バガバンディ大統領は酒類売上税改正第三条に対し拒否権を行使した(2004年12月14日)

現代モンゴルでは、12月に主要な出来事が起こる場合が多い。1989年12月9日未明から10日にかけての「モンゴル民主化運動」、国家大ホラル(国会)による憲法修正(1999年12月23日)に対するバガバンディ大統領の拒否権行使(同年12月30日)など、厳寒のモンゴルが「熱くなる」。

この度は、酒類売上税引き上げをめぐっての出来事である。上記の出来事に比して次元が少し低いが、政府予算に係わるものであるし、モンゴル産ビールを愛飲する筆者にとっては、看過できないものである。

バガバンディ大統領は、12月14日、特別税法改正第3条(「国内酒類醸造業者の生産する酒[40度以下の酒に4ドル、40度以上の酒に6ドル、ワインに1ドル]に特別税を課す」)に対し、拒否権を行使した(ウヌードゥル新聞2004年12月15日付)。

その理由として、1)高度技術を導入し、競争力向上を示している国内醸造業者の成長に否定的影響を及ぼす。2)不法で低品質な酒の醸造、取引が増え、国民(特に地方民)の健康に悪影響を及ぼす。3)2005年度政府予算は確実な数値に基づかずに算定されたものである。4)対飲酒政策はアルコールにではなく、アルコーリズムに向けられるべきである。5)売上税引き上げは、国内産業を育成する観点から実施されるべきである(ウラーンバートル・ポスト紙電子版2004年12月16日付)。

(注:これに対する、このWEBページへのメール2通は、大統領の拒否権行使に反対している。その論拠は「酒=悪徳論」に基づいているようである。ちなみに、輸入ビールの税率は引き上げられることになる。国内産業にとっては、競争力を強化する機会である。)

これに対し、政府側のアルタンホヤグ財務相は、12月16日、記者会見を行い、それに対して不満を表明した。彼は、国内産業に打撃になる、という理由に対し、中小業者の税額が2、3倍に、主要数社の税額が少々高くなるのみであって(打撃はそれほど深刻なものではない)、「不法」業者には打撃になるだろう、と反論した。また、2005年7月1日からの年金、給料の2〜3000トグルグ増額のための原資が不足する、とも述べた。そのため、アルタンホヤクは、大統領に面会し、拒否権を撤回するように求めるという(ウヌードゥル新聞2004年12月17日付)。

さて、大統領による、この度の拒否権行使は、国家予算歳入に係わるものである。これは、「子供に3000トグルグ支給」実施、年金・公務員給与7.5%引き上げの原資となるものである。IMF路線(注:正確にはIMFへの従属)をとる現政権としては、財政赤字額のデッドラインを守りたい(注:これも正確にはIMFの指示を遵守しなければならない)。

財政運営担当者であるアルタンホヤグ財務相としては、「狼狽」の種であろう。だが、大統領に面会しても、事態の好転は期待できない。バガバンディの列挙する理由は、モンゴル経済の現状を十分に把握している、説得力のあるものである。

憲法遵守を基本原則とする(注:当然のことであるが)、「ハード・ライナー」であるバガバンディ大統領は、時の政局で正論を吐く場合がこれまでもしばしばあった。従って、「撤回」するということは考えられない。

となれば、立法府である、国家大ホラル(国会)による、「政治判断」にかかってくる。これまでも、大統領の拒否権行使に対し、非承認採択を行って(議員の4分の3の賛成で可決する)、くつがえしたことがあった。例えば、先の1999年の憲法修正問題(注:一言で言えば、憲法条項を国民の意見を聴取せず、議員のみで可決したことに対する、憲法上の疑義)など。これは、与野党議員の一致によって、拒否権の非承認となった。

今回はどうか。国家大ホラル(国会)諸党・同盟議員による、「究極のバランス」状態の下での、「大同盟」政府が作成した予算に対し、国家大ホラル(国会)は、満場一致でこれを可決した。

その予算の一部が拒否されたわけであるから、論理的には、議会による「非承認」採択に至る、ということになるが、人民革命党はともかくとして(この酒類税法改正の発議者であるジャルガルサイハン共和党議員は別にして)、「祖国・民主」同盟側は、内部がバラバラで、一致して行動できない、という実情があって、採択は難しい。

特に、来年度実施の大統領選挙を見越して、大同盟「協議」グループの構成を替え、代表と副代表に就任した、エンフサイハンとグンダライは(ウヌードゥル新聞2004年12月14日付)、この問題に沈黙している。エルベグドルジ政権崩壊を望む彼らとしては、格好の政治問題となってきた。

今後の事態の推移を見守らなければならないが、エルベクドルジ政権にとっての難題がまた一つ増えたことは確かである。

ただ、年明けに酒・タバコの価格が2倍になるため、ツァガーン・サル(旧正月)を迎える準備として、酒を買いだめする人々が増えているようだが(ウヌードゥル新聞2004年12月16日付)、この事態は沈静しそうではある。(2004.12.21)

(追補)12月24日、国家大ホラル(国会)総会において、酒類税法一部改正に関する大統領の拒否権行使について、審議が行われ、これを承認した。この結果、国家予算歳入に80億トグルグの欠損が出るが、政府側アルタンホヤグ財務相は、脱税額を少なくする方向で、それを補填する、と語った(ウヌードゥル新聞2004年12月25日付)。

(追々補)この酒類税法改正は、2005年1月1日から実施された。その結果、外国産ビールに1リットル0.50ドル、モンゴル国産ビールに0.20ドルが課税されることになった。だが、これは、憲法違反であるとして、М.トゥメンウルジーという人物が憲法裁判所に提訴していたが、憲法裁判所はその主張を認める判断を出した(ウヌードゥル新聞2005年04月20日付)。これを国家大ホラル(国会)が認めると、国内産ビール業界にとって痛手となるだろう。いずれにしろ事態が二転三転している。

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