買い叩いている。

すなわち、昨年(2007年)の初期のカシミア梳毛買付価格相場は、4万5000トグルグとまれに見る高値であった。

それを知った牧民たちは、山羊の毛の刈り取りを急いだ。

その結果、山羊の梳毛がだぶつき、相場が崩れ、中国人が安値でカシミア梳毛を買い叩いた。

これが中国人の一般的手法である。

彼らは、中国政府から低利の融資を受け、その融資で得た資金を高利のモンゴルの銀行(注:ウランバートル市銀行は中国元での預金を認めている)に預金し、資金力を高めている。

こうして、モンゴルの4000トン以上のカシミア梳毛が中国に流出した。

ところが、今年の相場は、3万9500トグルグである。これは、前年に比べ、安値であり、昨年のような高値にはならない、という。


(ウヌードゥル新聞2008年4月4日付より)

これには、カシミア梳毛世界価格が下落していることが影響を及ぼしている(カシミア梳毛1トンが75ドル)。

だが、もう一つの原因は、2008年に中国で開催されるオリンピックだという。

中国政府は、オリンピック開催に向けて資金を投下しているため、中国カシミア産業には低利融資を与える余裕がない。

だから、資金力が低下している中国人は、今年はモンゴルからカシミア梳毛を調達できない。

この状況は、モンゴル・カシミア国内産業に好機を与える。

今まで、モンゴル国内産業は、カシミア梳毛が十分調達できなかったため、全稼働能力の30%しか利用できないで来た。

国内産業がこの好機を十分に利用する必要がある。

従来、カシミア半加工品をカシミア梳毛と偽って中国から逆輸入していた。このため、国内産業育成のため、カシミア梳毛の輸出関税を高くするとともに、カシミア半加工品に課せられる関税も2倍にする政策が検討されて来た。

カシミア国内産業の保護・育成政策は、WTO(世界貿易機関)も認めるべきである。

このように、資金力に劣るモンゴル・カシミア国内産業を育成する方策が急務となっているのである(以上、ウヌードゥル新聞2008年4月4日付参照)。

確かに、中国人がモンゴル経済を牛耳っている、という論説は否定できない。道路建設、住宅建設、鉱山部門、食品、レストランなど、モンゴル経済のあらゆる分野に中国人が進出している。

その上、モンゴルの経済政策は、資本主義国際機関=IMFの指導下にある。

政治的独立はさておくが、このような経済的従属状態は、1990年以降に形成された。

こうした状況を打破するべく、社会保障労働相デンベレルが語るように、モンゴル中堅技術者養成のための専門学校を設立し、モンゴル人中堅専門技術者を養成する動きが現在進行中である(ゾーニー・メデー新聞2008年4月2日付)。

モンゴル牧畜業の根幹を支える(注:モンゴル経済の根幹でもある)モンゴル・カシミアは、世界有数の品質を誇る。このカシミアが中国人の手中から脱却することは焦眉の急である。

それが梃子となって、モンゴル経済がIMFの束縛から脱却し、真の独立を果たすことができれば、その将来は明るいものとなるであろう。(2008.04.06)

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