「教育の危機」(2005年09月07日)

モンゴルでは、この9月1日から新学期が始まった。今年から7歳児からの11年制教育制度が導入された(注:従来は8歳児からの10年制及び8年制教育だった)。

この間のモンゴルの教育について、В.はアルザフグイ博士は「教育の危機」という興味深い論文をウヌードゥル新聞(2005年09月07日付)に掲載している。筆者はこの9月からモンゴル国立大学に移ったが、この論文に首肯するところが多い。紹介してみよう。

モンゴルは、1990年代以降、教育法(1991年)および教育基本法(1995年)によって世界標準の教育を行う基礎を作った。

教育の「民営化」によって、幼稚園から大学まで私人・私企業が参入した。

それと同時に、高等専門学校、医科大学、高等師範学校、農牧業大学など(いずれもдээд сургууль[単科大学])が大学(их сургууль[総合大学])に再編された。

国立大学の「経営の民営化」は、大学卒業生の米、日、英、独、加、スウェーデン、オーストラリアへの留学を増加させた。

国内外で修士、博士課程単位取得者が増加した。

1990年以降、学生数が7〜10倍に増えた。

だが、現在の大学数が約200校ある中での否定的現象も現れ始めている。すなわち、

私大の多くは、教育の水準が低い。

政府が国立大学への財政補助をカットしたため、各大学は定員以上の学生を入学させ、その結果、教育の質の低下を招いた。

国立大学の教員たちが私立大学の教員を兼任するようになって、責任の所在が不明確になっている。

建築・食品軽工業・観光業分野を専攻とする学生(のみ)が増加している。

国内教育の質が低いため、外国人・企業による学校設立が増加している。

これらの学校の質が必ずしも良いとはいえない。

また、大学経営の名目でビジネスを行う傾向が増えている。

今後の課題は、高等教育を恒常的に制度化できるか、世界水準の大学になるのにどれだけの年数が必要であるか、低額授業料・低水準教育をなくせるか、「教育の輸出」が可能となるか、である。

これと同時に、同じくウヌードゥル新聞は、<学生生活の現況>と題する特集を組んで、アルバイトを必要とする学生生活について書いている(ウヌードゥル新聞2005年09月08日付)。

これによれば、学生のアルバイトは、ウェーター・ウェートレス、バー従業員、皿洗い、接待係。労働時間は夕方5時から深夜2時まで。給料は6〜8万トグルグという。

科学技術大学学生(名称省略)は、インタビューに答え、親からの仕送りは、3万トグルグ、生活困難なためアルバイト希望(1日4〜5時間)。

モンゴル国立大学学生(同上)は、親から4〜5万仕送り。寮生活。1日の食費1000トグルグ。

科学技術大学学生(同上)は、親から2万トグルグ仕送り。その金はバス代に消えてしまう。1日の食費は500トグルグ、と言っている。

そして、記者は模範的学生生活のアドバイスを行っている。それは、仕送り3万トグルグとして、バス代4600トグルグ、食費1万トグルグ、残りを本代とインターネット・カフェ代に使う、というものである。

筆者のよく知るサインシャンド出身の学生も大体そんな生活を送っているようだ。

だが、満足できる生活とは決していえない。

現在、国家大ホラル(国会)議員うちの資産公開した議員の一般的給与は、40万〜50万トグルグ、モンゴルの大学教員の給与は10万トグルグから27万トグルグ、年金生活者の最低年金額が5万トグルグ、若手公務員の給与が6〜7万トグルグといったところである。

モンゴル人は、こうした中で、仕事を兼任せざるを得ない。一つの仕事で生活できる環境が整ってはじめて、彼らは生活の質を向上させることができるだろう。その日がいつくるかは未だわからない。(2005.09.14)

トップへ
トップへ
戻る
戻る
次へ
次へ