
エルデネバトがシャラブドルジを名誉毀損で告訴(2004年01月08日)
エレル社前社長(実質的な経営者、現在は彼の妻が社長)で民主新社会党党首エルデネバトは、国家大ホラル(国会)議員で法務委員会委員長シャラブドルジを、名誉毀損でバヤンズルフ地裁に告訴していたが、その裁判が、2004年1月8日に行われた。
訴状は、被告シャラブドルジが、2003年11月19日23時に、国営放送(「モンゴル国民テレビ」)で放映された番組で、「エルデネバトは、280億トグルグの脱税の罪を犯した」と発言した。これは、被告は判決が出るまで無罪である、という憲法の規定に違反し、原告エルデネバトの名誉を毀損する、というものである。
それに対し、被告シャラブドルジは陳述書を提出した。それによると、エルデネバトは、経費の水増し、所得隠し、所得の過少申告によって、287億の脱税をした、という(政府系ゾーニー・メデー新聞[2004年01月10日付、および12日付]はその23の具体例を掲載している)。
訴状にあるとおり、判決が出るまで無罪、というのは確かにその通りであって、シャラブドルジの発言は名誉毀損に相当するであろう。
ただ、シャラブドルジというのは法律家でもあって、むやみと根拠なしには物を言わない人物である。この発言は具体的な事実に基づいてなされたと見ていい。
それはさておき、ここで問題にしたいのは、エレル社エルデネバトによる脱税問題である。
元来、エルデネバトは、憲法には金売却には課税されない、とあるからその所得税は納入不要である、と主張していたが(ウヌードゥル新聞2003年04月22日付)(注:憲法にはそういう規定はない)、国税庁はエレル社の所得税監査を行ったところ、400億トグルグの脱税が見つかった。
納税申告書によると、エレル社は、1998〜2001年までの所得の減少を主張し、1998年と1999年には、累進課税最高額の総所得の40%、2000年には15%、2001年には0%を納入していた。近年、金価格が安定しているにもかかわらず、所得の90%以上を金売却によっているエレル社が、所得額が減少するのはおかしなことである、とゾーニー・メデー新聞は述べている。2001年以降は、あれこれの理由を付けて税を払っていない。
この脱税行為は告発され、チンゲルタイ地裁で審議が行われた。ところが、この脱税額が否定され、その額が1億2450万トグルグと認定された。ウランバートル高裁でも同様の判決が出て、最高裁でも、2003年12月26日、それが支持された(以上、ゾーニー・メデー新聞2004年01月09日付)。
法人企業所得税納入額減額措置は、2003年度だけでも、民営化された商業発展銀行に対してなされており、その措置の線上に、エレル社脱税額減額措置があると見ていい。バガバンディ大統領の強い意向があったとも言われている。
だが、こうした大規模企業に対する所得税減額措置は、真面目に納税している中小企業および零細企業経営者、そして牧民に対する差別に他ならない。それは、税法(ひいては憲法にも)にも違反している。
このエレル社に対する所得税減額の経済的影響は、当然、エレル社の復活を促進するであろう。
モンゴルの企業経営者には2類型がある。1つは、1980年代までの国営企業を引き継ぎ、それを大企業にした経営者である。その典型例がエレル社のエルデネバト、ボヤン社のジャルガルサイハンたちである。彼らは、国有財産を民営化によって倒産させることなく、育成したという功績はあるものの、脱税行為、融資未返済行為で、青息吐息である。もう1つは、自分の身体一つでたたき上げ(担ぎ屋など)、会社を大きくした人々である。その典型例が、ジェンコ社のバトトルガ、ウグージ社の.トゥメンゲレルたちであり、また、ガン・ゾド被害の中からホルショー(協同組合)を組織した地方牧民たちである。ただ、バトトルガたちは、民営化に踊らされ、落札融資金の未返済でこれを青息吐息である。
現在、モンゴルでは、前者、および後者の一部は、没落しつつある。
エルデネバトは、かろうじて没落を免れた。
この政治的影響についていうと、エルデネバトはおそらくこの脱税額を民主新社会党設立のための資金にし、また、2000年国家大ホラル(国会)議員選挙で、選挙対策費に充当したのであろう。だが、上の脱税告発によって、資金に窮したエルデネバトは、民主党党首エンフサイハンに「釣り上げられ」、二人で、「祖国・民主」同盟を結成した(選挙に勝利すれば、議長エンフサイハン、首相エルデネバトという密約があるという。あくまで勝利すればの話だが)。
だが、元々政策が水と油の民主党と民主新社会党は、それぞれの党内(特に民主党)で、異論続出して、「祖国・民主」同盟も、先行きが不透明である。
そこで、危うく没落を免れたエルデネバトは、この同盟に嫌気がさし、その解消に向かう可能性も否定できない。(2004.01.19)
(追補)エルデネバトによるシャラブドルジ告訴は、2004年04月02日、バヤンズルフ地裁によって却下された(ウヌードゥル新聞2004年04月03日付)。(2004.04.05)
