
2004年度経済成長率10.6%の虚実(2005年02月11日)
モンゴル国家統計局は、2004年の経済成長率が10.6%であった、と発表していた(ウヌードゥル新聞2005年01月24日付)。この予想を(当初は約6%と設定していた)大幅に上回る、10.6%であったのは、1)地下経済の成長、2)天候の好転による農牧業の好調、3)金・銅、畜産品などの世界市場価格の高騰、によるものだという(ウヌードゥル新聞2005年01月27日付)。
この10.6%という経済成長率について、エルベグドルジ首相は、2005年02月03日、主要国内産業表彰式の席上で、誇らしげに語ったというが(ウランバータル・ポスト紙2005年02月11日付電子版)、この数字をどのようにみるか。
まず、これについて、「ウランバータル・ポスト紙」は興味深い記事を掲載している。それを紹介しよう。
経済学者アビルメド博士の説明するところによると、モンゴル経済は国内総生産額が10億ドルという、小規模なものであって(この数値は世界の億万長者のポケット・マネー程度である)、1億ドルの生産及びサービスを行えば、10.6%にすぐ到達する、という。
金鉱業のボロー・ゴールド社は、7.5トンの金を採掘し、海外に搬出した。これは、現在の金世界価格が1グラム当たり13ドルに上昇しているから、総額9570万ドルになる。だから、この経済成長率10.6%に当該社が単独で貢献したことになる。だが、当該社は輸出関税と所得税を納入していない。従って、この10.6%という数値は国家経済に何の影響も与えていない。このようにアビルメドは指摘する。
一方で、経済学者オヨンの指摘するところによれば、モンゴル国民の給与所得、年金はそれほど増加せず、石油価格値上がりに伴って、電気、暖房、タクシー、石炭、日用品価格の値上がりが続いている。また、2002年の失業者数は3万900人だったが、2003年には3万3300人、2004年には10万6700人と増加している。
以上がその記事の内容である。
このことは、次のように要約できる。すなわち、経済成長率10.6%がもたらした富は、少数の富豪(企業法人)のポケットに入った。そして、モンゴルに貧富の差が拡大している、と。
筆者のみるところ、いわゆる社会主義時代と比較して、確かに相対的貧困状態が進行している。
国内主要生産は金・銅、モリブデンなどである(エルデネト社だけで国家予算歳入の約10%を占める)。このことは、原料輸出のみの、二次製品加工に回らない、植民地型経済であることを意味する。また、これらはいずれ枯渇してしまう資源である。一般モンゴル人の所得増大には貢献しない。失業率低減にも役立たない。
モンゴルではモノが市場にあふれている。だが、国内品は一部の食品を除けば、すべて中国、ロシア、韓国などからの輸入品である。国内で生産することがない。これも失業率軽減にも貢献していない。
小規模商人が生まれつつある。彼らがモンゴルの自生的発展をになうことは明らかである。だが、今のところ、彼らは自給自足状態であって、拡大生産には向かわない。
その一方で、中規模商社が外資と提携(=結託)して、小規模商人を閉め出そうとしている。
市場にあふれるモノの購買層は、少数の富豪層であることは明らかだ。だが、彼らだけによってモノが吸収されているわけではなかろう。モンゴル人は、国内に就業機会がないので、海外に出稼ぎに行く。正規の査証を持つものは限られているから、大多数は不法就労という形態をとらざるを得ない。
彼らの稼いだお金は、国家が捕捉しないまま、国内に流入して、地下経済の一部を形成する。この地下経済がモンゴル経済の30%以上を占めていると言われる。この数値が、失業率を相殺している。
この地下経済は、あだ花であって、モンゴルの自生的発展にそれほど貢献しないことも自明であろう。
すなわち、少数の富裕者層によって作り出された、10.6%の経済成長率に、地下経済の「成長率」を加えると、経済成長率はそれ以上の数値になるだろう。だが、両者とも、モンゴルの自生的発展には貢献しない。
要約すれば、モンゴル人がIMFなどからの経済的独立を果たし、中小企業者による自家生産が拡大していかない限り、実体の伴った経済成長率は算出できない。(2005.02.22)
