アジア開銀によるモンゴルの経済動向分析および経済見通しをどうみるか(2004年05月18日)

アジア開発銀行は、2004年05月18日、2003年のモンゴル経済動向分析と2004−05年のモンゴル経済見通しを発表した(正確には、モンツァメ通信2004.05.18が配信した)。

その概要を紹介する。まず、「2003年のモンゴル経済動向分析」では、

農牧業が回復しサービス部門が成長した。それは、主要輸出産品価格の上昇によるものである。特に、ウランバートル市では、建設部門(8.0%)、サービス部門(8.6%)が急速な成長を記録した(それは、輸送、通信、卸売・小売の成長・拡大による)。

都市民の平均賃金が8万3100トグルグ(月収)に達したが、賃金格差は拡大した。

貧困問題は依然として存在し、それは不十分な経済成長、失業、低開発に起因する。

国家歳入増により財政赤字はGDPの3.6%に縮小した(IMFガイドラインをクリアした)。また、外国資金が財政赤字の70%を補填した。

トグルグ減価は輸出拡大に寄与した。国際貿易は14.5%増加したが、それは金・銅・カシミア世界価格の上昇によるものである。貿易赤字はGDPの12.8%から15.7%に増加した。

海外送金の増加、金価格の上昇、外国援助の増加、外国資本流入の拡大が対外負債返済を支える。対外負債はGDPの91%であるが、デット・サービス・レイティオは輸出の9.4%であり充分返済可能である。

IMFガイドライン(GDP6.0%、インフレ率5.0%、財政赤字6.0%、対外為替準備高輸入の4ヶ月)がクリアされた。また、PRGFを達成した。これは今年から開始される「千年開発目標」に反映されるだろう。

一方、対ロシア負債の解決、緊縮財政の緩和、国政選挙のための歳出増、法人・個人所得税の減額、公務員給与・年金の25%増が来年度予算に圧迫を加えるだろう。

次に、「2004−05年のモンゴル経済見通し」では、

経済見通しは次の6点を基礎条件とする。すなわち、1)経済のグローバル化の進展と対外需要増加、2)金・銅・カシミア世界市場価格上昇、3)良好な天候条件、4)主要貿易相手国(中国およびロシア)との関係の緊密化、5)国政選挙後の政治的安定、である。

特に、製造業、鉱山業の成長。食肉、カシミア生産の質的向上。新しい金鉱の開発。建築、サービス部門(特に首都における)の質的向上。観光部門の回復。こうした事態が見込まれる。

対外負債問題の解決はロシアからの独立の象徴であり、貿易および投資の拡大を導くだろう。だが、その返済が国家予算への圧迫となり、IMFガイドライン達成にとってのマイナス要因となるだろう。

また、対外負債解決はモンゴル支援国に好印象を与え、さらに成長を促すだろう。貿易赤字は海外送金増加、援助、鉱山への外国資本投下によりカバーされうる。

金・銅世界市場価格上昇が対外負債返済のための外貨準備高減額をカバーするだろう。

さて、このアジア開発銀行の「経済動向分析」と「経済見通し」をどうみるか。

この「経済動向」の内容は、四分の一半期毎に発表される、国家統計局やモンゴル銀行(中央銀行)のそれとほぼ同じ傾向を示している。さらには、世界銀行、IMF、各支援国国別動向なども同様である。それなりに概要を知るには便利であろう。

だが、これは、モンゴルの国立機関にいればすぐわかることなのだが、この数値は、各基礎組織の責任者(「エルフレグチ」)によって書き込まれる。その人物が「こうである」、と思案する数値が白紙の用紙に記入されていく。この資料が各基礎単位から統計機関に集積されていく。この基礎組織は、政権党のイデオロギーに影響されることが多いから、集積されたものもまた、そのイデオロギーの影響を強く受ける。そして、それなりの経験と技術に富んだ「専門家」(そうでない場合も多いが)が分析し、報告書が作成される。モンゴルでは、数学が大変重視されるから、一見整合性のある分析結果に見える。

国際機関の分析する数値は、自分の足で調査したものではなく、長くて1週間の滞在期間のうちで、こうした機関から得られた資料を用いて、これまた「経験」と「訓練」を積んだ(と見なされる)「専門家」によって分析され、報告書が作成される。

であるから、モンゴル国民の実態とかかなりかけ離れたものになる場合が多くなる。特に、こうした機関も指摘し始めているように、地下経済(あるいは「海外送金」)のモンゴル経済に与える影響は、数値以上のものがある。例えば、韓国への正規の派遣労働者は1000人であるが、実態はその10倍以上の1万5千人以上であるといわれている。こうした人々の「送金」額は、統計には反映されない。

この経済動向でも指摘しているとおり、首都での「建築」ラッシュは、想像以上のものがある。そのほとんどは、住宅用である。人々はその資金の調達に、まさに「アジア開銀」融資を利用するが、それは氷山の一角である。この資金の大半は「海外送金」によって調達される。国家予算に反映されない。町中にあふれる車両、商品も同様である。

すなわち、この「経済分析」はモンゴルの実態を反映していない。

次に、「経済見通し」はどうか。モンゴル経済は、海外送金、外国援助、鉱山部門、主要輸出品世界市場価格上昇などによって、有望である、という。

モンゴル経済がこうした指標に支えられていることは、無論、否定しようがない。実はそれこそが問題なのである。

モンゴル経済が(モンゴル国民生活が)、個々のモンゴル国民の独立した経済活動(国民生活)によって支えられておれば、当該国の「成長」は確固たるものになる。ところが、国内産業の成長が阻害され、失業が広がり、海外に仕事を見つけようとする。簡単にはビザが出ないだろうから、その獲得のための汚職、詐欺が蔓延ずる。

モンゴルの主要産業は、原料供給に偏った、いわゆる「植民地型」であるから、「先進国」経済の影響を直接的に受ける。鉱山は、自ら加工し、利用し、製品化することがない、一回きりの「生産品」であるから、これまた、拡大生産には不向きな「生産品」である。さらに、その欠損は、外国「援助に」よって補填される。

こうした歴史状況は、かつての「清朝植民地支配期(17〜20世紀初頭)」のそれと近似のものがある。

つまり、モンゴル経済は決して「有望」なのではない。「有望」なのは、当のアジア開銀を初めとする、世銀、IMF、各「支援国」がモンゴルの資源を簒奪することが「有望」なのに過ぎない。この「報告書」は、「資本主義」イデオロギーに基づいたものである。(2004.05.25)

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