アスガト銀鉱山採掘権問題(2007年01月10日)

ジャルガルサイハン商工相は、「アスガト銀鉱山」(注:バヤンウルギー・アイマグ、ウルギー市西方180キロ)の採掘権がロシア側に譲渡されたこと(注:後述)に反対する声明を出した。

モンゴル民主同盟、ソヨンボ運動、野党(民主党、市民の意志党など)は、これに共同歩調をとって、反対した。

この動きに対し、政府は、2007年1月10日、閣議決定を出し、アスガト銀鉱山採掘権のロシア・ポリメタル社への譲渡契約を無効にした。







(注:ウヌードゥル新聞2010年10月7日付電子版掲載の写真)

アスガト銀鉱山は、1976年、旧ソ連によって開発された。事前探査作業が1979年まで続けられ、推定埋蔵量が1979年、1987年、1991年にそれぞれ確認された。

だが、この鉱山は、遠隔地に位置し、インフラが整備されていないという悪条件のためそのまま放置された。

その後、「モンゴルロスツベトメト」社(注:モンゴルとロシアの合弁会社で、社長がХ.バダムスレン。次期バヤンウルギー・アイマグ知事就任が噂されている)は、1996年、その採掘権を獲得した。

当社は、いくつかの外国私企業と共同で探査採掘作業を行ったが、収益性が悪いとして、これまたそのまま放置された。

当社のアスガト銀鉱山採掘権は、2006年12月1日に期限切れとなった。

エンフバヤル大統領が、2006年12月8日、ロシアを公式に訪問した際、この採掘権が協議され、モンゴル・ロシア合弁会社「モンゴルロスツベトメト」社はこれを再度獲得した。

「モンゴルロスツベトメト」社(注:現社長はО.エルデネー)は、アスガト銀鉱山開発のために、ロシア民間企業と50:50の株式比率で、「ポリメタル」社を設立していた。これは、従来通りの手法であった。(以上、ウランバートル・ポスト新聞電子版2006年12月18日付、ウヌードゥル新聞2007年01月08日付、12日付参照)

さて、М.エンフボルド政権は、ロシアの「ポリメタル」社による採掘権行使契約を無効にしたが、その際、この契約署名を提案したО.エルデネーに責任を負わせた。

だが、上述の通り、モンゴル・ロシア合弁「モンゴルロスツベトメト」社による、ロシアの「ポリメタル」社への採掘委託は、О.エルデネーの独自行動ではなく、従来の慣行に従って行われたものである。

この行為が背任に当たるのであれば、歴代社長の行動はすべて背任行為に相当するであろう。

周知のように、2006年7月、「新鉱山法」(注:正確には「鉱物資源法」改正)が成立し、鉱物資源の戦略的重要性がクローズアップしてきた。これは、モンゴルの経済的独立にとって重要なものである。

この動きを背景に、ジャルガルサイハン商工相たちは、従来の「外資企業による資源開発」に異議を唱えたのであった。

これは、全く正当なものであるといわなければならない。

ただ、О.エルデネーがエスケープゴートにされてしまった。

もっとも、これもモンゴル的伝統慣習に従って、何年か後には、彼の名誉回復がなされるであろう。

注目すべきは、従来の手法(外国企業による鉱山開発)が簡単には成立しなくなっていることである。

鉱山主権の問題、すなわち「モンゴルの経済的独立」問題が、1990年以降、ようやく焦点となってきた。これは、IMF路線とも対立する。

付言すれば、これは、「モンゴル民主化運動」の一つの目標でもあったのである。(2007.01.14)

(追補)これに対し、ロシア側は、2007年5月15日、ロシア連邦議会議長ミロノフをモンゴルに派遣し、モンゴル政府による、ポリメタル社への譲渡契約無効決定に反対を表明した(ウヌードゥル新聞2007年5月18日付)。このことは、ロシアがこの問題に並々ならぬ関心を寄せていることを物語っている。

