
ウランバートル市バス料金値上げの波紋(2006年01月02日)
ウランバートル市バス料金が2006年明け早々、1月2日、200トグルグから300トグルグに値上げされた。
これより先、エルベグドルジ首相は、バス運賃値上げを認めないと言明していた(2005年12月28日)。そして、そのための交渉をウランバートル市長に指示していた。
それに従いまず、2006年1月2日(値上げされた日)、市交通局長が複数のバス会社と会ったが、成果を得られなかった。そこで、Ц.バトバヤル市長は、2006年1月3日、バス会社代表者たちと交渉した。
ウランバートル市長は、バス会社側に対して、1)世銀融資9500万ドル、2)バス購入代金10万トグルグ、3)
社会保険控除費2億トグルグなどを免除する措置を講じたとした。
だが、バス会社側は次のように応酬した。1)政府は会社側の申し入れに対しこれまで無策にすぎた。2)社会保険控除費免除は国営バスのみ(注:現在4社ある)に対する措置である。3)現在までの負債に対する補償がない。
また、「バス2」会社(注:民営化された私営バス会社で、シティ・タクシー社が落札していた[ウヌードゥル新聞2003年10月27日付参照]。ちなみに、このシティー・タクシー社は、黄色い車体のタクシーをウランバートル市で走らせていて、市民にとっておなじみのものとなっている。社長А.スフバータル。営業車2000台所有。従業員1300人[ウヌードゥル新聞2003年12月15日付参照]。)社長は、次のように述べた。
1)(バス料金値上げは)市場原理である。2)もし値上げが認められない場合は、バス会社の負債問題を解決し、バス料金免除者(注:バス利用者の半数といわれる)の料金問題を解決すべきである(注:これらの人々の料金を通常料金で徴収する、ということ)。3)交渉が妥結しない場合は、バス運行を止める。
こうして、バス会社側は、値上げを撤回しない、として、両者の交渉は決裂した(ウヌードゥル新聞2006年01月04日付)。
この間、ミクロバス会社は、バス路線を旧料金で運行する用意がある、と発表した。
さらに、中型および小型バス会社は(注:中型バス200台、小型バス2000台がウランバートル市内で運行している。そして未認可の同型バスがこれと同数ほど運行している)、バス路線乗り入れを市交通局に申し込んだ。
市交通局は、これらの申し入れに対し、安全問題の見地から拒否した(ウヌードゥル新聞2006年01月05日付)。
結局、運輸観光相Г.バトフー(注:民主党議員。APU社長)は、2006年1月4日、政府を代表してバス会社代表と会談し、バス料金値上げはやむを得ない措置であることを認めた。
この結果、バス料金値上げは正式に決定された(ウヌードゥル新聞2006年01月06日付)。
このバス運賃値上げの問題点は、第一に、バス料金値上げが貧困層に深刻な影響を及ぼすことであることは言うまでもない。ただでさえ低賃金で生活せざるを得ない人々にとって(注:例えば若年公務員の初任給は6万トグルグぐらい)、200トグルグから300トグルグへのバス運賃値上げは生活に直撃する。そこで、バス料金値上げ当日の1月2日、値上げ分の100トグルグ支払を拒否する人もあったという(モンゴリン・メデー新聞、ウランバータル・ポスト新聞2006年1月5日付による)。
第二に、政府がバス会社に対し優遇措置を講じたにもかかわらず、バス運賃値上げは強行された。バス会社側の主張は、その優遇措置は国営バスだけに適用され、私営バスには適用されない、というものであった。さらに、この運賃値上げは、市場原理によるものである、という。すなわち、公営バス会社のバス民営化の結果、運賃値上げが政府の規制外におかれることになってしまったのである。
1990年代には、バス運賃は50トグルグ、100トグルグ、200トグルグへと値上げされていった。ところが100トグルから200トグルグへの値上げは短期間に行われた。それは、2003年のバス会社民営化の結果でもあった。そして今回の2006年初頭における300トグルグへの値上げについても、私営バス会社への政府の規制(あるは調整)は功を奏さず、強行されたのである。
以前に、「バス3」会社が民営化された直後、新経営陣と従業員が対立し、ストライキになった。このため、バス運行がストップした。そこで、代行バスが投入されたが、学生割引がないため、学生は通学できなくなってたことがある(モンツァメ通信2003.10.23)。こうした事態はすべて、民営化の否定的側面である。可能な限り、民営化は回避すべきであった。
第三に、市場原理によるバス民営化によって、サービスが向上したかというと、決してそうではない(その具体例は、ウランバータル・ポスト新聞2006年1月5日付参照)。バスも老朽化し、そして汚れている。バス会社がバス料金値上げの必要性を強調するために、意図的にそうしていると勘ぐられても仕方がないほどに。(2006.01.09)
(追補)このバス運賃値上げに怒った、「急進的改革」(代表С.ガンバータル)、「健全な社会のための市民運動」(代表Ж.バトザンダン、О.マグナイら)、「協和」(代表С.エルデネ)などの運動は、2006年1月12日、バス運賃値上げに反対して、市庁に面するスフバートル広場で抗議集会を開いた。そして、その代表たちが市庁でЦ.バトバヤル市長に面会を求め、バス運賃を旧料金に戻すよう要求した(ウヌードゥル新聞2006年01月13日付)。
これを受け、ウランバートル市長Ц.バトバヤルは、1月13日、バス運賃を元に戻す決定を出した。この結果、国営バス会社(4社)および私営バス会社の運賃が旧料金(200トグルグ)で運行することになった。一方、半数以上を占める私営バス会社のバス運行は止まっている(ウヌードゥル新聞2006年01月18日付)。
これらの私営バス会社(14社)は、燃料がなくなったことを理由に運行を停止していたのだが、1月19日16時から正常運転が再開された。市交通局が1月末までの燃料を補助金として供与した、として再開したものである(ウヌードゥル新聞2006年01月20日付)。
だが、私営バス会社は、2月からの値上げの方針を崩しておらず、今後は予断を許さない。(2006.01.23)
(追々補)2006年2月1日から、大型小型バスの一部が運行を停止している。市交通局によると、運行停止の理由は石油不足ではなく、週末に襲った寒波のためであるという(ウヌードゥル新聞2006年02月04日付)。もちろん、バス会社は運賃値上げを意図している。(2006.02.06)
(追々々補)ところが、ここにきて外的要因が影響を与え始めた。それは、ロシア政府が2006年2月1日以降、輸出関税引き下げ措置を講じたことである(ウヌードゥル新聞2006年02月13日付)。その結果、モンゴルの石油製品価格が引き下げられる公算が大きくなった(2〜3ヶ月後に)。ロシアの今回の措置は、世界貿易機関加盟のためであるといわれるが、このために私営バス会社の値上げ根拠が崩れた。現在、すべてのバス会社は(タクシーを含めて)元の料金で運行している。(2006.02.19)
(追々々々補)さらに、一方、個人営業交通業者と中小型バス運転手たちは、2006年4月4日、記者会見した。その中で、中小型バス140企業のうち、40企業近くがミクロバス業者である。彼らは、社会保険がないこと、老人と身体障害者無料パスに対する補助金が市交通局から交付されていないこと、種々の税金を徴収されていること、などに抗議し、組合を結成し闘うことを表明した(ウヌードゥル新聞2006年04月05日付)。(2006.04.06)
