「銅・金特別税」に反対の動き(2006年05月30日)

今国家大ホラル(国会)では、「18歳までの全児童に3000トグルグ支給」案がМ.エンフボルド政権によって提案された。これに対し、野党の民主党は、「1万トグルグ支給」案を主張した。それが2004年選挙時の「祖国・民主」連合(注:民主党、祖国党[旧民主新社会党]、市民の意志[旧市民の意志・共和党]による選挙連合。現在は解散した)の選挙公約であったからである。政府は、そのための原資がない、として、野党案を受け入れない(注:結局、2006年06月02日に開かれた国家大ホラル[国会]で野党案は否決された。ウヌードゥル新聞2006年06月03日、およびウドゥリーン・ソニン新聞2006年06月03日付付参照)

これに対し、野党(特にН.バトバヤル議員)は、銅・金の世界市場価格上昇分をそれに当てるよう主張した。

その議論の中で、「銅・金のロンドン金属市場での価格が、それぞれ1トン当たり2600ドル、1オンス当たり500ドルを超えた場合、その収益の68%を課税する法案」(注:正確には、「若干の製品価格上昇に係る税」)が、2006年05月12日、突如として国家大ホラル(国会)で承認された(ウヌードゥル新聞2006年05月15日)。

この税法(注:「銅・金特別税」と表記する)の影響は、オユトルゴイ鉱山の採掘を行っているアイバンホー・マインズ社の株価の25〜20%下落(ウヌードゥル新聞2006年05月25日)、トロント証券取引所で売買されている鉱山企業17社の株価の13億ドル下落(ウヌードゥル新聞2006年06月01日)、となってあらわれた。

これに対し、この「銅・金特別税」反対の動きが強まっている。

まず、IMF(国際通貨基金)は、ロジャー・クロネンバーグらの職員をモンゴルに派遣し(2006年05月04〜15日)、モンゴルの貧困緩和対策実施状況を視察させた。彼らは、「金・銅特別税」が外資に有害である、と批判した(ウヌードゥル新聞2006年05月17日)。

これに勢いを得たアイバンホー・マインズ社は、これまた最高経営責任者ジョン・マケインをモンゴルに派遣した。彼は、記者会見で次のように語った。すなわち、モンゴルは市場経済によって発展しようとして外資企業を招致した。「オユトルゴイ」鉱山がモンゴルに(注:正確にはこの外資企業に)収益をもたらすには長期間を必要とする。それを考慮しないならば、我々は資本を引き上げるであろう。「銅・金特別税」導入は、モンゴル経済およびその国際的立場に否定的影響を与えるだろう。そして世界経済はモンゴルを必要としなくなるだろう、と(アルディン・エルフ新聞2006年05月25日付))。

外資企業のねらいは、銅・金特別税を実施しないか、廃案にすることである。

彼らは、鉱山採掘権返却も視野に入れている。一部の鉱山(「コンド・ゴールド」、「ガチョールト」鉱山)では、金採掘を一時的に停止している、という(ウヌードゥリーン・モンゴル新聞2006年05月31日付)。

こうした「恫喝」は、最近高まっている、モンゴルの「民族主義」を刺激しないわけにはいかない。

「急進的改革」運動は、2006年05月30日、、記者会見を行って、「チン・フ・マク」社が「自動延長契約」(注:法が改正されても、外資企業に対する特別優遇措置を変更しないという、モンゴル政府と当該外資企業との取り決め)で合意された条項を履行していないこと(注:舗装道路の敷設など)を明らかにした(ウヌードゥル新聞2006年05月31日)。そして、この「自動継続契約」と「銅・金特別税」破棄を提案し、これが受け入れられなければ、デモ集会に訴える、と表明した(ウドゥリーン・ソニン新聞2006年05月31日付)。

そして、この「銅・金特別税」に反対する集会が、2006年06月02日、文化センターで開かれた(国家大ホラル[国会]議員ではС.オヨンだけが出席した)。この集会の組織者の一人Л.ツェレンダバーは、「この税法が導入された結果、鉱山企業の設備投資が不可能になり、それに関連した企業の従業員5万人の生活が脅かされる。さらには、世界でのモンゴル評価が低くなる。」、と演説した。最後に、「5月12日の黒い金曜日に突如として承認された『銅・金特別税』を無効にすること、(そして当該法承認に際し)専門家に諮問することを要求する」、という声明文を国家大ホラル(国会)議長に提出した(ウヌードゥル新聞2006年06月03日)。

さて、ここでの問題点は二つあると考えられる。

まず第一に、外資企業の撤退は、モンゴル経済の独立にとってむしろ歓迎されるべきものであって、問題ない。むしろ問題なのは、モンゴルにある自生的な鉱山関連企業(注:そのすべては中小規模の企業)の状況である。

"United Machinery INC"社長Ш.バトツェンゲルの語るところによれば、「銅・金特別税」が関連企業に与える影響は否定的である。なぜならば、世界市場価格上昇の好況時に、鉱山企業は設備投資を行い、その関連企業に設備資材を発注してきた(注:ただしその資材は輸入によるという問題点はある)。この状況が困難になって、彼らは倒産の危機に陥っている、という(ウヌードゥル新聞2006年05月31日)。

こうしたモンゴルの経済的独立を支える中小企業が消滅の危機に陥ることこそが問題である。

第二に、この「銅・金特別税」が制定された背景には、国家大ホラル(国会)議員たちの安易な「票田」作りがある。彼らは短視眼的に次の2008年の選挙を有利に戦うため、「子供に1万ドル支給」案に固執している(注:モンゴル経済の現況からして、「子供に3000トグルグ支給」も疑問なのだが)。

この「銅・金特別税」は、数人の議員たちが電卓をたたいて行った机上の計算によって作成され、研究者や実務経験者・当該企業に諮問することなく、突如として国家大ホラル(国会)で承認されたものであった(ウヌードゥル新聞2006年05月31日)。

こうした政治経済状況は、2004年選挙の「究極の国家大ホラル(国会)議員バランス」がもたらしたものであるが、それを選択したモンゴル国民の責任にも由来する。その背景には、資本主義への幻想とその拙速化があることはいうまでもない。(2006.06.05)

トップへ
トップへ
戻る
戻る
次へ
次へ