「祖国の贈り物」基金案について(2008年02月13日)

С.バヤル政権は、2008年2月13日、「祖国の贈り物」基金構想を発表し、同日開かれた政府閣議で、国民一人一人に5万トグルグを支給する案を提起した(ウヌードゥル新聞2008年2月14日付)。

この基金構想は、モンゴルのGDPの40%を占める鉱山部門からの収益を国民に平等に分与しようというものである(ウヌードゥル新聞2008年2月13日付)。

これは、ある日突然浮上したものではない。その経過をたどってみる。

「健全な社会のための市民運動」は、2004年11月、鉱物資源を国民のものにするように要求した。

エンフバヤル大統領は、2007年2月1日、「祖国の贈り物」構想を発表した。

С.バヤル首相は、2007年12月12日、「投資契約」(注:アイバンホーマインズ社とのオユトルゴイ鉱山投資契約、およびロシアとのアスガト鉱山投資契約)を破棄した(ウヌードゥル新聞2007年12月27日付)。オユトルゴイ鉱山が稼働すれば経済成長が23%に、タバントルゴイ炭鉱山が稼働すれば経済成長が43%になり、2021年にはモンゴル人一人当たりGDPが1万6000ドルになる、と試算されている。

С.バヤル首相は、2008年2月8日(注:ツァガーン・サル[旧正月])に、地下資源を国民に贈る、と表明した。

新鉱山法を更に改正する動き(注:所有株式比率を「51%まで」から「51%以上」に改訂する)が活発化し、鉱山法改正作業グループ(代表Ц.ダミラン議員。国家大ホラル[国会]人民革命党会派、民主党グループ、政府役員から構成)が結成され、第1回会合(2008年2月5日)と第2回会合(2月14日)がもたれ、第3回会合(2月20日)が予定されている(ウヌードゥル新聞2008年2月16日付)。

市民運動党は(注:2007年10月17日最高裁認可。党首Ж.バトザンダン)、同様の構想を「黄金の株券」、民主党は「宝の株券」と名付けた(以上、ウヌードゥル新聞2008年2月14日付参照)。

さて、この「祖国の贈り物」基金構想は、憲法(1992年)で「鉱物資源の国有」が明記されているのであるから、法的根拠があると言っていいだろう。

ただ、上述の「ウヌードゥル新聞」は、この構想が今年(2008年)実施される国家大ホラル(国会)議員選挙に関連して出てきたものである、とみている(注:「鉱物資源が選挙戦略の前面に出た」としている。ウヌードゥル新聞2008年2月14日付)。

つまり、2004年選挙では、「子供に毎月1万トグルグ支給」という選挙公約を掲げた「祖国・民主」同盟が事実上勝利をした。2008年選挙では、「全国民に5万トグルグ支給」という選挙公約が各党から発表されようとしている、というわけである。

だが、単にそれだけではないだろう。

まず、モンゴルの歴史的流れからみれば、エンフバヤル政権(2000−2004年)でのIMF路線追随によって、「貧富の差の拡大」が進行した。

その矛盾を背景にして、市民運動が隆盛になった。2004年以後の3つの政権(注:エルベグドルジ「大同盟」政府、М.エンフボルド人民革命党主導政府、С.バヤル政権)は、「公正な富の分配」を政府綱領の基本にせざるを得なくなっている。

このことは、モンゴルが社会主義の歴史的伝統を継承していることを意味する。

第二に、「祖国の贈り物」構想についてであるが、これを提唱したエンフバヤル大統領は、クウェート訪問(2007年11月)で、石油をテコとする経済発展を図っている同国を現実にみて、その実現性に意を強くしたかもしれない。

しかし、第三に、問題が(注:根本的な問題が)一つある。

それは、この構想が自国で蓄積された資金によってではなく(注:牧畜業発展が基礎になるだろう)、「外資による資本投下」を前提にしていることである。

モンゴル人は、中国の「経済侵略」には極度に警戒感を表すが、世界資本主義諸企業の「経済侵略」にはその免疫がない。

この構想を実現させるのは、モンゴル国内産業が振興してからでも遅くない。鉱山採掘に伴う環境汚染の進行も阻止できない段階で、「ハゲダカ」たる資本主義に依存して鉱山開発をするのは極度に危険である。

また一方で、ウヌードゥル新聞のエムジン記者は、国家大ホラル(国会)議員選挙と関連づけて、この動きが「Алаагvй баавгайн арьсыг арчилж нθмрθх(捕らぬ狸の皮算用)」だと述べ、政治家たちが有権者を買収する(行為)である、としている(ウヌードゥル新聞2008年2月15日付)。この言も、一面の真実をついている。(2008.02.17)

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