なお、ウヌードゥル新聞(2007年5月16日付)は、エムジン論説で、アスガト鉱山について以下のように解説している。

アスガト銀鉱山は、米国、トルコ、カナダ、日本、韓国、ロシアが関心を寄せている。だが、当鉱山には、問題点がある。つまり、1)各金属の埋蔵量が少ない、2)バヤンウルギーに就業機会を創出する、3)バヤンウルギー選出国家大ホラル(国会)議員たちに意見の食い違いがある、4)高度3千メートルに位置し、インフラへの投資が必要である、5)「モンロスツベトメト」社が唯一の採掘企業である、6)ロシアとの関係が深い、7)М.エンフボルド首相が「モンロスツェベトメト」社の提案に否定的である、8)電力問題が未解決である、9)有害成分(シアンなど)を含有する、10)当鉱山をめぐる議論が多い。さらに、歴代政府の意見の違いがあった(ウヌードゥル新聞2007年5月16日付)。

だが、タバントルゴイ炭鉱山がかつて採算性を疑問視され、放置されていたが、現在注目されているように、条件さえ整えば、アスガト銀鉱山も再び脚光を浴びることは否定できないであろう。(2007.05.20)

(追々補)上記「モンゴルロスツェベトメト」社がロシアの「ポリメタル」社と結んだ契約を無効にしたモンゴル政府の立場について、М.エンフボルド首相は、モンゴル・ロシア合弁会社が、新たな契約を結ぶ場合、モンゴル政府の承認を必要とするが、「モンゴルロスツベトメト」社がこれに違反したから、その契約を無効にした、と述べた(ウヌードゥル新聞2007年5月21日付)。(2007.05.22)

(追々々補)モンゴルロスツベトメト社総会が開催され、2007年5月25日に終了した。モンゴル政府(国有財産委員会)が提案した同社社長О.エルデネー解任案は、ロシア側の反対で退けられた(ウヌードゥル新聞2007年5月29日付)。(2007.05.31)

(追々々々補)このアスガト銀鉱山をめぐって、ロシアの私企業「ポリメタル」社との共同開発案は破棄された。ここにきて、「エルデネス」社という100%モンゴル国有の企業が設立され、この会社が「ポリメタル」社と共同で50%ずつ(=1600万ドルずつ)出資し開発する案が、現在浮上している(ウヌードゥル新聞2008年1月17日付)。だが、この計画案に対し、モンゴルが100%出資して自力で開発するべきであるという意見も出されている。

これは正当である。モンゴルが諸外国に依存せず、自力で鉱山開発することは重要なことである。

同様に、日本などがその下請機関(JICAなど)を通じて様々な工作を講じているが、こうしたことは断固として排除しなければならない。

例えば、日本政府は、トゥブ・アイマグ、フシグト・フンディーに新空港を建設する計画に対し、2億7000万ドルの特恵融資供与(年利0.2%、40年償還、最初の10年間支払い猶予)を決めた、という新聞報道があった(ウヌードゥル新聞2008年1月19日付)。これなども、日本人の税金が日本の下請機関とモンゴルの高官たちの懐を潤すだけに終わる公算が高い。(2008.01.20)

(追々々々々補)結局、アスガト銀鉱山は、タバントルゴイ炭鉱と共に、その採掘権が国営企業「エルデネスMGL」の所有に帰した(ウヌードゥル新聞2008年6月2日付)。これは、民族的権益擁護の観点からみて、妥当なものであろう。(2008.06.05)

(追々々々々々補)その後、このアスガト銀鉱山採掘(=開発)問題は、膠着状態に陥っているようである。当鉱山開発に40年以上にわたって従事してきた、У.マブレト博士(注:バヤンウルギー・アイマグ出身の鉱山部門専門家)は、ウヌードゥル新聞(2010年10発7日付電子版)に、アスガト銀鉱山開発推進を訴える論説文を寄稿している。(2010.10.10)

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