NICが民営化された(2003年07月22日)

国有財産委員会(SPC)は、モンゴルの国営基幹産業であるNIC(Neft Import Concern)を、外資企業を含めた公開入札(競売)によって、2003年07月22日、民営化した。

NICは、石油輸入・配給企業で、唯一、全国的な流通網をもつ。モンゴルでは、石油は戦略的製品なので、NICは国営企業だった。すなわち、NICの全株式2095万960株のうちの80%に相当する1676万768株が政府所有だった(残りの20%相当分は証券取引所を通じて公開)。それが、IMFプラン(PRGF=貧困緩和開発戦略)に基づいて、民営化されたわけである。

モンゴル国営企業の運営と民営化を管轄する、国有財産委員会(SPC)は、公開入札(競売)によるNIC民営化に際して、最低入札価格361万3000トグルグに設定していた。この価格をクリアーした企業が入札参加企業として、それぞれの企業戦略、入札価格を記入し封印し、「最善」の企業が落札する、と言う仕組みになっていた。

ちなみに、この公開入札(競売)に最終的に残った企業は、マグナイ・トレイド、アルトジン、ジャスト、イースト・オイル・インターナショナル・コンソーシアムの4企業だった(ウヌードゥル新聞2003年07月22日付)。

マグナイ・トレイドは、民主党・旧社会民主党ゴンチクドルジの影響下にある。アルトジンは、故エネビシ国家大ホラル(国会)議長寄りの企業である。ジャストは、NIC現経営陣の一部が経営する。イースト・オイル・インターナショナル・コンソーシアムは、モンゴル・キプロス・ロシア合弁企業である。この企業は三大ロシア石油企業の一つで、プーチン・ロシア大統領寄りであって、シベリアにパイプライン敷設し、日本へ石油を供給するプロジェクトを推進しようとしている。なお、ユーコスという、ロシアの三大石油企業の一つは(会長がユダヤ人企業家フドルコフスキー、大株主がプラトン・レベデフというマフィア)、汚職を理由に入札企業から排除された。この企業は中国へのパイプライン敷設を企てている。つまり、モンゴルをめぐってロシアと中国の綱引きが行われていた、と見ることもできる。

7月22日、国有財産委員会は封印を解き(これをモンゴル国営テレビが映していた)、有力だと見られていたアルトジンは、書類不備のため除外され(やや意図的に見えるが)、イースト・オイル・インターナショナル・コンソーシアムが732万ドルで落札した。

この民営化をどう見るか。

モンゴルにおいて、国有財産および国営企業の民営化は、いままで何度も指摘してきたように、うまく機能していない。NICもその例になるのかどうか、というのが問題になる。

売買契約に署名した、「イースト・オイル・インターナショナル・コンソーシアム」代表のЗ.ケリゴフは、次のように述べている。「モンゴル人に安価な石油を供給することは約束できないが、安定した価格で、品質のよい生産物を供給する」、と(ウヌードゥル新聞2003年07月23日付)。

現在、モンゴル人が所有する自家用車は、そのほとんどが中古車である。この中古車は、世界的な環境基準を満たさない車で、ウランバートル公害の元凶の一つになっている。だが、モンゴル人の所得状況を考えれば、新車購入はとうてい無理だろう(こうした状況は5年は続く、と専門家は見ている)。この中古車のオイルは、石油精製度の低いものを使用する(ロシア製A76およびその数値以下のもの)。すなわち、「品質のよい生産物」は、現在のところ、モンゴル人には不要である。モンゴル人には、「安価」なオイルこそ必要なのである。それを「供給すること」ができないという。つまり、オイル値上げが予想される。

モンゴルの地方に行くとわかることだが、へんぴなところでも営業するのは、NICである。これは、オイルを必要とする地方のモンゴル人のために、政府が「戦略」的に営業しているからである。こういったところには、「自由」を「勝手気まま」と解釈し(すなわち政府の干渉を極力排除することを主張し)、利潤追求に汲々とする、マグナイ・トレイドなどはまず来ないだろう。

NIC民営化で、地方のガソリン・スタンドが消えていく危険性が高い。あるいは、消えて行かなくても、「安定した価格」(すなわち価格の値上げ)で、地方のモンゴル人は購入せざるを得なくなるだろう。

第三に、先ほど指摘したように、「イースト・オイル・インターナショナル・コンソーシアム」は、ロシアのプーチン大統領の影響下にある。プーチンは、シベリアを経由し、日本へ石油を輸出する、という戦略を持っている(核戦略も)。この戦略にモンゴルが組み込まれる可能性が高い。すなわち、モンゴルの国家的独立が侵害される可能性がある。

元来、こうした「移行経済」における「民営化」は、IMF(もちろんその背後には米国がいる)が社会主義経済完全払拭を目的とした、拙速の政策であった。これは、国民経済に深刻な影響をもたらしてきた。その危険性が今一つ加わった。(2003.07.28)

(追補)ウヌードゥル新聞(2003年09月08付)の報道するところによれば、NIC民営化の結果、民間銀行が融資を中止した。そのため、NICは資金(石油輸入費)不足に陥り、石油輸入ができなくなり、特に地方で石油不足になった、という。やはり、危惧された事態が起こった。(2003.09.11)

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