エルベグドルジ大同盟政権は何をめざすか(2004年09月17日)

国家大ホラル(国会)が2004年08月20日にエルベグドルジを首相に選出してから1ヶ月近く経過した。だが、内閣は元のままで、新しい内閣はまだ作られていない。人民革命党と「祖国・民主」同盟の「協議」が継続中だからである。

であるから、エルベグドルジ政権(第2次)がどのような構成になり、どのような政策を実施するのかを論評するのはまた時期尚早である。

だが、エルベグドルジがどのような政権構想を持っているかを知っておくのは重要なことであろう。

彼は、米国ハーバード大学大学院を修了し、モンゴルに帰国してまもなくの2003年末(2003年11月10日から11月27日まで)、「移住すべきか残るべきか」と題する公開講演を地方で行ってきた。

このハムレットばりの、意味深長なタイトルの講演は、かなりモンゴル人に話題を提供して、冊子の形で公刊された(Ц.Елбэгдорж, Нvvх vv? Vлдэх vv? Цуврал лекцvvд, Улаанбаатар, 2004)。

このタイトルの意味合いは、将来、日本が月に、米国が金星に行くという、300−1000年後の世界において、我々は残るべきなのか移住すべきなのか、ということのようだ。

この講演録を読むと、エルベグドルジが何を目指しているかよくわかる。その発言をかいつまんで紹介してみよう。

「行政の改善」という、2003年11月14日の講演において、

・政治代議制度から直接民主制度へ移行する必要がある。

・最近3年間に政府関係費用が2倍になった。

・政治が国民の行動に関与するのは誤りである。

・ブッシュ政権のとる政治(米国の政治制度)が正しく、米国に学ぶ必要がある。同時に、サッチャー(主義)の経験にも学ぶ必要もある。つまり、小さな政府を作り、官僚主義、汚職をなくすことが必要である。

・技術教育が必要であり、小さな資本で大きな効果を生み出すことが大切である。

・「行政を改善するための諸方策」としては、行政への直接参加、国民の意見を採用し問題を解決する、公務員の任免を住民にゆだねる、国民の知る権利を法制化する、行政の標準化、行政機構の改善、安全保障の強化、政府の経済政策を制限する、GDPに占める行政費用を10%削減してその上限をGDPの20%を超えないようにする、行政能力の向上など。

「成長なき発展」という、2003年11月24日の講演においては、

・シンガポールの例に倣って関税自由化政策を進める。

・200年前の米国は現在のモンゴルと同じだった。

・現在、米国は4歳からコンピュータ教育をしている。

・米国に知的所有権がある。

・ハルホリンをエコ観光、高度先端技術都市にする。観光客一人当たりから500〜1000ドルの収入を得る。

大要は以上であるが、一方、筆者は友人たちとともに、9月04日、ウランバートルから50キロ弱離れたところにある、ウンドゥル・ドブという観光キャンプに出かけたのだが、そこに偶然、セキュリティ・サービスを従えた、エルベクドルジの一団がやってきた。当地は、携帯電話の電波が届かないので、密談にはもってこいの場所だ。この場所で、彼らは今後の政局に対して話し合ったらしい。

この一団は、今回の選挙で「祖国・民主」同盟から立候補し落選した人々(バーバル、ドルリグジャブなど)からなっており、エルベグドルジは彼らを首相顧問として、政府の費用で雇い入れた。これこそ、政府費用の無駄遣い以外のなにものでもない(彼らの失業対策にはなっても)。

それはさておき、エルベグドルジの目指すものは、米国、特に、共和党レーガン(そして英国サッチャー)の採用した「小さな政府」である。

とにかく、エルベグドルジによってモンゴルの米国志向が強まることだけは確かなようだ。期せずして最近、「北米・モンゴル・ビジネス会議」が開かれ、これにエルベグドルジ首相も参加して、米社によるモンゴルへの積極的な投資を呼びかけた。この行事は内閣行動日程にあらかじめ組まれていたのであろうが、なにやら象徴的な出来事ではある(ウヌードゥル新聞2004年09月16日付)。

モンゴルは、社会保障、教育、人間の平等・男女平等(表面的ではあったにせよ)など実現してきた。「小さな政府」はその針を180度逆にしようとする。これは、モンゴルの歴史に合致しない。(2004.09.17)

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