エルデネバト燃料エネルギー相解任案が否決された(2007年05月11日)

エルデネバト燃料エネルギー相解任案が国家大ホラル(国会)総会で否決された(2007年5月11日)。

民主党と市民の意志党によって次々と提出された、М.エンフボルド政権の閣僚解任案は、ツェンゲル運輸観光相(2006年12月21日)、グンダライ保健相(2006年12月27日)、オドンチメド社会保障労働相(2007年1月26日)、ジャルガルサイハン商工相(2007年2月6日)などの解任案に続いて(注:グンダライ保健相解任案は政府によって提出された)、エルデネバト燃料エネルギー相解任案が国家大ホラル(国会)総会で審議採決された。

以下、その経過を説明する。

国家大ホラル(国会)民主党議員たちは、2007年4月23日、会議を開き、エルデネバト燃料エネルギー相解任要求について協議した。その理由は、エルデネバトが「牧民10万世帯電化計画」を不法に運用した、というものである(ウヌードゥル新聞2007年4月24日付)。

そして、Л.ガンスフ(民主党)、М.ゾリグト(市民の意志党)は、2007年4月26日、エルデネバト燃料エネルギー相解任案をニャムドルジ国家大ホラル(国会)議長に提出した(ウヌードゥル新聞2007年4月27日付)。

この解任案提出の裏では、民主党が政治不安を醸成していることを印象づけようとする、人民革命党内大臣希望者による民主党煽動などが行われている、という真偽は定かではない新聞記事が掲載されていた(ウヌードゥル新聞2007年5月2日付)。

人民革命党は、2007年5月2日、エルデネバト燃料エネルギー相解任案に反対することを決定した(ウヌードゥル新聞2007年5月3日付)。

このエルデネバト燃料エネルギー相解任案提出を受け、1週間後の2007年5月3日と4日の2日間にわたり、国家大ホラル(国会)経済常任委員会で、エルデネバト燃料エネルギー相解任案が審議された。

それによれば、国家大ホラル(国会)は、2006年に5万戸、2007年に7万5000戸の牧民世帯を太陽発電によって電化する決定を出し、それを受けて、エルデネバト燃料エネルギー相は、「ボマン太陽発電」計画の入札を競売によって行った。

だが、落札した韓国企業が期限内に施工しなかったために、当計画は実施に至らなかった。

その審議の席上、Н.バトバヤル議員(民主党)が新たな資料を提出したため、その資料の検討を求め、民主党がさらに休会を要求した。そのため、この問題が採決留保となった(ウヌードゥル新聞2007年5月4日付)。

その内容というのは、1)エルデネバト燃料エネルギー相が予算化された資金57億トグルグを別の用途に使ったこと、2)自分の会社(エレル社)に資金を回した、という問題であった。

これに対し、人民革命党の見解は、1)エルデネバトが法に従っている、2)多くの事業を始めたばかりの時に解任する必要がない、というものであった。

国家大ホラル(国会)経済常任委員会は、2007年5月9日、エルデネバト燃料エネルギー相解任案の再審議を行った。特に、Н.バトバヤル議員(民主党)は、提出した新資料に関しての説明を行った。

それによれば、次年度予算を財務相と調整するという、2006年12月13日の政府訓令289号に基づき、2007年4月13日、バヤルトサイハン財務相とエルデネバト燃料エネルギー相は、「資金調整に関する」通達を出し、エネルギー事業への予算のうち、57億トグルグを削減し、その内、1億5720トグルグをエレル社に与えた、というものであった(ウヌードゥル新聞2007年5月10日付)。

一方、この新資料に関し、経済委員会検討グループ5人のうちの一人、ダミラン議員(人民革命党)は、予算化された資金を、財務省と協議し、他の資金に振り向けるのは、2006年まで行われていた、と述べて、民主党の見解と対立していた(ウヌードゥル新聞2007年5月8日付)。

2007年5月10日、国家大ホラル(国会)経済常任委員会は、エルデネバト燃料エネルギー相解任案の再々審議を行い、エルデネバト燃料エネルギー相解任案に賛成の採決をした(ウヌードゥル新聞2007年5月11日付)。

