
社会状況の悪化と自殺(2004年11月09日)
11月8日朝、一青年(19歳)がバヤンゴル区第3街区33号棟12階から投身自殺を図った。兄弟げんかが原因であった(ウヌードゥル新聞2004年11月09日付)。
ウヌードゥル新聞は、その事件に関連し、<社会状況の悪化と自殺>という特集記事を同日の紙面で組んでいる。それについて紹介しよう。
今年九月、「私は天国に行きます。さようなら。お父さん、お母さんが好きでしたとお伝えください」という遺書を残し、スフバータル区第11街区3号棟の少女(16歳)が、投身自殺をした。継父の暴力が原因であった。
モンゴルでは毎年1000人以上が自殺している。人口200万余のモンゴルからみればこの数字は大きい。
モンゴル人の自殺の原因は、家庭内暴力、飲酒、社会状況のためである。
自殺の手段は、血管を切る、化学物質(毒物)を飲む、首をつる、身投げをする、といったものが多い。
自殺の最も多いのは日本で、毎年3000人の青年が自殺している。
モンゴル成人による自殺者数は、世界100ヵ国のうちの20番目に位置していて、その原因は社会生活(失業、貧困)にある。
例えば、数年前、ドルノド・アイマグで一母親は、自分の死後、二人の子供の将来が苦しくなる、として、無理心中を図った。また、2004年10月、フブスグル・アイマグで一母子が喧嘩の末、自殺した。
古来、モンゴル人は自殺を禁じていた。
だが、ここ10年間で、外来の宗教がモンゴルに流入し、天国があることを教えた。そのため、自殺を望むものが増加した。
人口希薄なモンゴルで自殺者が増えれば、民族存亡の危機となるだろう。
だから、中学校で命の尊さを教えるべきである(ウヌードゥル新聞2004年11月09日付)。
モンゴルで自殺者が増加している背景には何があるのか。外来宗教だけがその原因であろうか。
1990年から始まった経済混乱は、紆余曲折はあるものの、収束した。これは、モンゴル国民の自立的な経済活動が基になっていることは言うまでもない。
現在のモンゴルでは、百貨店、店頭、街頭に物が豊富に並べられ、売られている。だが、国民の購買力はそれほど高くはない。就業場所が少なく、たとえあっても、低賃金(注:最低賃金が2万トグルグ余)で、しかも長時間労働である。失業者も多い(注:23万3000人といわれる。10人に1人が失業していることになる。筆者の大学の卒業生が訪ねて来て言うには、学科の卒業生25人のうち、2人だけが就職したという。この数値はほぼそれに対応する)。
小経営に従事するには、各種の認可が必要で、しかもそれを得るには時間がかかる。そこで賄賂も必要となる。
モンゴル国民の生活を支えているのは、海外からの送金と各種融資である。だから、地下経済と、銀行および非銀行融資機関とが栄える。
国家予算財政赤字も外国からの援助と融資によって補填されている。
IMFを先頭とする国際援助機関は、資源豊富なモンゴルの将来を見越し、援助プランを実施しようと躍起になっている。
この援助プラン(ESAFおよびPRGF)は、モンゴルの自立的発展と独立性を侵害している。
こうしたことが背景にあって、モンゴル人の自殺者が増える。
この道は、一見繁栄しているかに見える資本主義諸国がたどってきた道である。一部のモンゴル人政治家たちは、この資本主義に幻想を抱き、現代モンゴルを人道的民主主義国と規定した上で(注:奇妙にも彼らは資本主義とは言わない。実際は資本主義のことである)、国際援助機関や支援国と積極的に連携しようとしている。これは、危険極まりない行動である。(2004.11.15)
