国家大ホラル(国会)、政府に対し国債1000億トグルグの発行権を付与(2003年12月31日)

2003年度国家大ホラル(国会)秋期国会は、2004年1月9日に閉会したが、その間、2003年12月31日、政府に対して、1000億トグルグまでの国債の発行権を承認した。予算委員会委員長Н.バヤルトサイハンによると、その目的は、通貨供給量を増加させるため、予算の原資とするため、である(ウヌードゥル新聞2004年01月06日付)。

国債発行そのものは、政府の財政政策の一環として、賢明に運用すれば、国内経済の円滑化を図ることができる。ところが、政府は時には賢明ではない場合があるので、この国債発行が経済混乱を招くことがある。今回はどうか。

今回の国債発行額1000億トグルグは、そのうちの500億トグルグ(5000万ドル)がアイバンホー・マインズ社によって購入される(モンツァメ通信2004.01.05)。

アイバンホー・マインズ社は、石油、金などの地下資源採掘を専門とする、カナダの鉱山会社である。モンゴルにも進出していて、タバン・トルゴイ、オユ・トルゴイなどの金・銅、石油などの採掘権(延べ100年間の)を獲得している。特に、モンゴル経済の将来を担うとされる、オユ・トルゴイ鉱山(ウムヌ・ゴビ・アイマグ)に6000万ドルを投資している(モンツァメ通信2004.01.04)。この国債は2004年12月償還の短期国債である。この償還が可能かどうかがまず問題となろう(不可能なのは明らかなので、政府と当該社との間で償還繰り延べ、あるいは鉱山採掘権付与の密約があるかもしれない)。

しかも、アイバンホー・マインズ社による国債購入は、対ロシア負債返済額114億ドル返済と関係しているという。

この対ロシア負債については、以前にも言及したが、2003年12月31日、ロシア首相カシヤノフの書簡が届き、その中で、対ロシア負債問題解決(=114億ドルのうち98%を免除して2億5000万ドルを返済する)、が明言された。モンゴル首相エンフバヤルは、これを自らの政権の政治的勝利として、大々的に宣伝し、国民の注意を喚起しようと考えてか、文化宮殿でコンサートまで開いて、祝典を催した(ウランバートル・ポスト紙・電子版2004年01月08日付)。

この対ロシア負債問題は、政治粛清者名誉回復問題とと共に、対ロシア(旧ソ連)との政治・経済独立問題として、モンゴル国内では、1990年代以降、与野党間の最大の政争となってきた。

1990年代(広義には1980年代から)からこの問題に関わってきた、元首相ジャスライの証言によると(注:その下で実務を担当してきたТ.ナムジムの証言については、ナムジム著『モンゴルの過去と現在』に詳述されている)、ソ連時代は負債は援助と認識されていたが、ゴルバチョフ時代からその認識が「ハード」になった。民主同盟連合政権は負債問題協議を拒否した、と述べ、現野党・民主党の負債問題に対する対応を非難している(ウヌードゥル新聞2004年01月05日付)。

これに対して、現野党・民主党は、即座に反応し、元首相ナランツァツラルトは、対ロシア負債問題は議会が解決すべき、という立場をとったのだと語り、この問題に関して、専門家委員会を設立した。

この民主党・ロシア負債問題専門家委員会は、1月7日、見解を発表した。それによれば、エンフバヤル政権による負債問題解決は、1)野党国家大ホラル(国会)議員の申し入れを無視している、2)政府に支払い決定権を与えることは誤りである、3)2004年度予算に負債支払額が算入されていない、4)IMFとの合意事項に違反している、5)負債額の決定がIMFおよび支援国会合との合意がない、6)アイバンホー社が5000万ドルの国債を購入した、7)エルデネト社の生産物での返済が含まれている、8)支払い仲介社名を公表すべきである、さらに、1)振替ルーブルをドルで支払うことはモンゴル経済に混乱をもたらす、2)多額の返済金はモンゴル経済を混乱させる、3)融資返済能力低下を防ぐことができない、4)IMFとの合意に違反している、5)インフレを招く、という(ウドゥリーン・ソニン新聞2004年01月08日付)。

この見解は、説得力が極めて乏しい。というのは、この専門家委員会のメンバーが、委員長ナランツァツラルト、委員アマルジャルガル、ビャンバスレン、オチルバト、ツァガーン(元蔵相)、バーバル(元蔵相)、ツォルモン(元ロシア大使)であることからきている。

1990年代経済混乱を招いた張本人の一人ビャンバスレンは、首相としてロシアを訪問した際、生来の無計画性、広言癖を発揮して、突然、「負債として5億〜6億ドルを現金で支払う」と言って人々を驚かせたし、元大統領オチルバトは、政治粛清者問題はソ連の誤りではない、という文書に署名までした(後のその誤りに気がついて破棄)。だから、こうした人物たちが「専門家」として発表した見解は、「反対のための反対」の域を出ていない。

その根本には、対ロシア負債はソ連によるモンゴル植民地化の産物であるから返済不要である、という民主党の考え方からきている。現在、彼らはそこまで言えないから歯切れが悪いのである。

だから、人民革命党機関紙・ウネン新聞(2004年01月07日付)によって、「(当該「見解」は)他人の成し遂げた業績を否定し、自らの業績が皆無なため、空虚な装飾を見せる試み」、とあざけられる始末である。また、民主党内若手グループからもこの対応について非難が出ている(モンツァメ通信2004.01.08)。

さて、こうして懸案の負債問題が基本的に解決して、モンゴル経済は順調に成長するといえば、必ずしもそうとはいえないだろう。

オラーン財務相は、対ロシア負債問題についてのインタビューの中で、この返済は、「国内資産、外国および支援国会合からの特恵融資、国債によって行う」、と述べた(ゾーニー・メデー新聞2004年01月08日付)。オラーンは、今までは、1年先しか見ていない、とさんざん非難されてきた(自身がダリガンガ出身の少数民族ということでいわれのない非難を受けてきたということもあるかもしれない)。ここへ来て、オラーンの株も急上昇している。

「国内資産」というのはエルデネト社の銅・モリブデンの売却金、および畜産品をさす。これは問題なかろう。だが、「外国および(モンゴル)支援国会合からの特恵融資、国債」をそれに充当するという。

以前にも指摘したところであるが、懸案の負債問題を解決したと思ったら、再び、融資や国債によって、モンゴル人の子孫にその負担を及ぼすことになるかもしれない。

特に、今回、国債購入者(企業)が、アイバンホー・マインズ社である。モンゴルの地下資源をねらう、資本主義が忍び寄ってきている。(2004.01.13)

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