この採決を受け、2007年5月10日、国家大ホラル(国会)総会が即時開催された。

だが、人民革命党は、「勤務時間が終了した」という理由で、エルデネバト燃料エネルギー相解任案の審議採決の延期を申し入れ、採決が翌日に持ち越された(ウヌードゥル新聞2007年5月11日付)。

2007年5月11日、国家大ホラル(国会)総会は、エルデネバト燃料エネルギー相解任案を再度審議した。採決の結果、出席議員61人のうち、37議員が解任案に反対し(注:人民革命党、共和党、民族新党、国民党の議員たち)、否決された。

注目されたのは、1)人民革命党議員のЦ.シャラブドルジ、У.オラーン、Т.ガンディ、Т.オチルフー、Л.プレブドルジが欠席したこと、2)国民党のグンダライ議員が人民革命党と共同歩調をとったこと、3)来週にも、民主党がМ.エンフボルド政権不信任案を提出すること、であった(ウヌードゥル新聞2007年5月12日付)。

1)については、彼らがエルデネバト解任に賛成の見解を持っていたためであると見られている。

2)については、実に奇妙なことであるが、その理由は多分、以下のようなことであろう。

すなわち、Ц.シャラブドルジ、Р.ゴンチグドルジ、А.ムラト、Б.バトバヤル、Р.ニャムスレン、Л.オドンチメド、Д.オドフーたち10議員が「制限付きカジノ法」案を提出した(2007年1月8日)。これに対し、カジノを営業する「インペリアル・ゴールド」社が議員たちに賄賂を贈っていると見た、グンダライ議員は、突然、2007年5月7日、別途「制限付きカジノ法」案を国家大ホラル(国会)に提出した(ウヌードゥル新聞2007年5月8日付)。

グンダライは、早急にこの法案を審議したいからであろう。このことは、先の5月10日の経済委員会での審議の席上での、彼の発言からうかがえる。彼は、以下のように述べた。

エルデネバトが法に違反したのなら、彼と一緒に決定を出したバヤルトサイハン財務相を、さらには政府を解体するべきである。諸君の(注:民主党の)主張は根拠薄弱である。大臣に関係のない問題で、解任させることはできない。こうした「ささいな」問題で責任を問う必要がない。政治状況を安定させるべきである。国民は、議員の行動を監視している。2008年の選挙でその結果が出るだろう(ウヌードゥル新聞2007年5月11日付)。

常に突出した発言を好むグンダライは、「政治状況を安定させ」、「制限付きカジノ法」審議を進めたいのである。

さて、こうも立て続けに、政府閣僚解任案が提出されては、グンダライならずとも、政治状況が不安定ならざるを得ないだろう。

現時点での政党支持率が人民革命党と民主党がほぼ拮抗か、もしくは民主党が25%対23%で2ポイントほど高いといわれているが(ウヌードゥル新聞2007年5月11日付)、こうした支持の「高さ(?)」(注:正確には人民革命党支持率の低下)を背景にして、来年の国家大ホラル(国会)議員選挙を有利な状況に持っていこうという、民主党の強気の「選挙戦略」がうかがえる。

だが、モンゴル国民の意思は、民主党支持ではなく(注:25%というのは、4人に1人しか支持していないということである)、民生安定、汚職追放(注:「可能」であれば。筆者がこの問題について多くのモンゴル人に訊ねると「不可能」だという)にあるであろうから、この「選挙戦略」が成功を収めるかどうかは不明である。

例えば、ウランバートル市チンゲルテイ区住民代表評議会(注:区議会のこと)第24選挙区補欠選挙が2007年4月29日に実施され、人民革命党、民主党、市民の意志党の3党の候補者が立候補し、人民革命党候補が当選している(ウヌードゥル新聞2007年5月1日付)

銅・金世界価格上昇を背景にして、М.エンフボルド政権は、国家予算の大規模投入による、積極的な経済政策をとりつつあるが(注:「経済再建政策」といわれ、エルデネバトの「燃料エネルギー省」もその政策の中核に位置する)、民主党がこの政策に何ら対案を示すことができず、こうした稚拙な「選挙戦略」をとり続けると、そのしっぺ返しがくるかもしれない。(2007.05.13)

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