対丸紅負債裁判でモンゴル政府勝訴と発表(2004年03月11日)

モンゴル政府は、2004年03月11日、丸紅香港支店が提訴していた裁判に勝訴の見込みである、と公式に発表した。これは、丸紅香港支店が、1880万ドルの負債未返済でボヤン社(ジャルガルサイハン社長)、およびその債務保証をしたモンゴル政府に対し、債務返済を求めて、2001年8月17日、英国最高裁に提訴していた事件である。

この裁判が、2004年2月2ー17日、ロンドンで争われた。モンゴル政府は、法務内務副大臣ムンフオルギルを責任者とし、ジャスライ元首相や、当事者であるボヤン社社長ジャルガルサイハンたちを主要なメンバーとする弁護団を派遣していた。

この裁判で、モンゴル政府に支払い義務はなく、支払いは「当事者」が行うものとすべき、という判決が出る見込みである。そして、ボヤン社と丸紅が、負債支払いの調停を、これまでモンゴル政府に求めていた関係上、引き続き日本政府と丸紅はモンゴル政府と話し合うことになる模様である、というものであった(モンツァメ通信2004.03.15、なおゾーニー・メデー新聞[2004年03月16日付]、およびウヌードゥル新聞[2004年03月16日付]は、この政府発表をそのまま全文掲載している)。

この裁判の判決は、実は、2004年4月17日に出る予定であった(ウヌードゥル新聞2004年02月19日付)。それに先だって政府が公式発表を行ったということで、様々な憶測を呼んでいる。

まず、民主党系のウドゥリーン新聞(2004年03月16日付)は、政府見解である、とわざわざ断って掲載している。

次に、民主新社会党のモンゴリン・メデー新聞(2004年03月17日付)は、<丸紅の負債からモンゴル政府は解放されたのか>、というヘッドラインで、この問題を分析している。

それによると、消息筋の語るところによればとして、この負債返済は、ボヤン社の名前でモンゴル政府が支払うことになるという。弁護団側弁護士ナランゲレルによると、まだ最終判決は出ていない、ただモンゴル政府が支払いの責任を解除されただけだ、という。これは、モンゴル政府の債務保証の後、ボヤン社が融資額を増額させた(注:1880万ドルから3000万ドルに)ので、その額(注:1220万ドル)はモンゴル政府に返済責任はない、ということなのだという。また、この裁判の訴訟費用(1億トグルグ)はジャルガルサイハンが払うことになる。

すなわち、このモンゴリン・メデー新聞は、モンゴル政府の1220万ドル返済責任解除はさておき、債務保証した1880万ドルの返済は、「当事者」であるボヤン社ではなく、モンゴル政府が密かに返済するのだ、と主張しているのである。

このところ、とみに反政府姿勢を強めている、民主新社会党のモンゴリン・メデー新聞の主張は、しかしながら、少し強引のようだ。

実は、この「当事者」である、ジャルガルサイハンは、「対丸紅債務3000万ドルは、1800万ドルが免除、残りの1200万ドルを5ー8年で返済することで合意している」、とかつて述べていた(ゾーニー・メデー新聞2003年06月10日付)。つまり、ボヤン社社長ジャルガルサイハンとしては、「債務保証後」の1220万ドルは自分が支払う、という認識があったわけである。

すると、「債務保証時」の1880万ドルをどう扱うか、ということになる。モンゴル政府は、この額は支払う責任がない、と公式発表をした。

当該政府の威信をかけての公式発表であるから、その内容には相当の根拠がなければならない。

しかし、丸紅はこれをそのまま認めないであろう。政府発表に、「丸紅はモンゴル政府と話し合う」、とあるとおり、秘密裏に、丸紅は自社の当初の目的を遂行しようとするであろう。それは、モンゴルでの投資先への優先的措置である。元来、どん欲なこの資本主義企業は、慈善事業としてボヤン社に3000万ドルを融資したわけではなかろう。ちなみに、「返済免除ないし軽減」措置であれば、「フランス原則」の70%免除か、ロシア方式の98%免除、となろうが、丸紅は、当然、前者を主張するだろう。

一方、ボヤン社のジャルガルサイハンは、モンゴル政府(人民革命党)にずいぶん借りを作ってしまった。

その代償を象徴するかのように、この政府発表が掲載された日(2004年03月16日)に、市民の意志・共和党ジャルガルサイハン、経済顧問Н.ダシゼベグ、ザナシル、ニンジ、トゥメンツォグトらは、3月15日、同党からの分離(=共和党結成)を宣言する集会を開催した、という記事が掲載されている(ゾーニー・メデー新聞、ウヌードゥル新聞)。

ジャルガルサイハンによれば、民主党は市民の意志・共和党を扇動して「祖国・民主」同盟に引きずり込んだ、自分はこの同盟には反対である、(だから)第三勢力を形成する、という。その主張の是非はともかく(筆者は肯定的であるが)、この動きが人民革命党を利するものであることはいうまでもない。(2004.03.20)

(追補)なお、ボヤン社の対丸紅負債は、カシミア加工機械および設備購入契約に係る代金である(ゾーニー・メデー新聞2004年03月22日付)。(2004.03.27)

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