
貯蓄銀行公金詐取事件(2007年02月28日)
現在、貯蓄銀行をめぐって、モンゴル政財界が震動している。「事件」が進行中なので、確定的なことがいえる段階ではないのだが、以下その経緯を説明したい。
(貯蓄銀行。南隣にモンゴル国立銀行、ウランバートル・シティ銀行、北斜め向かいに商業発展銀行本店、東にゴロムト銀行本店などがある。筆者写)
貯蓄銀行は、1996年12月、国民銀行が改組されて、政府が株券161億トグルグを所有する国有銀行として設立された。管轄は、財務省が行っていた。
ところが、2005〜2008年に民営化する国有機関の中に、この貯蓄銀行がリストアップされ、2005年5月、民営化手続き進行のため、国有財産委員会にその管轄が移った。
そして、民営化競売入札によって、2006年11月2日、「チンギスハーン銀行」、「ブラツキー国民銀行(注:ロシア資本)」、「モンゴル保険」社のコンソーシアムが、2010万1千ドルで落札した。
この民営化を完結させるため、2006年12月12日、Б.エンフバトが「貯蓄銀行」社長に就任して、民営化事務手続きを推進した。
その後、貯蓄銀行資金評価に疑義がある、といううわさが流れ、民営化の手続きが遅れ始めた。
それを裏書きするかのように、この貯蓄銀行を落札した「ブラツキー国民銀行」は、2007年02月12日、民営化前の貯蓄銀行の資本金のうち、1000万ドルが不足している、と発表し、真相を明らかにするようモンゴル銀行に要求した。
これを受け、財務省・国有委員会合同調査委員会が調査を開始し、貯蓄銀行の保有資金のうち、142億トグルグが紛失していることを明らかにした。
この「紛失」は、2002年から発生し、その内、出納責任者Т.チメドツェレンが貯蓄銀行の作成し発行する「送金証明書」を偽造して、15億5000万トグルグを詐取し、その他は不明、ということであった。
ただ、このような巨額の金額の詐取が唯一人の人物によって行われたとは考えられず、政財界の大物たちが絡んでいるのではないか、という疑惑が広がっている(以上、ウヌードゥル新聞2005年01月31日、2006年11月03日、2006年11月13日、2007年03月01日付。アルディン・エルフ新聞2006年12月19日、2006年12月22日付。ニーゲミーン・トリ新聞2007年02月12日付、参照)。
上述のように、国民銀行を改組して、貯蓄銀行が設立されたと述べたが、このとき同時に、モンゴル保険銀行というのが改組されて、復興銀行になった。この復興銀行をめぐって、1998年、当時の民主同盟連合政権がゴロムト銀行との合併を策し、一大疑惑事件となった。これは、債務者であった政府高官たちが、復興銀行債務帳消しを企てて、復興銀行を倒産させようとしたものであった。
当時の疑惑の中に入っていたグループの一つが、民主同盟連合政権下の民族民主党と社会民主党を縦断する「ザロー・リーダー・クラブ」所属の議員たちであった。
今回の、貯蓄銀行疑惑では、人民革命党の青年部である、「モンゴル民主社会主義青年同盟」(注:加盟員7万人、加入資格は18歳〜35歳まで)の指導部数人が、名を取りだたされるている。そのため、同同盟小会議(執行委員会)指導部は、その指導部全員を解任するよう要求し始めている。
「復興銀行事件」では、民主同盟連合政権下のエルベグドルジ内閣が総辞職し、そのあげくに、かの「С.ゾリグ議員殺害事件」が起こってしまった。
今後、この事件がどう推移するか、注目される。(2007.03.04)
(追補)貯蓄銀行経営陣(社長Ц.ムンフバトたち)は、2007年3月5日、記者会見で、138億トグルグが9種類の不正によって費消された、と発表した(アルディン・エルフ新聞2007年03月06日付、ウヌードゥル新聞2007年03月06日付)。(2007.03.06)
(追々補)一方、上記のように、「モンゴル民主社会主義青年同盟」がこの事件に関与が噂されているが、同同盟委員長Г.ザンダンシャタル(国家大ホラル[国会]議員)は、この事件は個人による犯罪である、と述べている(ウヌードゥル新聞2007年03月06日付)。(2007.03.11)
(追々々補)これと軌を同じくして、2007年3月16日、民主社会主義青年同盟指導評議会のメンバー17人が記者会見し、同メンバーのЦ.チメドツェレン、Х.バトエルデネが貯蓄銀行事件で逮捕されたことについて、これは個人の犯行であること、そして、これは民主党書記長ドルリグジャブによる同同盟つぶしの政治的陰謀であることなどを、強調した(ウヌードゥル新聞2007年03月17日付)。いずれにしても、この貯蓄銀行事件が政治問題化してきていることは事実である。(2007.03.18)
(追々々々補)貯蓄銀行行員による公金詐取事件を契機に、預金者による預金引き出しが相次いでいるため、貯蓄銀行に経営危機の兆候が現れ始めているという。このため、財務省は、貯蓄銀行を支援する用意があると発表し、事態の収拾に乗り出している(ウヌードゥル新聞2007年03月14日付)。(2007.03.19)
