
NIC民営化が取り消された(2003年09月09日)
NIC民営化が2003年7月22日に成立したことは前に取り上げた。このNIC民営化が、2003年09月09日、取り消された。
国有財産委員会は、9月9日、特別会議を開き、民営化顧問である米「バレンツ」グループとNIC経営陣の出席の下、NIC民営化の無効を決定した。落札企業(「イースト・オイル・インターナショナル」コンソーシアム)が落札金額の払い込みをしなかったことが表面上の理由である、とウヌードゥル新聞(2003年09月10付)は報じた。
だが、これは「表面上の理由」にすぎず、ウヌードゥル新聞(2003年06月11日付)は続報で、国家安全保障会議と中央情報局は、NIC民営化がモンゴルの経済・安全保障を脅かす民営化である、(したがって)NIC民営化を無効にして、10月に再度実施しなければならない、と決定したのを受けたものである、と報じた。
中央情報局は、NIC民営化以前から、、「イースト・オイル・インターナショナル」について調査していた。その調査報告によると、当該企業は信用がおけない、という。さらに、外国の関係筋からもこの落札企業について、黒いウワサが報じられていた。また、落札企業は国有財産委員会委員長に賄賂を贈った(らしい)(ウヌードゥル新聞(2003年06月11日付)。
ここで問題になるのは3点であろう。
第一に、「モンゴルの経済・安全保障を脅かす」、というのはどういう意味か、という点である。「イースト・オイル・インターナショナル」コンソーシアムの代表として、7月22日、「ペトロリアム・プロダクション」社社長ケリゴフがモンゴルに来た。この会社は石油収入ではない資金(不正蓄財)によっている、という。彼は、ウワサによると、チェチェン入国を拒否された亡命者(注:チェチェン・マフィアを示唆している)だと言われている(モンゴリン・メデー新聞2003年09月11日付)。
つまり、前の時評で「プーチン寄り」と記したが、正確には、エリツィン人脈(とくに政商ベレゾフスキー)から、プーチン系に寝返った、ということになろう。
こうした人物がモンゴルの石油供給網を掌握した場合、経済的には、その石油収入がマフィアの資金源になるだろう。また、石油供給がマフィアの手にゆだねられたら、モンゴルの「安全保障」は脅かされるだろう。
第二点は、贈収賄についてである。この点を報道したのは、当然のことながら、ウドゥリーン・ソニン新聞(2003年9月10日付)である。この新聞は、民主党の宣伝紙になり(下がって)おり、民主党が腐敗しているから、と言うわけでもあるまいが、憶測でよく報道する。それはさておき、その収賄者は、国有財産委員会委員長プレブドルジの他、ホブド出身の政府高官だという。
最近、民主党と「祖国ー民主」同盟を結成した、民主新社会党は、その新聞(「モンゴリン・メデー」2003年09月11日付)で、さすがにそこまでは言わず、「未確認だが」と書いている。
確かに、「確認」は困難である。国有財産委員会委員長プレブドルジ自身は、「私は賄賂を受け取っていない」という(ゾーニー・メデー新聞2003年9月11日付)。自分から賄賂を受け取った、とは言うまい。いくら正直なモンゴル人としても。
ただ、バレンツ・グループ代表(NIC民営化顧問)Ж.ネノフは、「入札は公正だった」、「(賄賂を受け取ったというのは)新聞の誤報である」、と証言している(ゾーニー・メデー新聞2003年9月12日付)。
筆者は、今のところ、これ以上確認する資料は持っていない。今後の課題としておきたい。(補注:その後、2003年10月23日、ケリゴフを含む、「イースト・オイル・インターナショナル」コンソーシアム代表数名がモンゴルを訪問した。彼らは記者会見を行い、当社はチェチェン・マフィアとは無関係である、と言明し、さらに、国有財産委員会による決定を再考するよう要求した[ウヌードゥル新聞2003年10月24日付]。彼らは、その席上、国有財産委員会の幹部には賄賂を贈っていない、と述べた[ゾーニー・メデー新聞2003年10月24日付]。もちろん、これは戦略上述べたにすぎない、という見方も成り立つ。というのは、この後、これら代表たちは、国有財産委員会委員長プレブドルジらに会う予定があるからだ。だが、一つの証言ではある。[2003.10.27])
最大の問題は、この民営化の是非である。前にも書いたが、この民営化は、「社会主義経済完全払拭を目的とした、拙速の政策」であって、「国民経済に深刻な影響をもたら」す「危険性が」極めて高い。
モンゴル中央情報局も、その懸念を以前から指摘していた。どういう訳か(注:注意深く筆者の今までの文章を読んでいただければ「訳」はあるのだが)、それが無視されて、国有財産委員会委員長プレブドルジはNIC民営化を急いだ。まさに、「拙速」というしかない。
この民営化も止めるべきである。(2003.09.15)
